あだ名由来辞典

 

──昭和期まで 日本人のあだ名とその由来記

 

 

 

       荻生待也著

 

日本人の渾名・異名などを由来つきで解説!

渾名を知ることで、人物の人となりをイメージできます。

『ニックネーム由来事典』は、日本人の渾名とその由来記の集成です。コンテンツを通してニックネームのノウハウも理解できます。02『日本人名博学辞典』は姉妹書です。

 

 

あだ名由来辞典プラウザ上の仕様

 

題名●あだ名由来辞典

 

編著者●荻生待也

 

出版社●おぎぶん工房

 

商品番号●おぎぶんe-book08

 

製作年月●20176月 更新

 

カテゴリー●人名>日本人のあだ名

 

本編の構成●あだ名とは→収載の対象→目次→本文→出典→逆引き索引 人名は五十音順配列  各あだ名の由来を中心に解説

 

各項の構成●人名見出し→ひらがなよみ→略解→あだ名→あだ名の由来等解説

 

本文の基本設定●A4判横書き、MSゴシック体10.5(見出し12) 20字×36行×2段/1ページ 関連画像入り

 

収載項目数●約1630余人(索引記載延べ3000)

 

電子仕様●原稿はWINDOWS 7 Microsoft Word2010によるデジタル化

 

ボリューム●延べ294ページ、17.9MB

 


あだ名の由来を入れた辞典は初めて


ニックネーム付けのスタイルを分析

 

渾名とは nickname

 

──序に代えて

 

あだ名は、当人の特徴などによって実名以外に他人が付けた呼称である。その範囲は、追って述べるように、想像以上に広い。

たいていの人は、物心つく頃に遊び仲間から渾名を付けられる。付けられたあだ名がひどいものでなければ、当人は目くじら立てたりしない。ユーモラスな呼びかけに嬉々と応じる姿さえ見られる。子供社会では社交辞令のようなものになっている。

明治天皇は、身近な女官に片端からあだ名を付けられことで知られている。

また民俗学分野にうかがえるように、昔から「実名敬避」といって、親などが付けてくれた名前を敬遠し別の呼称にすり替えてしまう習俗がある。もとは縁起をかつぐ忌避俗信から由来したもので、別名を付けることによって災禍が避けられると信じていた。

さらに、古代は、「鬼麻呂」とか「糞若」といった卑俗な名を用いる傾向が強かった。常識外の命名により厄神を追い払えるといった信仰に根ざしたものである。そのため今考えるとバカバカしいような名前が、堂堂とまかり通っていた。こうした事実から、日本人はあだ名付けや異称付けが巧みで、付けられるほうも比較的寛大であった、といえるのだ。

親または名付け親から付けられた実名は、姓と合わせて、本人を他人と識別するための単なる符牒でしかない。そんな存在に不満だからと自分で付ける雅号やペンネームなども、結局は客観性に乏しく、どちらかというと独り歩きしてしまう性質のものである。

ところがあだ名・異名の類となると話は別で、他人または複数の第三者がそれなりの理由をもとに付ける。いわば本人の周辺社会が贈ってくれた公認の名前。つまり単なる標識符丁を超えて客観性が付与され、当人の個性が投影される。そこには近親感とか嫌悪感といった第三者感情の移入が見られ、ときには陰のドラマに仕立てられる。とくに有名人のあだ名・異名の場合、人間がもつ本来的な野次馬根性や覗き見趣向を満足させてくれることが少なくない。

なおあだ名を付ける動機は親愛感、仲間意識、尊敬、侮蔑、嫉妬、からかい、いじめ、嫌悪、悪態、標識特性、そして大半は面白半分に、である。

 

あだ名付け10 のタイプ 

一般にあだ名は、次の10タイプが考えられる。

  性格……〔例〕つむじ曲がり

  見てくれ……〔例〕鼻低天狗

  語りぐせ・失言……〔例〕奇声居士

  簡略称……〔例〕アラカン(嵐寛寿郎)

  人名もじり……〔例〕バタバタキャンソン(荒畑寒村)

