昔は川柳と並び大衆文芸の一角を成した人気筋の短型詩群、今その面影は薄く…

24 雑俳遊戯系 ざっぱいゆうぎけい 

 

〈雑俳〉とはいえ、母体はれっきとした俳諧である。しかも付合全盛という江戸期の時代背景に呼応してか、かなり複雑多岐にわたる。しかも入花料を払ってでも自作を発表したがる、誰もが入りやすい分野なのだ。この一事からして、雑俳は種類や作品量の多様と並び、遊戯性が色濃く、それなりの歴程も踏んでいる通俗文芸であることがわかる。

また川柳のように、いまだに人気が高く大衆文芸の一角をなし健在なものもある。いや、現在では川柳以外の雑俳の存在は無視していいほどで、まさしく「百万人の大衆文芸」の存在を誇示し続けている。事実、川柳以外の雑俳の衰退は何をかいわんや。

たとえば今日マスコミが時事川柳に投稿の門戸は開いても、〈付合〉や〈迷俳〉のそれれは皆無といってよい。かつて雑草の如き各種雑俳がたくましく生き、句合吟社の隆盛した史実を考えると、寂しいかぎりである。

さて、この雑俳、安易な作に溺れないよう、個々それなりにルールが設けられている。作句する場合は、各種雑俳ごとに守るべき決めや縛り(制約)があるので、これに触れて「病句(やまいく)」(違反で没となる句)にならないよう心がけたいものである。

 

 斯界の名著『短詩型文学論』〔岡井 金子 兜太共著〕

 

24 文芸遊戯系の目録(五十音順)

 

伊勢冠句

一字えぼし

一字題

一字挟み

一句両吟 

謡付

小倉付

笠付

笠付段々

歌仙付

金欲し付合

冠付

狂俳冠句

沓冠付

沓付

車付

源氏付

五文字

雑俳〔折句〕

雑排〔折句題〕

雑俳〔謎句〕

雑俳〔謎付〕

地口付

下句付

字捩り

洒落付

十四文字

十四文字折句

上下据字

上下付

浄瑠璃付

据字

立入

九十九折

天地

二字入

本捩り

前句付

三笠付

迷俳

連々呼

割句

 

 

伊勢冠句 いせかむりく 

 

焦風俳諧が盛んであった伊勢は、雑俳創作活動も積極的で、〈笠付〉なども他国に先がけ隆盛をみせた。この伊勢で作られた笠付をとくに〈伊勢冠句〉と呼んで他と区別している。

 伊勢冠句は時事句中心で、発祥いらい約百年も命脈を保った。しかし時事となると背景事情が理解されない場合は話にならず、いつしか消滅していった。

【例】

古典より

ゑふた娘  廻りて来うと縁に出る

▽もてなしぶり をり替を引かぶせたり

時雨るゝ  ユタリ〳〵と車牛

背戸口  曲られ(なり)になしの花

日蔭の君  御目が覚たか不門品

 &『伊勢冠句』文化頃の一枚摺

 

一字えぼし いちじえぼし 

雑俳において、句の(かんむり)((かしら))に指定の仮名を一字だけ折り込むものを〈一字えぼし〉という。折句系雑俳では最も単純な形態である。

言葉遊びの妙味はほとんどなく、今では完全に消滅している。

【例】

古典より

▽い  いらふほど鬼のやはらぐ追分絵

▽や  やまどりのあたまかさでも短い夜

▽ら  らりにしてかへせどこりぬ小盗人

&『若えびす』

 

一字題 いちじだい

雑俳において、句の(かんむり)((かしら))に指定の漢字を一字だけ折り込むものを〈一字題〉〈一口前句〉または〈一字冠付(かんむりづけ)〉という。

これの句体は五七五よりも七五五の多いのが特徴で、川柳になれた人に七五五は最初戸惑うかもしれない。

【例】

題は「梅」、バレ切り                                                荻生作

*「バレ」とは下ネタに材を取ること、「病句」は禁じ手に違反した句。

▽梅にうぐいすトラに酒のんじゃ寝る

▽梅は咲いたか黒塀へ犬の真似

▽梅干婆アいとしやと(さね)しゃぶり(バレで(やまい)句)

バレ句が目立つ『画本柳樽』二編

題は「川」、五七五縛り、バレ自由                                   荻生作

▽川()して河童の皿が飴を乞い

▽川の字におねしょの匂いほんのりと

 

一字挟み いちじはさみ 

文句に五十音の五音系を挟み込む音韻遊び。宝暦に始まったが、言葉の音だけが先行し空回りし成句として意味をなさないため、まもなく消滅してしまった。『嬉遊笑覧』巻九に〈一字はさみ〉についての記述がある。

