現代、創作での人気筋。難解で挑戦者が多いものの作品は無理不自然が目立つ

14 回文系 かいぶんけい 

 

(かしら)から読んでも尻から読んでも同じ音で、どちらも無理なく意味が通じる語句や文章を〈回文〉という。古くは〈輪廻(りんね)〉ともいい、現代作品は〈アナグラム〉の系統にも属する。言語遊戯を代表する大系の一つであるが、仕上がった作品ほとんどが遊戯としての深味に欠けるのが難点だ。

〈回文〉の発祥は中国で、わが国では平安時代に和歌がそれを見習った。うち最古の作とされているのが藤原基俊著、仮託形式の歌論書『悦目抄』で、次の二首を所収してある。

廻文とは、かしらよりも下よりも同じ様によまるるなり、これは小輪尼が歌なり

  むら草に草の名はもし(そな)はらばなそしも花の咲くに咲くらむ

  惜しめどもつゐにいつもと行春は悔ゆともつゐにいつもとめじを

〈回文」は当時、すでに詠歌の一技法として注目されつつあつたわけだ。〈回文〉作りでは、次の三点が規範になっている。

       濁音は静音に同じとみなす。

       促音「っ」を「つ」に、逆に「つ」を「っ」用いても可。

       拗音「ゃ」「ゅ」「ょ」を「や」「ゆ」「よ」に、逆に「や」「ゆ」「よ」を「ゃ」「ゅ」「ょ」に用いてもよい。

このような最低限の融通性はあっても、〈回文〉創作では、文字数が増えるにつれて難度も高まっていく。そのため言語遊戯中でも「大人の遊び」の領域にあり、新作への挑戦者が絶えない。〈回文〉表現のジャンルもあらゆる文芸分野に広がっている。

〈回文〉が現代でもいかに人気のある遊びであるか、書店や図書館の書架を見れば一目瞭然だ。大型書店になると、他の言葉遊び分野の諸冊を引き離し、十冊二十冊と類書が並んでいて選択に迷うほどである。ただし〈回文〉は、語句が長いものほど不自然さが拭いきれないという決定的なハンデを負っている。また長い詞章ではどこか病み上がりのような痛ましさが感じられ、玉に瑕となっている。そして残念ながら三十一(みそひと)文字以上で、これは素晴らしいと感嘆するような作品に、筆者は〈乙田回文〉を除いてお目にかかったことがない。

本章については、〈回文〉類書との重複の愚を避けるため、さらっと概述するにとどめる。

輪廻転生の仏教画 回文は言葉の世界での輪廻を象徴

 

 

14 回文系の目録(五十音順)

 

乙田回文     

回文歌

回文〔狂歌〕

回文〔語と名〕

廻文〔雑俳〕

回文〔長文〕

廻文〔俳諧〕

回文〔文句〕

回文〔連歌〕

回文〔ローマ字〕

回文題〔川柳〕

 

 

乙田回文 おつだかいぶん 

大阪で遊戯文芸研究家として活躍しておられる乙田東洋司氏(笑鬼会本院会長)には、本書ほか筆生著作へ快く何点もの作品を寄せていただいている。作品(網目襷、回文、無同字歌等)は、いずれも傑作ぞろいで、氏の達人振りを雄弁に語っている。

なかでも高等技術を要する回文歌は、どれもが甲乙付けがたい傑作である。荻生はこれら一連の回文歌を〈乙田回文〉と称し、紹介かたがた氏の功績を称えさせていただく。

【例】

勢揃い七福神「回異文宝船」                                   乙田東洋司

みな(うた)う (たた)(さいわ)い (はつ)()富士(ふじ) (みなと)まいれば ()(はる)(なみ) ←

(みな)()るは (はつ)()(いま)と (なみ)()(ふね) ()(いわ)()え 多々(たた)うたう(なみ)

※さか様に読めば一首が二首となる。

迎春回異文歌                                           乙田東洋司

白雪(しらゆき)や (さけ)()()(もと) (つも)()に (こと)()(うま)し (さや)けきや(まつ) ←

 (つま)()け (やさ)()()(とこ)(はる) もつとも(ゆめ)今朝(けさ)()ゆらし

 ※さか様に読めば一首が二首となる。

丑歳称賛回文歌                                          乙田東洋司

神式(しんしき)で (きみ)(みのる)は ()(とし)(うし)」 常春(とこはる)(みや)神酒(みき)()(しん)

