漢字中心にゲーム性の高い遊戯。表記の多彩さが楽しく入門しやすさも魅力

15 文字遊び系 もじあそびけい

 

言語遊戯のうち文字に関するものを〈文字遊び〉あるいは〈文字遊戯〉と総称し、一系を成している。

文字遊びは古代中国において「戯書」から発達した遊戯で、漢字がかかえる多様性を基にしたものだけに、漢字が主役。ことに江戸時代、わが国独自の「漢字・仮名遊び」がいくつも開発され、現代も廃れることなく健在ぶりを示している。

 

 ウエブサイト「亀時間」 へのへのひなまつり イベントレポート」より

 

 

15 文字遊び系の目録(五十音順)

 

異読遊び

仮名の怪

仮名見立

缺欠文字

漢字遊び

漢字覚え歌

擬音文字

記号遊び

戯書

言誤遊戯

字工装パズル

字詰

字謎

集合文字

粋詞

創作当て字

創作漢字

坼字

頓字当て

似せ字

似た字区別

筆跡

一筆描き

振り仮名遊び

文字遊び〔雑載〕

文字絵

 

 

異読遊び いどくあそび 

漢字を一字選び出し、その読み(音・訓・慣用の別を問わない)をできるだけ多く活用して意味のある文章に仕立てるものを〈異読遊び〉という。

漢字の読みの多様性に着目した〈考え物〉の遊びであるが、仕上りに不自然さやこじつけの難があり、明治の一時期まで登場したあと姿を消している。

【例】

雪舟、狂詩剽窃の不名誉?

子子子子子子子子子子子子 &『せつしう草双紙集』十一、鳥居清倍ほか画文

*謎解きを二段構えですることになる。第一、掲出歌の読み方のタネ明かし。出典の末尾にこうある。

 雪舟しばらく黙然して、かくぞ読みける/()(この  )

 子()()()()()(しの)()()()()/と十二いろ読みける時、御感なゝめならずとなり、此時より雪舟が誉高し

 雪舟等(せつしゆうとうよう)(14201506)は室町後期の画僧。水墨画に傑出。雪舟、唐土(もろこし)から帰朝したことを天子が聞き及んで、「そちは絵のほか狂詩にもたしなみありと聞いているが」との御下問に、雪舟が答えて才を示した、ということになっている。第二のドンデン返し。この言語遊戯歌、じつは雪舟の時代よりも六〇〇年も前に小野篁(おののたかむら)(802852)という漢詩人が作って発表済みなのである。説話本『宇治拾遺物語』巻三・十七条に載っている。篁の故事から盗み取った雪舟の手柄話になっている。もし事実なら、ネズミ絵で名高い彼の名が「泥舟」になるような小細工である。

 雪舟、泣き鼠の図

 「平林」の異読

(ふみ)上書(うはがき)きに、平林とあり。通る出家に読ませたれば、「平林(ひやうりん)平林(へいりん)か、平林(たひらばやし)平林(ひらりん)か、一八十(いちはちじふ)(旧書体)木々(ぼくぼく)か、それにてなくは、平林(ひやうばやし)か」と。これほどこまかに読みてあれども、平林(ひらばやし)といふ名字はよみあたらず。とかく(すゐ)にはならぬものぢや &『醒睡笑』

*一説によると作者の策伝和尚の俗姓は平林だとか。

一に始まり一に終わる異読                     新井白蛾

或人来り話す、天老和尚の一の字句に及ふ、因て(マン)書して兒童(ジドウ)に授く、

  (ハジメ)ヨリ(マコト)ナレハ(モツハラ)(ススム)(ヒトリ)(ツツシメバ)(マサニ)(アキラカニ)。重習(トキ)(スクナケレハ)(スデニ)(ムナシ)。思勉(ヒビニ)(ナガケレハ)(タクミチヲ)(マス)(チホヒ)ニシ(カヘ)。言行(ヒトシウメ)。天命(マツ)。其(カズ)(キワマリ)無。(ムヨニ)勿。徳(マヅ)(オノヅカラ)(ヒカル)。 (原文の返り点を外し読み下しに) &『牛馬問』巻四

近代の異読

▽煙

 考(贈り物) 花束

 〔解〕煙火のはな、煙草のたば

▽日

 考(或る(ことば)) 常陸山(四股名)がごろついて草津に来

 〔解〕朝日(あさひ)朔日(ついたち)日本武尊(やまとたけのみこと)春日(かすが)何日(いつ)日本(にほん)四月朔日(つきかつき)

▽水

 考(俳句)掛梁(かけやな)湖水(こすい)々上(みなかみ)(とほし)かな

 〔解〕水主(かこ)水礼(けり)水蟇(やまめ)水葱(なぎ)水清(こと)(すゐ)(字音)水上(みなかみ)水戸(みと)、 (もん)()(ほし)巴戦(ずり)

  *本例では、難読当て字や地名など文学博士並みの高度な知識がないと解読不可能である。

 

仮名の怪 かなのかい 

明治十六(1883)年十月に、国語表記革新派のあいだで、かな文字だけで文章をつづろうと主張する結社「かなのくわい」が発足した。この試みは社会の猛反発を受けやがて立ち消えてしまったが、発表時点ではあれやこれや社会戯評の好材料にされた。