 

一句両吟 いっくりょうぎん 

十七字句(俳句も含め)で上から読んでも下から読んでも意味のある句体になっているものを〈一句両吟〉という。今でいう〈アナグラム〉に相当する。

作句の難解なこと〈回文〉の比でなく、句体がすっきりと意味の通る整った完成句は皆無といってよかろう。

雑俳古典より

▽川の岸晴れ来る無雅な花筏

 (逆読みして)高い名は眺むる暮は鴨の和歌

▽気の楽さ長閑(のどか)草花そこに咲く

 (逆読みして)草にこそ菜は咲く門の桜の木

&『折句紀の玉川』

*二句ともに句意にぎこちなさが残る。

 

謡付 うたいづけ

謡曲の詞章から文句取りし、それを十七字句中に折り込んだ雑俳を〈謡付〉略して「うたい」という。

連想で句にまとめやすいのが特色である。

【例】

古典より

▽京はげに王城なれや何事も

(おん)(じやく)あつかるほどの疝気持

▽負角力ちから及ばずせんかたも (傍線は筆者)

&『和光の影』 

 

小倉付 おぐらづけ 

「小倉百人一首」所収歌の詠み出し五音を上五に置き(課題)、これに中七と下五を付けて十七字にする付合を〈小倉付〉という。百人一首の各歌容とはまるで趣向の異なったものに変化(へんげ)するため、幕末まで人気があった。

別に〈中入(なかいり)〉といって、百人一首の上句中七を採ったものもあり、これも含め小倉付けと称された。

 甘の腹 付けすぎたりや小倉餡   待也

【例】

上五の小倉付

春過ぎて  蚊帳が戻れば夜着が留守

▽ながらへば  また来年も(ふぐ)食はん

▽明けぬれば  悪女に恋の俄ざめ

&『もみぢ笠』

中入の小倉付

酔覚て つれなく見えし 花戻り

&『誹諧春漲江』

▽世渡りに 身もこがれつつ 蛍売り

▽掃溜めに なほあまりある 菊の苗

 &『和光の影』

 

笠付 かさづけ 

雑俳で上五をあらかじめ決めておき、これに続く中七と下五を付け合うものを上方で〈笠付〉、関東では〈(かむり)付〉といった。別に〈烏帽子付〉〈五文字付〉〈かしら付〉などとも呼んだがみな同じものである。

笠付は、いうなれば〈前句付〉の縮小版である。前句付は前句に付け合って三十一音にするが、笠付けのほうは、

うしろには(上五の題) 師のひかへたる座敷舞

のように十七音で成る。とはいうものの、作句した十二音だけで独立した意味をもつ句にする必要がある。ここが笠付のポイントになる。

【例】

古典より

▽待ちかねて  わざと寝言にいふ嫁入(よめり)

▽待ちかねて  笑うて(いづ)る隠れんぼ 

&ともに『奈良土産』

▽さけばかり  夜着は質屋にのまれけり

▽ならべ置く  どれもさんちやは壱分づつ

&ともに『俳諧住吉をどり』

ねん入る   (そう)()の顔を月夜影

▽くたびれる   貧乏神の御念比(ごねんごろ)

&ともに『西国船』

《参考1》

吹簫軒雲鼓

抑この五文附といふことは、元禄六酉の年四月十一日、やつがれ始めて吹簫軒に於て興行せしぞかし、然るに季・切字なければ発句にもあらず、まして前句附といふにもなし、いかにぞや是先哲の式にもあらぬそゞろ事などゝ、蝸牛の角の職敵さがなき口に訇りあへりける、予が曰連歌に句立といふ事有、五もじを出して七五の詞を付け、立居にいひならはす、かれをもてこれを見れば誹諧の句立ともいはむ、よしやなにはのあしきとがは、我身ひとつに着るべき烏帽子付けと名づけて、夜毎に興行せしに、洛陽洛外挙つてこれを慰みとす &『西国船』

《参考2》

                   喜多村筠庭

この事(前句付興行)盛に行はれて、世の俗人皆是を好むほどに、下の句に上の句を付くるも猶むつかしとて、宗匠より、上の句初の五文字を出だして、次の七文字五文字を諸人につけさすることになれり、これを冠付とも笠付とも云ふ、かくいやしきわざになりぬれば、下部のわらはげすまでも俳諧と云ふふことを知りて、笠付して褒美とらんとするほどに、詞いよいよいやしくなれり &『独語』

 