  権力・威勢……〔例〕競艇のドン

  先人踏襲……〔例〕最後の太鼓持

  実績・業績……〔例〕ロボットの父

  居住地・活躍地……〔例〕マレーのハリマオ

  特技の発揮……〔例〕失神作家

 

あだ名を斜に構えて見ると

●あだ名は人世における見えざる勲章である。

●あだ名は親しみを表すバロメーターである。

●あだ名は幼児が最初に覚える言葉遊びである。

●あだ名は人物像に貼り付けられた落書である。

●あだ名は加齢と共に減衰する人間関係である。

●あだ名はその人に対する最も公正な人物評である。

●あだ名はまだ仲間はずれにされてない証拠物件である。

●あだ名は著名人にとって有名税である。

●あだ名は政治家の公約以上に信頼できる根拠をもつ。

●あだ名は人世において、愛のささやきよりも強くして長し。

 

あだ名付けの名人、稲垣足穂

逸話を一つ紹介しておこう。

「渾名付けの名人」と称された作家がいた。稲垣足穂(19001977)がその人で、バカ方面の博物学、天文学、それに男色についての造詣が深い異色の人物である。文壇のお瀝瀝をブッタ斬った次の愉快な一文から異才ぶりをのぞいてみよう。

室生犀星は「田舎のハンコ屋」、宇野浩二は「田舎の指物師」、武者小路実篤は「バカが大きくなって手がつけられない」、川端は千代紙細工、永井荷風は三味線弾きのスネ者や。小林秀雄はテキ屋、夜店のアセチレンのにおいがする。新しいところでは吉行淳之介、安岡章太郎なんてのはもたれ合いでマスかいているようなもの。大江健三郎は一種の知的ゲイ。小松左京というのは面白いやっちゃ。ボクのことをタルガキホタルなんて書きよって……

稲垣は一時師事していた佐藤春夫を「類推の名人」と評しているが、本人もまた「あだ名付けの名人」との評価を高めた。掲出文の出典は失念したが、たしか大宅壮一との座談での発言だったと思う。

 

収載の対象

ここでいう「渾名」とは、第三者によって自然発生的に付けられたものを対象としている。具体的には、俗にいう

  渾名

  ニックネーム

  親称・愛称など(異名)

をさす。このほか他人が付けた「二つ名」(例 夜嵐お絹)も繰り入れてある。

 本集収載の渾名を付けられた人物は、原則として、公共図書館等で渉猟できる古今の有名人物を対象にしている。また、架空に近い伝説上の人物あるいは無名の人物であっても、特異な称名である場合に限り例外として載せてある。

 収載した人名数は約1630、延べ渾名数は約3000である。

 

対象から外した名前

 贈り名の類((いみな)追号(ついごう)諡号(しごう))および戒名は本人没後に付けられる形式命名で、渾名とは別の体系のものであり、本書では対象外としている。

 芸名、筆名(ペンネーム)、源氏名、四股名、号、肩書、法名、偽名などは自然発生したものでなく自ら意図的に付けられる形式命名なので、渾名の対象に入らない。

●大田南畝の例

個人称の複雑なことで知られた大田南畝(56ページ参照)の呼び名については一般に次の仕分け方が採られ、本書では⑦渾名 だけを対象にしてある。

  姓……大田

  名……覃(ふかし)

  (あざ)……子耜 (シジ)

  通称……直次郎、七左衛門  

  号……南畝、四方赤良、滄洲楼、巴人亭、蜀山人ほか多数

  法号……杏花園心逸日休 以上①⑥は形式命名

  渾名……気まぐれ先生

 

本コンテンツの目的は、人物にその渾名がなぜ付けられたかを明確にさせるためのものである。人物の経歴等は外してあるので、必要に応じネット検索や人物事典等で調べていただきたい。

有名人の明らかな渾名であっても、その由来情報が入手できなかったものについては、原則として掲出してない。

ただし、由来が定かでない場合であっても、出典が明らかなものについては、そのつど出典名を掲げることで説明に代えてある。

見出し人物の配列は五十音順になっている。