次の一文はその一つ、少々長いが史料価値があるので全文を掲出することにする。

どうぢや恐れ入りましたか仮名の怪

此頃興りしかなのくわいの事に付ては、有益無益の論ともに在りて未だ其帰着を知らず、されども斯く議論の囂しきは結句同会の為に喜ぶべき事にして、我々も真に平一面のかなの世とならば、随分ともに便利なる事も有るべしと思はる、夫に付き仮名にて事の間違ひ氏一つの咄あり、其昔(うつぼ)太夫と云ふ浄瑠璃語りが京都にありし時、或日宿にて自己が床本(ゆかぼん)の仮名の句続きの所に朱墨にて句読(くとう)()り読合して居たるを、折ふし来合せし或数珠屋の主人が見て嘲笑ひ、己が職業にする語り本に朱点を付て、それに便りて語るとは太夫にも似ぬ未熟の事かなと云ふ、靭は否左にあらず、己が職業となれば何事にも念に念を入るゝが好し、此の朱点も強ち此に便るとにはあらねど、万一の失錯をせぬ為にと家業を大事と心掛るからなりと云ひたれども彼の客は頻に打消して益々笑ひて止まず、靭も後には心中に怒りたれども、愛敬を売る商売なればと其場は扨て止みぬ、されども此事肚の裏に残りたれば、其より程経て彼の数珠屋ヘ書面にて、小生余儀なき方より相頼まれ候に付、日蓮宗の数珠二つに折りてくびに懸ける程の物、早々御調製下されたしと(わざ)と仮名にて書送れり、主人は二つに折りてくびに懸るとは大層大きな物かなと思ひたれども、注文なれば早速(つく)りて靭方へ遣りしに、靭は見るより其数珠を持て数珠屋へ来り主人に遇ひて、あれ程書面にてお頼み申せしに我等が注文とは違ひ、()ないな百万遍繰る様なものを拵へておこされては()もならぬと云ふ、主人は不審して否ソレは注文通りじゃ、併し若し達て此が間違と云はしやるなら、貴公が贈り来された書面を見せうと彼の手紙を出し、コレ見なはれ此の通り二つに折りてくびに懸ると有るでは無いかと云ふ時、靭は手を拍きてソレ見なされ、 

余談 ネットで「はなのくわい」と検索したら花の慈姑と勘違いした画像がラッシュ。はからずも後世、役立たずの運動であることを証明した。

我等が先頃床本の仮名の句続きに朱墨を(うつ)たは此所の事、我等は二つに折りて首に懸るでは無く、二つに折り手首に懸ると云ふ積りじや、自分が商売の注文を受て不審なのを誂へ主へ問合せもせず、自儘に拵へたは貴公の誤り、早々手首に懸るやう製り直しておこしなされと数珠屋の主人を遣り付て、前の意趣を晴したりと云ふ事あり、此等はかなの世の中とならば随分困る間違ひなるべしと云ふ時、机辺に来りし一封の投書あり、披き見れば此頃かなのくわい云々、小生も至極面白き事に思ひ其法に拠りて昨日一篇の文を綴りたり。

かみやさえもんといふだいめうあるひでいりのかみやさえもんをめしてさえもんがいへのはんしにはすじやうあしきものおほくかみのようをなさぬがおほしこれにはまい〳〵よもこまることありとまをさるさえもんおそれいりてさえもんがいへのはんしにすじやうあしきものおほく

かみのようをなさぬがおほしとはぶねんのいたりいごきつとこころづけまをすべしといふさえもんををかしくいやわがいふはんしははんしなりそのはうのいふはんしにあらずかみのようとはかみのようなりかみのようのことにあらずとまをされければさえもんはじめてあんしんしてごぜんをしりぞきたりといふ。

とは書て見たれど此では何だか解らぬやうだ、此は「神谷左衛門と云ふ大名或日出入の紙屋佐右衛門を召して、左衛門が家の藩士には素性悪しき者多く上の用をなさぬが多し、此には毎々予も困る事ありと申さる、佐右衛門恐入りて、佐右衛門が家の半紙に素性悪しき物多く、紙の用をなさぬが多しとは無念の至り、以後はきつと心付け申すべしと云ふ左衛門可笑しく、いや我が云ふ藩士は藩士なり其方の云ふ半紙にあらず、上の用とは上の用なり、紙の用の事にあらずと申されければ、佐右衛門始めて安心して御前を退きたりと云ふ」斯う云ふ事なり、かう書く方が何だか解り好い様だ、先生方の眼にはどうだ。&『東京日日新聞』明治十六年十月三十一日

 

仮名見立 かなみたて 

〈仮名見立〉は、平仮名の字面を物事に見立てる新趣向の遊びである。

漢字の字面では「川の字に寝る」「大の字の伸びをする」などの表現がある。数字でも「十文字結び」「横一文字に斬る」「八字ひげ」といった文字見立てがある。これらの手法を平仮名に応用してみた。

平仮名は単なる表音文字だが、一字一字をこじつけ視すると、そこに象形が現れる。これを具体的な物事に結びつけ、珍釈を加えたりする。

まだほかに作例が見当たらないので、筆者が急拵えした例を掲げることにする。

【例】

艶色仮名象形(いろごのみかなのかたどり)                                     荻生作

の字仲──男女(おふたりさん)まだくっついていない。

の字腹──臨月近し。あと一つきが出来る。

の字衣──男を捨て去るときの美女の衣装。羽衣とも。

の字の仁──寄り来る女には情をかけるが男の仁義。

の字大切──ホの字一字で好き百遍。

の字眉──骨相学にいわく、への字眉毛に好色漢多し。

の字乳房──(おお)きなオッパイは七難隠す。

の字尻──亭主を下にしく大器。

の字抱き──長の別れさ、見て見ぬ振りよ。

の字回し──床上手ぶり。やがての字が付くわいな。

の字流し──質草流すも腹の子流すな。

の字絡み──このあたりで…をはり。

 