笠付段々 かさづけだんだん 

〈笠付段々〉は〈笠付〉の下五を次句の笠としながら尻取仕様で連ね吟じていく雑俳遊びで、実質的に各句が〈(くつ)(かむり)〉の仕様になる。

さらに〈笠付捩り段々〉といって、〈捩り〉の手法を採るという、より込入った体裁のものも現れた。

【例】

笠付段々

夕けぶり  村々にある山の景

山の景  四季に品あり富士の山

富士の山  近海の海のすつぽぬけ

 (中略)

▽子のはだか  足出す雛の親しらず

親知らず  語りつたへに討つ敵

討つ敵  日々に蘇生をかぶき芸…

&『雪の笠』

笠付捩り段々

能舞台  柱がおもじや福わかし

福わかし  水くさいとて不通なり

不通なり  縁を切たるすつぽんじ

▽すつぽんじや 切売りに出る貧乏かぢ

貧乏かぢ  槌がすくなふて石原じや…

&『俳諧銭こま』

 

歌仙付 かせんづけ

〈歌仙付〉は〈小倉付〉同様仕様の雑俳遊戯で、三十六歌仙の作から上五を借辞し、中七と下五を付けるものである。歌仙詠そのものが百人一首ほど一般的でない理由もあって、さして流行らなかった。

【例】

古典より一句

▽駒とめて  煙草に息を(つぐ)きせる

&『蝶合』

 

金欲し付合 かねほしつけあい 

〈金欲し付合〉は「それにつけても金の欲しさよ」の短句を付合うことによって、いかなる長句をも狂歌の体に収斂させてしまう遊びである。〈前句付〉の変体で、江戸中期に流行した。

金欲し付合では、発句つまり現代の俳句のように独立句であろうがなかろうが、十七字体は見事に呑み込んで合体化してしまう万能受句の面白さがある。

 人でなし猫に小判とけなしおる それにつけても金の欲しさよ

【例】

金欲し付合(既成句付)

▽名月を取つてくれろと泣く子かな それにつけても金の欲しさよ

▽世の中は三日見ぬ間の桜かな それにつけても金の欲しさよ

▽柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺 それにつけても金の欲しさよ

▽降る雪や明治は遠くなりにけり それにつけても金の欲しさよ

▽枕絵もまず巻頭は帯とかず それにつけても金の欲しさよ

酒欲し付合(「金欲し付合」の一字違え)                    荻生まとめ

▽馬の耳すぼめて寒し梨の花 それにつけても酒の欲しさよ

▽武蔵坊とかく支度に手間がとれ それにつけても酒の欲しさよ

▽人妻となりて暮春の襷かな それにつけても酒の欲しさよ

 

冠付 かむりづけ 

〈冠付〉は〈笠付〉の関東での呼称である。仕様は上方と変りはない。

【例】

古典より

▽となりから  酔ふ紅梅の垣根ごし

赤くなる  たとん官して緋の衣

▽はやいこと  尾弓町から矢のつかひ

&『我衣』

*第二、第三句は時事句なので背景事情を知らないと意味が通らない。

 

狂俳冠句 きょうはいかむりく 

宝暦頃(17511764)雑俳の付合である〈伊勢冠句〉に刺激され〈狂俳冠句〉なる亜流が現れた。これは題の字数制約がなく自由なこと、体言止でなく用言止めを句尾とするなど特徴にしている。

【例】

古典より

解ける雪  あくまはらひに銭つつ

▽引て行く丸太  子を引ン抱いて乳母逃げ

ホンニマア  桶という桶みんな漏る

&『狂俳冠句』一枚摺

 

沓冠付 くつかむりづけ 

短句七七の十四字雑俳で、自分で三ないし四音の題を決め、それを(かんむり)(くつ)とに分けて付け合うものを〈沓冠付〉という。どう分けるかは任意に決めてよい。

【例】

題は「魚の名」                                                      荻生作

サワラ  いだあげくいびきかくト

クラゲ  を建てたで義理と情逃

▽クロダイ  を白だとほざく難

 

沓付 くつづけ 

下五を固定出題とし、これに上五と中七を付合うものを〈沓付〉または〈袴付(はかまづけ)〉と称する。〈笠付〉とは逆さ仕様である。

【例】

古典より

▽まる〳〵と月も笠めす   あまよろい

▽おもふさま立あとたゝく  額の蚊

▽大様に鷺の遊べる     水のうへ

&『若えびす』

題は「忍ぶ恋」                                                      荻生作

▽押入でお医者になりて  忍ぶ恋

▽三日月を口説き牝猫は  忍ぶ恋

▽ドヤ街にちんまり抱かれ 忍ぶ恋

 