※ただいま読みしこの短歌、さか様から読み上げてもおなじこと。世の中如何に転じても「丑歳」脈々と成り立ちぬ。

新春ローマ字回文                                         乙田東洋司

 おだやかに あけぼの野辺か                                       田舎宿

(ODAYAKA NI  AKEBONO NOBE  KA

INAKA-YADO)                                                 冗皇

現代の回文和歌                                                     乙田東洋司 

 回文歌 かいぶんか 

〈回文の和歌〉とも。回文詠みの和歌をさすが、長歌の作は残されておらず短歌だけである。ただし、各句回文のものを寄せ集め長歌に整えたものに石田未得の作例があるので、例示しておこう。

短歌三十一文字では上句と下句との構成が十七音・十四音と異なるため、回文として詠む

のが非常に難しい。しかも作歌上の制約が多いのも和歌の特色であることから、回文だとどうしても無理が生じ、歌体に不自然さが現れてしまう。枕詞や掛詞などは使用を断念しなくてはならないこともあろう。

こうした事情から、回文の和歌の例はいくつかあっても、傑作にはなかなか出会えない(既出「乙田回文」はその例外)。ただ伝承歌の中に一首だけ、歌体の比較的ととのった秀作があるので掲げておこう。                        よみ人しらず

  ながきよのとおのねふりのみなめざめなみのりふねのおとのよきかな

 宝船に七福神が描かれた刷り物〔笠間良彦『大江戸復元図鑑』より

【例】

回文短歌

                                       藤原隆信

▽長き夜ののもはるかにてそまくらくまそでにかるはもののよきかな &『藤原隆信朝臣集』

                                                                    頓 阿

▽とくただし里のたかむら雪白し消ゆらむ方のとざし叩くと &『草庵集』

                                       石田()(とく)

▽白雪は今朝野良草の葉にもつも庭の桜の咲けば消ゆらし &『吾吟我集』

半井(なからい)卜養(ぼくよう)

雉子(きじ)(れう)る今や君のみその友と望みの御酒(みき)やまゐるうれしき &『卜養狂歌集』

                                       富士御杖(みつえ)

▽なが妻を(みぎは)に高し一つ松()ひし方には君を待つかな &『北辺御杖大人家集』

                                       本居春庭(はるにわ)

 ▽眺むらむ(かど)()ひなば草に木に咲く花人を咎むらむかな &『後鈴屋集』

                                       賀茂(すえ)(たか)

▽白雪はなへつつめども小野山(をのやま)や野を求めつつなば消ゆらし &『雲錦翁家集』

                                       よみ人しらず

▽きし涼むすずみて泉むすぶらうすむ水出でみ涼むすずしき &『紙屋川水車集』

各句回文詠みの長歌                                          石田未得

萩がきは (とひ)よるよ人 よき月夜 虫をばおしむ 時秋と 風が夜風か をちこちを 霧なくなりき 紅葉(もみじ)見も 錦の岸に めぐりくめ (かん)のを飲むか けさの酒 おもしろ霜を 橋々は りくつにつくり つづけつつ 庭の木の葉に 遠き音 聞きて()て聞き 北は滝 西かひがしに 水いづみ 鴨かるがもか (さぎ)秋沙(あきさ) 雁と千鳥が つれづれつ (しぎ)なほ鳴きし (はね)がきか()は 

&『毛吹草』

 

回文〔狂歌〕 かいぶん/きょうか 

 同じ三十一文字でも狂歌は和歌にくらべ作歌上の制約が無に等しい。五七五七七の韻さえ踏んでいればよい。〈回文の狂歌〉でなら、作為に伴う多少の無理も、洒落や言葉の綾のなかへ逃げ込ますことも可能である。 

しかも天明狂歌が盛んになるまでは、狂歌は興歌とも表し、詠み捨てが常識であった。誰もが自由闊達な気分で()れ読みに徹しられたのである。それかあらぬか、回文では和歌以上に狂歌のほうが鑑賞の興をひく佳作が目立つ。

【例】

回文の古典狂歌

                                                               石田未得

▽また飛びぬ()()とあはれ主知らじ死ぬれば跡をとめぬ人魂 &『吾吟我集』

                                                              紀 定丸

▽宿屋どもたまにも()ひぬばくち打食はぬ日ともにまたもどやとや &『狂歌才蔵集』巻十四

                                                           錦宇楼笑寿

▽ながめむに老の身の楽またしばし手枕の身も庵に梅かな &家集『回文歌百首』

珍無類の回文狂歌

  一休詩歌を作りて(たこ)をくひ給ふ事

一休和尚は蛸が御好物にて、或日のつれ〴〵にたこを買につかはれけるに、折ふし棚にきれて、彼つかひの者ここかしこと尋て、おそくかへりければ、待わび給ひて一首(はべ)りける、