缺欠文字 かんけつもじ 

完全な字画をもたず、あえて一部を欠落させてその語義を問う遊びを〈缺欠文字〉という。〈考え物〉的な内容である。

【例】

 

漢字遊び かんじあそび 

文字遊びは古代中国において「戯書」から発達した遊戯で、漢字がかかえる多様性を基にしたものだけに、十中八九は漢字が主役である。ことに江戸時代、わが国独自の「漢字遊び」がいくつも開発され、現代も廃れることなく健在ぶりを示している。

 漢字遊びの専門書〔上條晴夫著、民衆社〕 

【例】

尺八の八はへの字

「笛のえは、ちぢみえか、末のゑか、いづれがよい」といふに「されば定家の仮名づかひも、源氏などにも、ちぢみえを書きたるは」「いや、横へがよい」「何とて」「笛は横にして吹くほどに」そばにゐたる禅門(ぜんもん)、うかべたる(てい)をなし、「げにもげにも、尺八の八も横へぢや」 &『醒睡笑』巻三

しろく二十四        

作意ある人のかふ犬あり、名を二十四とつけたり、「二十四、二十四」と呼べば来る、「なにとしたる仔細にや」と問ふ、「しろく候へば」さて「げにもげにも」と感じ家に帰り、白犬をもとめ、二十四と呼ぶ、「いかなる心持ぞ」と尋ねられ、「しろう候へば」 &『醒睡笑』巻三 

新狂歌                                                          荻生作

実話

パソコンの漢字を本字と思いおる字引ひかずの優等生らは

 

漢字覚え歌 かんじおぼえうた 

〈漢字覚え歌〉は漢字を記憶するため語句に工夫をこらした歌俳をさす。五七五の韻律にのせ、字画などの特徴を表したものがほとんどで、覚えやすいように作られている。

【例】

字覚え((つくり))                                      小野(たかむら)

▽はるつばき なつはえのきに あきひさぎ ふゆはひいらぎ おなじくはきり(椿、榎、楸、柊、桐)

▽ひやくはかや しろきはかしわ きみはまつ ひさしきはすぎ あうはひのきよ(栢、柏、松、杦=杉、檜) &『小野篁歌字尽』

字覚え((へん))                                   小野(たかむら)

▽木はうめよ 人はあなどる 水はうみ 日はくらすなり 心くやしき(梅、侮、海、晦、悔) &『小野篁歌字尽』

字覚え()                               小野(たかむら)

▽木はおけよ 水はわくなり 足おどる 

 (やまい)はいたむ 人はひとがた(桶、涌、踊痛、俑) &『小野篁歌字尽』

 

擬音文字 ぎおんもじ

同音か類音の文字を使い、すでに存在する成句などを捩ったものを〈擬音文字〉と称しておこう。いわば部分パロディで、スポーツ氏の見出しや広告キャッチによく使われる。

【例】

スポーツ各紙より

喜々一発 非常G態 の紋所が目に入らぬか 七点八倒 西武三連笑 首位の座危機一敗 朝まで阪神列島 興奮ウル虎魔術 どっコイ連敗ご免 佐野ヨイヨイ満塁 竜が鯨飲 波に乗れない鯉料理 あっぱれ倒牛士 恐怖の七番快進撃 巨投奇々壊々の最醜戦

&『おもしろ見出しを探せ!』ほか

パロディ当て字

優蕩生 おっと漢違い 快汗体験 虎軍奮闘 字遊人 双響器(ステレオ) 多恋徒(タレント) 貯香麗糖(チョコレイト) 満層荘(マンション)

広告キャッチより

我楽多市(百貨店) 全力東急(百貨店) 一発快湯(観光) 読書秋間(書籍連合) 女のアソビジョン(書籍) ブンコヨンデルカー(書籍) テレ笑い(テレビ番組) 明日はアタシの風が吹く(テレビ番組) みた。のった。よかつた。(自動車) まっしぐら、インテグラ(自動車) 汗、のちシャワー(電気温水器)

 

記号遊び きごうあそび 

記号を部分改変したり、二つ以上の記号を合体して別の意味をもたせる遊びを〈珍記号〉と名付けておく。

アイデアしだいで創作が楽しめる。

【例】

記号遊び       新作                                 荻生作

 

戯書 げしょ 

一般慣用の漢字の字義や音にとらわれず、特有の連想、類推あるいは字謎による訓を用いた文字遊びを一般に〈戯書〉と総称している。

戯書の来歴は古く、万葉用字法も戯書(たはむれがき)の一つであり、次の四種別がある。

㈠ 文字の戯れ▼色二山上復有山者=色に

()でば &『万葉集』巻九・一七八七

ぎぬる &『万葉集』巻十一・二五七九

 ㈢ 擬声語の使用▼馬声蜂音石花蜘□荒鹿=いぶせくもあるか &『万葉集』巻十二・二九九一

 ㈣ 数の戯れ▼八十一隣之宮□=くくりの宮に &『万葉集』巻十三・三二四二

  右㈠~㈣の解説は専門書等の注釈にゆだねたい。ともあれ、この戯書法から後

 世、いろいろな文字遊びが生れた。

 女子高生が書いたという戯書〈沙炎の『今日も書三昧日記』ブログより〉 

【例】

万葉戯書種々(くさぐさ)

▽神楽声浪乃 四賀津之浦能 船乗尓 乗西意 常不所恋(ささなみの志賀津の浦の船乗りに乗りにし心常忘らえず) &『万葉集』巻七

 *神楽声=ささ(神楽囃子の擬声)

▽春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜 不穢照良武 高松之野尓(春霞たなびく今日の夕月夜清く照るらむ高松の野に) &『万葉集』巻十