車付 くるまづけ 

漢字二字の出題にそい、七五音雑俳の上七に一字、下五に一字、連想により縁語を付け合うものを〈車付〉という。

課題は「扇子」「七夕」「鰭酒」など俳諧季語の二字を原則とするが、季語かどうかわからない人たちが作るのにこの条件付けは見当違い。わずか十二字の制限、こだわる必要はない。

【例】

題は「滝壺」                                                        荻生作

▽鯉は登るも(滝登り) 振り出しに(壺振り)

題は「斗酒」                                             荻生作

▽一生通して(一升十して) 酔ってます(ズバリ酒) 

 

源氏付 ざっぱい/げんじづけ

〈源氏付〉は『源氏物語』所収歌から上五を借辞し五七五にまとめる遊びで、これも〈小倉付〉の亜流である。たとえば、

 おぼつかな  背戸でささやく夜の梅

といった作がある。作者・鑑賞者ともに所収歌に通じていないと話にならない。

 

五文字 ごもじ 

〈冠付〉の一つで冠を据え表裏二様の意味にとらえる遊び。

冠数が規定の五字から大きく逸脱したものが続出するなど無秩序振りが目立ち、この題の形式自体が意味をなさなくなった。

 

雑俳〔折句〕 ざっぱい/おりく 

有名和歌の語句二、三字を借り、そのうえでこれを一字ずつに解きほぐし一句に折り込む雑俳が存在した。仕方だけ残され、呼称のほうは未詳である。便宜的に〈雑俳 折句〉と称しておく。

〈折句題〉において、三音の各句頭折り込みは表現上かなりきつく、句意の底も浅くなりがちである。その結果、類似句が量産されたらしい。この傾向を抑える目的で本歌取散らしのような、さらなる制約を課するものが現れたが、どうも屋上屋を架すの感は否めない。

【例】

古歌を材に

     本歌                              柿本人麻呂

  ほのぼのと明石の浦の朝霧に島がくれゆく舟をしぞ思ふ &『古今和歌集』巻九

▽ホノホ  帆が見ゆる野良(のら)にやあの字の帆が見ゆる

▽カシノ  隠れゆく島は尾鯛へ登る客

▽ヲ シ  鬼が来てなと皺のばす文

▽ソ ヲ  ぞけるとしらず伯母の巻筆

▽モ フ  (もぐさ)買ふ母ふところに菓子

&以上『明石人丸大明神三万句集』

 

雑排〔折句題〕 ざっぱい/おりくだい

意味をもつ三字音の単語を五七五の各句頭に置き川柳に仕立てたものを〈折句題〉という。五七五の音数制約に加え定位置配置という二重制約を受ける。

これは江戸時代の雑俳から発生し、明治期まで愛好者が多かったが、現代ではほとんど姿を消している。ただし雑俳を対象とした場合は、〈折句形式の雑俳〉の名のもとに一括扱いし、内容も現代作品だけに限られている。

【例】

古典的作品

▽いなか  伊勢は神奈良は仏をかさに着る

▽みやこ  見ているはやさし遊女の湖月抄

&『孔雀丸』

▽ぼたむ  ぼた餅もたまたま食へばむまいなあかか

▽わかば  わつさりとかはる吉野や花の春

&『雲鼓評万句合』

昭和初期作品

▽サシミ  再縁を強ひられる身の置きどころ                  桃太郎

▽ヨツヤ  世の中はつまらないもの病みつづけ                 同

▽オチバ  オルガンが近く聞えるバラの垣                    茶の丸

&『川柳総合辞典』

平成の作品                                      荻生作

▽ケイバ  蹴られても痛み覚えぬ馬鹿おの

▽ハナビ  はなやかに夏夜を焦がす美女も居て

▽エロス  縁側で六尺揺らぐ済んだあと

*折句題では隠句と句容とのイメージを近寄らせたほうが句味が生かせる。制約を一つ加えることで、安易なアクロスを防ぐ効果も出る。

《参考》

東蘭洲(秋颿)

元禄六年葵酉六月、大旱して田畑一滴の湿なく、田地亀背のごとくさけ、農民これを嘆き、雨乞のまつりすれども、其(いらへ)あることなし、二十八日、霊岸島の白雲といふ老人、宝井其角をともなひて、舟にのりいでゝ、舟を上手につなぎ、三囲(みめぐり)に遊びしに、かね、太鼓を打ならし、農民の雨乞せるさまを見て、白雲これに戯れていふは、此人は日本俳諧の達人也、むかし、小野、能因などの雨乞せしためしもあれば、この人を頼みて雨ごひせば、其応あらん、といふにより、農民、其角をとりまき、ぜひあまごひしてたべ、といふに、其角もやむを得ず、手あらひ、口そそぎ、神前に向ひ拝みて、ユタカの字を折句にして、