 此たびはいそぐといふにながそでのたこの入道みちのおそさよ

とあそばしけるところへ、蛸四五盃買もて来りければ、一休喜び給ひて、「此たこむざ〳〵と食ふもむざんの事なり。引導(いんだう)(じゆ)なくては」とて、一首、

 千手観音が蛸の手多し/刺つて柚子をかけて如何とか拝せん/佐 州一味天然別/他の禁戒老尺迦に任す

「やれ、引導はすみけるぞ。火葬にすべきか土葬にせんか。いや〳〵すひさうにせよ」とて、手取り足取り、……『一休ばなし』巻一

 歌川豊国描く一休禅師

《参考》

和田信二郎

武蔵国熊谷の住人、大福窓(錦宇楼)笑寿は好んで狂歌を読み、殊に回文歌に深い興味を持ち、その読んだ歌数は挙げて数へ難いほどであつて、江戸の師から錦宇楼といふ号をもらつた。その数多い回文歌を友人放生庵・風月楼・鈍々亭などが整理して百首を選び出した。それに追加二十二首、別に八首、発句六首を加へ、計百三十首を集めて「回文歌百首」と題したのが文化十一年(1814)であつた。今そのなかから五首ばかり抜いてみやう。

     花

  桜木のもとにみなはや今朝も来も酒や花見に友の気楽さ

    霧

 宿る露玉は軒端の葉に繁げし庭の萩の葉また譲るとや

    恋

 知らぬ身がつい思ひ出し口説(くどき)泣き解く下紐をいつか見ぬらし

    無常

 悔ゆべきにいつも見ぬらし人の世の問ひ知らぬ身もついに消へ行く

    伊勢参宮

 日頃よい長きよき春今伊勢い参るは清く家内よろこび 

&『巧智文学』回文

 

回文〔語と名〕 かいぶん/ごとな 

〈回文の語と名〉は四~五音節程度までのものが多く、回文を意識して創作したもの以外にも日常慣用句などの言葉にたくさん含まれている。ただしこれら短句型は、すでに成語としてほとんど漁り尽されており、創作上の楽しみは薄い。

【例】

音節数で

▽二音節──父、母、耳、桃、九九

▽三音節──衣類、八百屋、宿屋、かじか、夫婦

▽四音節──さあ朝、きつつき、待つ妻 

▽五音節──今朝の酒、田植歌、たぶん豚、がけでけが、新聞紙

▽六音節──那須野の砂、安い椅子屋、軽いいるか

▽七音節──確かに貸した、烏賊食べたかい、かたきがきたか、なつまでまつな

▽九音節──釧路より宜しく、私負けました

▽十音節──池の名は「花の景」

▽十三音節──手袋の逆さのろくぶて

▽十四音節──咲く花は咲く草花は草

▽十五音節──すましたいい()に恋いたしま

▽十七音節──品川に今住む住まい庭がなし

▽二十五音節──だけどおイモを食べずいじらしいスベタ思いをとげた(三村量一作)

 「ぼんさんさんぽ」程度の誤差はお釈迦様も許してくれる 

名称(平仮名) 

▽人名──こいけけいこ、おけたにたけお、おまたたまお

▽地名──たばた(田畑)、たつた(竜田)、きつき(杵築)

漢字成語(音読み)

新年年始、人災大惨事、力士会館全階貸切

俳諧用語(古典)

三上、竜田、春日、竹田、轆轤(ろくろ)、具足、色紙、神事、功徳、(しるし)(きさき)川鹿(かじか)、野辺の、(のり)

&『毛吹草』追加編・下

 

廻文〔雑俳〕 かいぶん ざっぱい

〈廻文 雑俳〉は、各種雑俳を回文仕立にしたものである。種別では〈前句付〉が圧倒的に多く次いで〈下句付〉となっているが、ほかの形態のものはほとんどみられない。作句に二重三重の縛りが課せられるためである。