 *三伏一向=つく(樗蒲(かりうち)という賭博遊戯の用語から)

▽黒髪 白髪左右跡 結大王 心一乎 今解目八方(黒髪の白髪までと結びてし心ひとつを今解かめやも) &『万葉集』巻十一

 *大王=てし

▽如是為哉 猶八成牛鳴 大荒木之 浮田之杜の 標尓不有尓(かくしてやなほやなりなむ大荒(おほあら)()の浮田の(もり)(しめ)にあらなくに)

 &『万葉集』巻十一

 *牛鳴=む(モーの古語)

▽縦恵八師 二々火四吾妹 生友 各鑿社吾 恋度七目(よしゑやし死なむよ我妹(わぎも)生けりもかくのみこそ()が恋ひわたりなめ) &『万葉集』巻十三

 *二々四=し(掛け算で二二が四)、火=なむ(陰陽五行説による訛語)

 

言誤遊戯 げんごゆうぎ 

「日本語は難しい」という俗諺どおり、誤字誤用辞典が何種類も出ている。「事時門題を解設した週間紙」といった誤記は他人事でない。こんな表記ミスは、ちょっとした誤りのために文章や詞全体の意味あるいは印象を歪めてしまうので注意すべきだ。

こうした誤字誤用をあえて冒し、語句の中の漢字「同音異義字」「似た字」などをわざと間違えたものにすり替え、正しい文字との間に意味の遊離を展開する遊びを〈言誤遊戯〉と名付けてみた。やってみるとこれが意外に面白い。一句章に一、二字程度、なんとなく書き誤ったというようならしさが、この遊びの妙味を引き出すコツである。

【例】

「学研誤字当て字コンテスト」より

▽考えた末、私も遂に決心して、彼をめようと思います(東京・江東区 江口清子、大賞受賞作)

▽新しく不妊になられた先生(優秀賞)

▽大バーンセール(優秀賞)

──学研主催「第3回誤字・当て字コンテスト」

言誤遊戯三昧(誤→正)                              荻生作

▽内閣総利大臣(利→理) 派閥争いで奪った椅子、かくもあらん。

▽ゲイ術院会員(ゲイ→芸) 無精してカナ書きなんかにしないでよー。

▽自動券買機(買→売) お客側表記のほうが正しく筋が通っている。

▽三姦四温(姦→寒) そりやァ、あなた、温かくもなりますがなァ。

▽鉱泉の客() 左はこの世の温泉、右はあの世の温泉でーす。

《参考》

誤植のはなし                          沖野岩三郎   本誌一月号に載せて戴いた、私の小説「或夜の旅役者」四十七頁十一行に、/「だッて、お金なんか持つて……何所へ行らつしやるの?」/とあるべきを、誤植して、/「だッて、お金なんか持つて……便所へ行らッしやるの?」/となつていた。自体悪文な上に、あゝいふ誤植があつては何とも言へない浅ましいものになつて了ひます。私は本当に悲しくなりました。(中略)数年前、与謝野晶子女史が、出産の歌を詠まれた時、「(たい)を割く」と書いたのを「(また)を割く」となつてゐた。女性の作品で、しかも出産の歌に「マタを割く」は世間の誰もが、信じさうな、しかも作者には泣き出したい気になる誤植である。何所へ行く便所へ行くも、つまり読者にしかく信じられさうな文句だから作者が苦しいのである。&『我等』大正九年二月号

 

字工装パズル じくそう── 

厚紙に写真などを印刷し、不定形の細片に切り離したものを寄せ集め、元の絵に復元させるジグソーパズルという遊具がある。この伝で、漢字数文字の成句の冠脚偏旁を分解して課題とし、元の成句に組み立てる遊びを〈字工装パズル〉と呼ぶことにする。

  画数の多い漢字、語数の多い成語ほど難解なのはいうまでもない。

【例】

二文字の字工装                                   荻生作

百斤宀人木立

 ヒント=東京都二十三区名の一。 

──答え「新宿」

四文字の字工装                                  荻生作

一犭口日日耒囀 、(くさかんむり)艸匕艸艸氵艮人 

 ヒント=無礼講宴会が終わるころの有様。 ──答え「落花狼藉」

 偏旁冠脚をテーマにしたの日めくり

【例】

万葉戯書種々(くさぐさ)

 ▽神楽声浪乃 四賀津之浦能 船乗尓 乗西意 常不所恋(ささなみの志賀津の浦の船乗りに乗りにし心常忘らえず) &『万葉集』巻七

 *神楽声=ささ(神楽囃子の擬声)

▽春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜 不穢照良武 高松之野尓(春霞たなびく今日の夕月夜清く照るらむ高松の野に) &『万葉集』巻十

 *三伏一向=つく(樗蒲(かりうち)という賭博遊戯の用語から)

▽黒髪 白髪左右跡 結大王 心一乎 今解目八方(黒髪の白髪までと結びてし心ひとつを今解かめやも) &『万葉集』巻十一

 *大王=てし

▽如是為哉 猶八成牛鳴 大荒木之 浮田之杜の 標尓不有尓(かくしてやなほやなりなむ大荒(おほあら)()の浮田の(もり)(しめ)にあらなくに)

 &『万葉集』巻十一

 *牛鳴=む(モーの古語)

▽縦恵八師 二々火四吾妹 生友 各鑿社吾 恋度七目(よしゑやし死なむよ我妹(わぎも)生けりもかくのみこそ()が恋ひわたりなめ) &『万葉集』巻十三

 *二々四=し(掛け算で二二が四)、火=なむ(陰陽五行説による訛語)

 

言誤遊戯 げんごゆうぎ 

「日本語は難しい」という俗諺どおり、誤字誤用辞典が何種類も出ている。「事時門題を解設した週間紙」といった誤記は他人事でない。こんな表記ミスは、ちょっとした誤りのために文章や詞全体の意味あるいは印象を歪めてしまうので注意すべきだ。

こうした誤字誤用をあえて冒し、語句の中の漢字「同音異義字」「似た字」などをわざと間違えたものにすり替え、正しい文字との間に意味の遊離を展開する遊びを〈言誤遊戯〉と名付けてみた。

やってみるとこれが意外に面白い。一句章に一、二字程度、なんとなく書き誤ったというようならしさが、この遊びの妙味を引き出すコツである。

【例】

「学研誤字当て字コンテスト」より

▽考えた末、私も遂に決心して、彼をめようと思います(東京・江東区 江口清子、大賞受賞作)

▽新しく不妊になられた先生(優秀賞)

▽大バーンセール(優秀賞)

──学研主催「第3回誤字・当て字コンテスト」

《参考》

誤植のはなし       沖野岩三郎本誌一月号に載せて戴いた、私の小説「或夜の旅役者」四十七頁十一行に、/「だッて、お金なんか持つて……何所へ行らつしやるの?」/とあるべきを、誤植して、/「だッて、お金なんか持つて……便所へ行らッしやるの?」/となつていた。自体悪文な上に、あゝいふ誤植があつては何とも言へない浅ましいものになつて了ひます。私は本当に悲しくなりました。(中略)数年前、与謝野晶子女史が、出産の歌を詠まれた時、「(たい)を割く」と書いたのを「(また)を割く」となつてゐた。女性の作品で、しかも出産の歌に「マタを割く」は世間の誰もが、信じさうな、しかも作者には泣き出したい気になる誤植である。何所へ行く便所へ行くも、つまり読者にしかく信じられさうな文句だから作者が苦しいのである。&『我等』大正九年二月号

 

字工装パズル じくそう── 

厚紙に写真などを印刷し、不定形の細片に切り離したものを寄せ集め、元の絵に復元させるジグソーパズルという遊具がある。この伝で、漢字数文字の成句の冠脚偏旁を分解して課題とし、元の成句に組み立てる遊びを〈字工装パズル〉と呼ぶことにする。

  画数の多い漢字、語数の多い成語ほど難解なのはいうまでもない。

 

粋詞 すいことば 

文字のうち、とくに漢字の形状を分解し〈隠語〉に仕立てる遊びを〈粋詞〉といった。一例を示すと、

 題   ホレタ

 隠語  とうはちぼうばねくよこのちょん

 解   十八(とうはち)→ホの字、棒刎(ぼうば)ね→レの字、ク横の(ちよん)→タの字

となる。粋詞は〈謎なぞ〉的〈文字遊び〉の一種であり、明治・大正期の少年文芸雑誌などに登場している。しかし、字形と〈隠語〉とのあいだで主観的な牽強付会に過ぎ、独りよがりの遊戯に陥ったため、ほどなくたち消えた。

 蛇足だが、江戸語の「粋詞(いきことば・すいことば)」とは語義がまるで違うので、混用しないよう注意したい。

【例】

近代作品より

▽題   酒の(ゑひ)

 隠語  とりさんずゐのとり九十 

▽題   (うれし)い〳〵

 隠語  きをなご〳〵(喜女(きをなご)) 

  *「喜女(きをなご)」とは玄人筋の女の俗称。

▽題   ラヴ

 隠語  (いち)ふのうゝゝ(ちよんちよん)

以上『日本文学遊戯大全』

 

創作当て字 そうさくあて 

一般的な慣用当て字に模して創作した私製の当て字を〈創作当て字〉と名付けておく。ギャグを伴った新造語の意味合いも含めてある。

この種の遊びは意外に普及していて、なかでも歌舞伎・浄瑠璃の外題などに傑作が多い。なお命名に関するものは〈当て字名〉として別項立てとした。

【例】

歌舞伎等の外題

妹背山婦女庭訓 いもせやまおんなていきん

於染久松色読販 おそめひさまつうきなのよみうり

盟三五大切 かみかけてさんごたいせつ

稗史億年代記 くさぞうしこじつけねんだいき

天衣紛上野初花 くもにまごううえののはつはな

謎帯一寸徳兵衛 なぞのおびちよつととくべえ

艶容女舞衣 はですがたおんなまいぎぬ

都鳥廓白波 みやこどりながれのしらなみ

処女翫浮名横櫛 むすめごのみうきなのよこぐし

方言修行金草鞋 むだしゆぎようかねのわらじ

漢字よしこの          式亭三馬 

松戸勇字和 木偏仁公夜 君耳花連天 喜賀之小留(まつというじはきへんに公よきみに離れて気が残る) &小野愚虚字尽(おののばかむらうそじつくし)

文学作品(和語編)

雑種児(あいのこ)──小栗風葉『青春』

 背徳()めたい──松本隆『過激な淑女』

 捉迷蔵(かくれんぼう)──国木田独歩『帰去来』

 紅裙(げいしや)──成島柳北『柳橋新誌』

 露見(はだ)ける──田村俊子『あきらめ』

 神験術(まじない)──大西操山『批評論』

 短仰鼻(だんごばな)──大貫晶川『煙』

 制服人間(こうむいん)──椎名誠『さらば国分寺書店のオババ』

 文学作品(外来語編)