なお雑俳の場合、回に代りの字を用いるのが通則である。

【例】

前句付

▽御意見がしみてしてみし寒稽古

 『新編 柳多留』二

▽北をしめ冬の夜の夕飯(ゆうめし)を焚き

 『新編 柳多留』十九甲

(につく)いな素肌(すまた)でだます舟比丘尼

 『新編 柳多留』二十六

▽祝ひ呑み今朝ぞ屠蘇酒身の祝

 『新編 柳多留』二十七

▽咲く数は十日咲かうと二十日(はつか)(くさ)

 『新編 柳多留』百六十四

▽もどろふか二階はいかに禿(かふろ)ども

 『花紋日』

▽願はくは泉の水井湧くは金

 『とはず口』

下句付

▽威勢好みか神の御いせい

 『毛吹草』追加

▽おどらむ狸きぬた村遠

 『紙屋川水車(みずくるま)集』

▽まさしく病むな南無薬師様

 『享保十二年信州万句合』廻文歌仙

近代川柳(投稿作品が中心)

▽いらわれて年など無しと照れ笑い

▽今朝花見旦那はなんだ皆は酒

▽袈裟を着て羽柴(はしば)暫しは敵を避け

▽信心が届いていとど感心し

▽丹波出て当時二十(にじゆう)と手で番太

▽忠義だが知らず珍らし敵討

▽通夜半ば拗ねて不貞寝(ふてね)すバカな奴

▽皆春で苦なく欲なく出る花見

 

回文〔長文〕 かいぶん/ちょうぶん 

回文は、比較的音数の少ない川柳一つ作る場合でも、それなりに苦労する。まして百字を超える長文ともなると至難の技に近い。

日本唯一、五四七字の回文を成した島村桂一などは名人といえよう。

【例】

古典より

身の愚老(ぐらう)いて句合(くがふ)なれば村家(むらや)流布(るふ)でそのご(なが)(とを)き世の感吟(かむきん)其角(きかく)夫子(ふうし)の句よき端午(たんご)雅友(がいう)角力(すもふ)()をなす()の錆し(てふ)も飛ぶ絵の(しよ)の名は華見(はなみ)集異(しうい)に車の輪のごとくとや(とく)此輪(このわ)の丸くに有志(いうし)御名(みな)は花の吉野え不図(ふと)(もふ)でし(ひざ)(のば)(なほ)()()(もす)(そう)()此度(こいだ)曲の衆服(しうふく)()(むき)無我の()き乙女かなでの袖振やらむはれな舞楽(ぶがく)遊楽(いうらく)のみ 

&『廻文俳諧華見集』跋

 

廻文〔俳諧〕 かいぶん/はいかい

〈廻文の俳諧〉は別に〈廻文句〉とも云い、俳諧を回文に仕立たものである。

 俳諧では「廻」の字を当てるならわしになっている。

 俳諧は短歌に比べ音数が十四も少なく、しかも中七を央に据えて上下に展開できる対称形になっているため、短歌よりもはるかに作りやすい。そのためであろうか、秀作も少なくない。

【例】

石田未得作の三句

▽知らぬげに案山子に鹿が逃げぬらし

▽悋気云ひ腹立てたらば贔屓むり

▽しつくりとお家の塀を取崩し

&家集『廻文俳諧百韻』より上句を抜粋

 更作の三句

▽折るな枝鶯ひくう妙なるを

▽敷砂はきよみぞ見能き花透きし

▽出入り問ひ安きに寄すや独居て

&家集『廻文俳諧歌仙』

有名俳人の回文句寄せ

▽闇のみが見よき月読神の宮     立 圃

▽今朝沢山(たんと)飲めや(あや)めの富田酒(とんだざけ)       其 角

▽元の名は弓取りと見ゆ花の友    美 成

▽田は月か野辺は沢辺の杜若(かきつばた)      重 政

▽長座敷今朝過ごす酒雉子(きじ)(さかな)      道 節

▽さく見つつ摘まで待て待つ堤ぐさ  也 有

《参考》

廻文俳諧                                                  山県氏

ながめしはのぎくのくきのはじめかな

  さくはなさくくさばなはくさ

  てりふりきにはよくよはにきりふりて

  つきさかりつつつつりかさきつ

  しらぬげにかかしにしかがにげぬらし

  ゆみはりとらむむらとりはみゆ(中略)

この一まき、去年の秋、雨中徒然のふしものに、廻文をおもひより、あらぬさまの事を、百句につづりて、

  よみをくるともとしかきしはいかいかいかいはじきかじともどるくをみよ(中略)

  跋                                           長頭丸(松永貞徳)

去年一巻廻分の俳諧を、何国ともなくもて来り候、上古の歌仙さへ難儀事にて、廻文の誹諧稀に候を、当時此如く自由自在作り被遊候、丸が如きおつろへたる中にては、きゝ届申事さへならず候、

扨も〳〵奇妙の御作意に而候、猶常々誹諧承度候 

&視聞(みきき)(くさ)』四集二巻

 長頭丸こと松長貞徳像

 

回文〔文句〕 かいぶん/もんく 

〈回文の文句〉は、日常語を始めことわざ、口承の洒落、名文の一節など多岐に及ぶ。音数や七五調などにとらわれないことから、創作しやすく、作品数も多い。

【例】

古典歌学書より

白鳥捕らじ、むかばき穿()かむ、隅のまの御簾(みす)、小猫の子猫、獅子の子の獅子 &『悦目抄』

回文江戸(ことば)の伝承

いかにも(にが)い、田舎の家内、柄が長柄、聞くぞ憎き、草花咲く、親しくしたし、たしかに貸した、竹屋が焼けた、くやし心の九尺(ここのしやく)、伊丹の酒今朝飲みたい、失せましたがいかがいたしませう、夏まで待つな、西か東に、磨かぬ鏡、良き月夜(後略)

書物の題名集                                           蓬莱春昌編

孫の独楽(こま)、泣くな泣くな、(いか)を買い、(けつね)の根付、麻耶(まや)の山、やかな蚊帳(かや)、僧の嘘、寝屋の屋根、片目鷹、枡の(すま)(とこ)仕事、闇の宮 &『廻文題柳樽』

 

回文〔連歌〕 かいぶん/れんが 

〈回文の連歌〉では、連歌一番(上句と下句の組合せ)を対象とした作品は見当たらず、上句・下句それぞれを分けて回文としている。

【例】

魚の歌合(回文連歌表八句変換に伴うレイアウト崩れ

 

                                       木下長嘯子(ちょうしようし)

▽長き名やたまのせのまた柳かな           長々し鱧之丞(はものじやう) 

  消ゆるなかとの長閑(のどか)なる            唐衣鱚子(からころもきすご  )

照るれば皆春日(はるび)の昼は皆晴れ          烏賊(いかの)(かふ)()衛門(えもん)

 

  月(つき) (ひと) 男 事 を() ひ 来 つ         公事沙汰鯖之(くじざたさばの)(すけ)

 

風や草花は咲くやせかたき            鯒玉之(こちたまの)(すけ)

 

   宿元惜しむ虫を友とや 

 

(さはら) びやしの助

 

   見慣れなば群鳥(むらとり)取らむ放れ 

 

はなだれの(たれ)(すけ)

 

回文〔ローマ字〕 かいぶん/──じ 

和文字表記のままだと回文にならないが、ローマ字表記に置き換えると回文になるものを〈回文のローマ字〉または〈ローマ字の回文〉と呼ぶ。当然のことながら、語頭の一字と語尾の一字は母音あるいはNとなる。

なお、回文作りでは「ヘボン式」ではなく「日本式」表記を当てることになっている。

【例】

人名

岡津唄子→OKATUUTAKO

*漢字氏名がローマ字で回文に化ける。泡坂妻夫の小説『喜劇悲奇劇』に出てくる人物。

地名

IKI(壱岐) AWA(安房、阿波) AKASAKA(赤坂)

成語

AMASAMA(尼様) AREDERA(荒れ寺) ITINITI(一日) IRORI(囲炉裏) USOBUKUBOSU(うそぶくボス)

 

廻文題〔川柳〕 かいぶんだい/せんりゅう

雑俳用語に〈川柳の回文題〉というのがあり、川柳の句題を回文に仕立たものをさす。

 この回文の対象は句題そのものであり、川柳作品自体は回文になっていなくともよい。なんとも野放図な文芸形式である。

【例】

回文題のみ(抄出)

                               蓬莱春昌画文

獅子の子の獅子 紀伊に行き 木の芽の気 孫の駒 (いな)はない 泣くな泣くな 前の絵馬 留守をする 婿が来む (ふぐ)を食ふ 釘が利く 狐つき 何処も琴 爺の意地 雪は消ゆ 伊丹が見たい 伊予が良い 今朝は酒 (かか)は加賀 闇の宮

&『廻文題柳多留』