 噫湎(アーメン)──服部撫松『新東京繁昌記』

 印気(インキ)──夏目漱石『道草』

 玻瑠器(ギヤマン)──北原白秋『邪宗門』

 下股引(ズロース)──十一谷義三郎『唐人お吉』

 夜光珠(ダイヤモンド)──黒岩涙香『鉄仮面』

 狂公子(ハムレツト)──北村透谷『我牢獄』

 内君(マダム)──泉鏡花『婦系図』

 電光形(ジグザグ)──小栗虫太郎『黒死舘殺人事件』

 合唱的叫喚(シユプレツヒコオル)──久生十蘭『ノンシャラン道中記』

 蟲惑力(チヤーム)──有島武郎『或る女』

 混尿酒(カクテル)──沼正三『家畜人ヤプー』

《参考》

外国地名の当て字                                            石井研堂

台湾の古名、〔唐土歴代沿革図〕に『塔葛沙古(タカサゴ)』、〔台湾鄭氏記事〕に『塔加沙古』とあり。本邦の文書に『高砂』と記す。外国地名に和訓字を当てるは、法人に読み易く、且つ字数を節約し得る利益あり。/万延元年作、桂園森田行の〔渡米雑詩〕に、/(キュウ)鬚碧眼花門(バナマ)宰、脱帽屈腰搓手待、鉄路四十又七里、分明画破東西海。/その注に、『花間ハ即チ巴納麻、邦音ニ因テ之ヲ填メ、以テ声調ヲ叶ハシム』とあり。これ、自注の通り、詩の平仄の関係上、江戸を江都と書きし類に過ぎざるも、洋音訓訳の魁なり。/福沢諭吉は、世界の地名を記すに、和訓示を以てするを便とし、その著〔世界国尽〕の凡例中に『西洋の地名・人名等は、勉めて日本人に分り易きを用ふるやうにせり』とて、満落加(マラツカ)荒火屋(アラビヤ)などを出し、古来の翻訳者の、唐音の漢訳字を襲用する旧習を踏まず。これが、和君音訳の中興開山といふべし。/明治八年新刊、長峰秀樹訳〔アラビヤンナイト〕の題を、〔暴夜物語〕とせしも、その影響なるべし。&『明治事物起原』第十六編

 

創作漢字 そうさくかんじ 

〈創作漢字〉は、根拠のある読みを伴う私製漢字を作り出す遊びである。

漢字は表意文字であり、しかも冠脚偏旁(部首)それぞれに意味があるので、創作遊戯にぴったり。その気になれば無尽蔵に作れる。

この種の遊びを昔は〈偽字(にせじ)作り〉といい、戯作などでも顔をのぞかせている。また、わが国独自に考案し通用させている「国字」(凩、峠、辻、躾など)もまた、広義に創作漢字であることに変わりない。 

 「創作漢字コンテスト」なるものもある。

 ただし、創作漢字にいどむ場合、おおむね次の点に留意する必要がある。

  漢字は膨大な数があり、なかには予想を超えるような珍字がすでに存在している。漢字字典などで充分に下調べが必要。

㈡パソコンを使わなくては作字出来ないような文字(フオント)はさけたい。言葉遊びの大原則「紙と鉛筆による創作」に反するから。

㈢他人の創作活動も盛んなので、重複しないよう関連諸冊などでチェックしておく必要がある。

以上のことから、創作漢字では準備が大変であり、アイデア倒れになる恐れが大きい。既成の作品を見て楽しむ程度にしたい。

【例】

式亭三馬の作品

*滑稽本『小野愚嘘字尽』(おののばかむらうそじばっかり)は言葉遊びを戯作化した作品集で面白さは圧巻、一読の価値がある。ほかに創作漢字に類する作品図版を何点か抄出し掲げておく。

 実際に存在する珍漢字

 《参考》

                    山崎美成

和字(国字)、ことに会意の文字多し、神木を(サカキ)とし、香木を楿(カツラ)に作る、(中略)あるひは(タスキ)字は倭名類聚鈔(装束部衣服具)に載せて、衣袖を挙るの義に取る、(くまで)(金偏に曲、現今は消滅か)字は室町殿日記(江口之要害夜討条)に見ゆ、おもふに鉄を鈎曲して作る意にや(中略) 鴴(ちどり) 雫(しづく) 凩(こがらし) 栬(もみぢ) 杜(もり) 俤(おもかげ)此類は、連歌の開始のために作れる文字なるよし、これを新在家文字といふとかや、又朳(はめ) 圦(かます) 閊(つかえ) 銯(かすがひ)等の字あり、これは作事修理方にて用ふる文字なるよし&『文教温故』下

 

坼字 たくじ 

漢字を覚えやすいように偏旁冠脚に解きほどいて歌や文句に仕立てる遊びを〈坼字〉という。

坼字は古代中国の占卜から発し、和文化に取り込まれてからは謎掛けとの結び付きで仕立てられたものが多い。日本では古来〈()(わり)〉と呼び慣わしてきた。

【例】

短歌仕立

「叡」の字ほどき                                              加藤曳尾庵▽片仮名のトの字(べき)の字一の谷口を目にして、つくり又なり

「炭」の字ほどき                                                                よみ人しらず▽寒ければ山より下を飛ぶ雁にものうちになう人ぞ恋しき

「戀」の字ほどき                                                      荻生作

▽むかし文字いとしいとしという心いまや味なくまたに心す

俳諧仕立

(くちなし)  いさのまん木に(サカヅキ)の花の陰

▽螢   文字みれば尻を頭の螢かな

▽蝉   夏は木に鳴虫まてや(ひとへもの)

▽椿   冬なから木へんに春の花見哉

&『毛吹草』巻一

川柳・雑俳仕立

▽踏むたびに(くつ)()れ足を削るやう

▽儲けやうとてか諸人よく稼ぎ

&驥尾(きび)団子(だんご)

▽味は未だ口に入れぬで知れぬなり

&『岩波講座 日本文学・川柳』

荻生作

▽お口もと唄う貝ありパアクパク 

▽人いても四人は()らぬ傘なるに→傘

▽恋せしは女のまたにしたごころ

会意の俗諺

*「会意」は中国からの渡来語で、漢字の分解や組立を扱う操作のこと。

▽壽(寿)──(さむらい)のフエ一(インチ)

▽櫻()──十八の女二階の下に立つ

▽露──雨のあと路ゆく人露にぬれ

▽業──タテタテ、チョンチョン、ヨコチョンチョン、ヨコヨコタテチョンチョン

都々逸仕立「分析節」

♪松といふ字を分析すれば(きみ)に木()がなきや松(待つ)じやない

♪妾といふ字を分析すれば家に波風立つ女

♪櫻という字を分析すれば二貝(二階)の女が木()にかかる

♪親のためなら娘を二字(女良)に割いた勤めも是非がない

♪お茶といふ字に目を止め見れば人が(くさ)()の中に立つ

字書き歌

♪向うのお山に月が出た 日がでたヒが出た四つ出た(→熊)

♪縦棒コ横棒コ縦棒コ横棒コ横棒コ くるりと回っていっさっさっさ(→馬)

《参考》

文字                                                      山崎美成文字の偏旁に俗称あり、灬をレングワ、禾をノギ、刂をリタウ、酉をヒヨミノトリ、などといへるがごとし、さて灬をレングワといへるは、字書に烈火(字彙)とあれば、連火にはあらで、烈火の音の転訛なるべし、禾をノギといふは、禾の訓なり、芒をノギ、頴をノゲと読めるも同義なり、 (中略) 刂は立刀なり、忄を立心といひ、(にんべん)を立ち入りといふに同じ &『文教温故』下

 

頓字当て とんじあて 

〈頓字当て〉の呼称は言語遊戯にない。頓智で字義を当てるから頓字。

漢字を主とした文字の音・形・字義などを根拠にした〈考え物〉で、現代風にいうと漢字クイズといったところ。〈創作漢字〉や〈漫字〉の姉妹篇である。

【例】

畳語句判じ読み(伝承)

▽人人──にんじん

▽父父──とうふ

▽盛盛──さかもり

▽同じ字を雨雨雨と雨て読み──同じ字をアメ・サメ・ダレとグレて読み(アメ・春(サメ)・五月(ダレ)・時(グレ))

元号の頓字落首

▽安政を下から読めば異船にて残る一つはメリカの国

▽上からは明治だなどと言うけれど治まる明と下からは読む       

▽平らには成らんぞ亡者はびこりて世も紀も末よ弊政の国               荻生作

 

似せ字 にせじ 

 物の呼称になぞらえて創作した象形文字。

 江戸の戯作者式亭三馬が創案の本家ではあるが、こじつけもいいところである

 

似た字区別 にたじくべつ 

字画が酷似している漢字の区別を覚えるための文句である。弾みをつけ語感を良くしたものが好ましい。

古典では、式亭三馬作『小野愚虚字尽(おののばかむらうそじつくし)』が断然圧巻である。

【例】

伝承のもの

(うり)(つめ)あり、爪に爪なし

(いぬ)に棒あり、(ぼう)に棒なし

一釣(いつちよう)二鈞(にきん)()(こう)(こう)(鈎も同類とみなす)

()は上に、オノレ・ツチノト下に()付き、ステニ・ヤム・ノミ中ほどに()付く

▽木はウエル()、衣はタツなり()、異なるはイタダク()なれば、車ノス()なり

&小野愚虚字尽(おののばかむらうそじつくし)

 

筆跡 ひっせき 

物を書くときの書き癖。かなりの精度で鑑定が可能。また遊び字的なものも少なくない。

 

一筆描き ひとふでがき 

  遊び絵の一種で、絵姿を途切れることなく

一筆で描いたもの。(他に多出のため画像例省略)

 

振り仮名遊び ふりがなあそび 

漢字に本来の読みとは異なる創作振り仮名をつけ、言葉の意義を一段と拡張させる遊びを〈振り仮名遊び〉という。創作には国語知識の豊富さが要求される。この場合の振り仮名は、語義から不即不離(つかずはなれず)とするのがコツである。

【例】

読本(よみほん)より                                              曲亭馬琴「その()(まこと)精妙(せいめう)也。()らば明日(あす)桶柩(はやおけ)に、級首(くび)(むくろ)(ひそか)(おさめ)て、()るゝ(まち)(もたげ)(いだ)して、通宵(よもすがら)(はし)りなば、(あけ)がたには(かの)(てら)の、門前(もんぜん)(いた)るべし。伙家(なかま)(おほ)きは(もれ)(やす)かり。這一(このいち)夥計(まき)にて事足(ことた)りてん。(あす)術与(てぐみ)(たが)えな」と(かたみ)(しめ)(あは)せけり。(中略)「あなかしこ是等(これら)のよしを、(もら)しなせそ」と(いまし)めけり。(かか)れば約莫(およそ)江湖上(よのなか)に、目四(めし)(ろう)()()せしを、()りたるものは野上(のかみ)親子(おやこ)三名(みたり)(ほか)はいまだあらず。(まいて)()(ろく)陽歿(そらじに)して、亡父(ぼうふ)(うらみ)(きよ)めしよしは、(かみ)ならぬ()(さと)(よし)になく、(なげ)きは(ここ)弥倍(いやまし)たり。&開巻驚(かいかんきよう)()侠客伝(きようかくでん)』第二集・巻二

開化期作品               成島柳北滄凕暗き処(オキノクライノニ)白帆懸(シラホガミユ)る。知る(アレハ)是れ柑を載す(キノクニ)南紀の船(ミカンブネ)(これ)は是れ旧詞曲(きうしきよく)。近来、其の声を変じ、其の手を新たにして、以て之を弾じ之を舞ふ。其の調(ツマル)にして(シトヤカ)、其の音(ケビテ)にして(ミヤビ)、其の両手を(まわ)して舞ひ、其の一足を(かか)げて(をど)る。(また)一奇観。今盛んに宴席(えんせき)に行はる。世に伝ふ、紀文(きぶん)なる者、(シケ)を侵し海を渡り、南紀の(かうじ)(ひさ)いで、以て大利を()漸々(だんだん)貨殖(くわしよく)し、陶朱(たうしゆ)の富、(つひ)に大都に(くわん)たり。彼狭斜(イロザト)の遊びを好み、(がう)を極め、奢を(きは)め、前人に()えて、後世を圧す。児童と(いへど)も、今に紀文の名を()る。&柳橋(りゆうきよう)新誌』二編

今様居酒屋(げんだいのみやの)広告之節(おひろめぶし)                             荻生作

芝の浦  (うたげ)づくし     

宴席(ここはよいとこ) 招宴(いちどはおいで)  宴座(どつこいしよ) 宴飲(さけのなかでも)  花宴(はながさくよ) 宴笑(ちよいなちよいな)

 

宴居(いごこちいいから) 宴会(みんなでのもう) 宴曲(のめやうたえや) 宴色(いろけさかなに) 宴芸(ちんとんしやん) 宴遊(つれとれしやん)

 

酒宴(さけがうまいよ) 祝宴(めでたやいつぱい)  宴縁(みんななかまだ) 宴盃(もういつぱい)  酔宴(よいがすすめば)   宴楽(はなしもはずむ)  

 

迎宴(あついもてなし) 饗宴(さかなもうまい) 独宴(ひとりでのんでも) 小宴(さしでのんでも) 佳宴(よえばしあわせ) 宴福(うれしやうれし)

 

──芝の浦 (東京都港区芝浦三丁目)提供

*筆者友人が経営する居酒屋の案内書より。

 

文字遊び〔雑載〕 もじあそび/ざっさい 

その他各種〈文字遊び〉の雑載をここに集めてみた。

【例】

尺八の八はへの字            

「笛のえは、ちぢみえか、末のゑか、いづれがよい」といふに「されば定家の仮名づかひも、源氏などにも、ちぢみえを書きたるは」「いや、横へがよい」「何とて」「笛は横にして吹くほどに」そばにゐたる禅門(ぜんもん)、うかべたる(てい)をなし、「げにもげにも、尺八の八も横へぢや」 &『醒睡笑』巻三

しろく二十四        

作意ある人のかふ犬あり、名を二十四とつけたり、「二十四、二十四」と呼べば来る、「なにとしたる仔細にや」と問ふ、「しろく候へば」さて「げにもげにも」と感じ家に帰り、白犬をもとめ、二十四と呼ぶ、「いかなる心持ぞ」と尋ねられ、「しろう候へば」 &『醒睡笑』巻三 

平成狂歌                                            荻生作

実話

パソコンの漢字を本字と思いおる字引引かずの優等生らは

漢字尽しの芭蕉句

奈良七重 七堂伽藍 八重桜     ばせを

 中央は「米」の字、上図を平文に直すと

君がとしの

(よね)にあやかり申すべい

いく千代こめて

かぎりあるまい

&『我おもしろ』より活字化

冠脚偏旁こじつけ創作                                           式亭三馬

 矢印の部分、ひらがなで

▽ほうかむり…ついてぬぐひのほうかむり、すてきにさむいばんだ

▽かいへん 海辺…向こうがあれかづさみよだ、おぢい、ことしはのりがあたりじやアねへか

▽はなへん…はなをつまんで、ヘンつかまる物かへトにらむが向島のはなへん

▽小べん…小倉付けに曰、淋の青はうばもつゝしむ、うちごうか

&小野愚虚字尽(おののばかむらうそじつくし)編冠構字尽(へんかんむりかまへづくし)

長寿を表す漢字(和称)

喜寿(きじゆ)  七十七歳。国字草書体「七が三つ」の形。

傘寿(さんじゆ)  八十歳。傘の略字「八十」の形。

半寿(はんじゆ)  八十一歳。旧字体「八十一」の形。

米寿(べいじゆ)  八十八歳。「米」の字の見立て。

(そつ)寿(じゆ)  九十歳。卒の俗字「卆」。

白寿(はくじゆ)  九十九歳。百から一を引いて白。

(ちや)寿(じゆ)  百八歳。八十に上の十を二つ、下の八を加えて。

(こう)寿(じゆ)  百十一歳。幸の字を解くと白+一+十一となる。

文字さがし

 

文字絵 もじえ 

〈文字絵〉とは次のものをいう。

  文字を巧みに使って描いた絵

  描線中に絵の内容を示す語句を文字で描いた絵

よく知られた「へのへのもへじ」も文字絵である。

文字絵は平安時代に現れたが、遊戯化し本格的に発達したのは江戸時代に入ってからである。&園果亭義栗『文字ゑつくし』

 

&北尾政演『奇妙図彙』

 

 漢字の感字〔伊藤勝一著『伊藤勝一の漢字の感字』より〕