 夕立や田をみめぐりの神ならば

それより夕方に向ひて、筑波より雷なりいだし、其雨盆を覆すごとしといふ、此句、其角が真跡今尚あり &『墨水消夏録』

 

雑俳〔謎句〕 ざっぱい/なぞく 

謎掛けの要素をそなえた川柳(五七五)を〈謎句〉と称している。

作者がとくに謎掛けを意識しなくても、背景が故事来歴などによるものは、時代を経た読者にとって解明の手続きを必要とするため、これも広義の謎句の範囲に入る。言い換えると、時事川柳は後世謎句となる可能性が大きいことを物語っている。

また、十七音という制約内に収める必要から極度に言葉を切り詰めた句体となり、その結果、解釈上の難解句が沢山存在するのもやむをえまい。

 川柳の謎句「目や耳はただだが口は高くつき」解釈は、「只」という字謎をひっかけ洒落たもの。

【例】

『誹風 柳多留』より

▽片足は四十二丁の浪にぬれ(二篇)

 *中国式に六里一丁の割りで数えた相州の「7里が浜」をさす。

▽口先で日和をくづす美しさ(三篇)

 *雨乞いの歌を詠んだ小野小町のこと。

▽そば切が二十うどんが二十七(九篇)

 *四十七士。討ち入り前、本所の蕎麦屋で腹ごしらえした時の内容だろう。

▽十四日油断をすると山へ抜け(一〇篇)

 *七月十五日江戸の盆の支払を前日に懸念した句。

▽木の利かぬ人と山吹置いて逃げ(二五篇)

 *太田道灌の山吹の有名詠歌を揶揄した句。

 

雑俳〔謎付〕 ざっぱい/なぞづけ 

〈謎付〉は雑俳に〈謎なぞ〉を取り入れたもので、〈ものは付〉と同類でこの呼称を用いることもある。

謎付は、初期俳諧発句の付句集『新撰 犬筑波集』(山崎宗鑑編、享禄三年=1530頃成立)に源流を辿ることができる。この集の人気が高まり、やがて〈前句付〉の流行を呼んだことは周知の通りである。

謎付けは当初、江戸ではやり始めた。まだ句体は整わず、

気になるものは  風にあふられた木戸

         後家の美貌

綺麗なものは  杜氏の足

         できたての銭

のように、どうも味わいがない。謎付の結社も方々に現れ、たとえば会費持ち寄りで謎句を出し合う。解答は皆で合評し、秀逸作には賞品を出すものもあった。

謎付は基本的に〈二段なぞ〉の構えを取るわけだが、連想飛躍で冒険できる魅力があるからだろう、人気は根強く近代まで命脈を保った。

なお色彩に関する掛け、たとえば「赤いものは」「白いものは」「黄金色のものは」などはとくに〈色付〉と称した。

【例】

七七体のもの

▽目出度物  子の日の小松()の子餅

悦ぶ物  乞目(こいめ)の出合い出会ふ恋

悦ぶ物  孫の帯とき願ほどき &『花の友』

五七五体をなしたもの

たづねたづねて見えぬ物何

▽雑魚売りに海馬やあると産用意

短く見へて長いもの何

(もすそ)までとかせば滝の投げ島田

さらさらと音するは何

▽すきばらや急がせ給ふゆづけ(くひ)

&『たから舟』

《参考》

                   加藤曳尾庵

又寛保元年ノ冬、ナゾ付トテハヤル、点者ヨリ題ヲ出ス是ハ今ノ物ハ付ナリ、

 赤いものは 黒いものは 車でするものは 四角なるものは くゝるものは

カヨウナル品十種ホドヅヽ書テ、イズレナリトモ心付タル題ヘ付ル、料十銅ニテ、一番勝百疋、夫ヨリダン〳〵下ル、是モ赤艸紙ニ有、タトヘバ、

 赤いものは 親の譲りの黒小袖 

 黒いものは 田舎ものゝ綿帽子

 四角なものは トウフの耳 

 くゝるものは 山ねこ廻しの手 

 車でする物は 文七元結の尺八の音色 

三年ホドハヤル、後御停止ニナル &『我衣』

停止(ちようじ)といっても謎付そのものが消滅したわけではなく、後々結社などで継承されている。

 

地口付 じぐちづけ

享保八(1723)年頃一時的に〈地口付〉という興行が流行った。加藤(えい)()(あん)の随筆集『我衣』によると、

コレハ点者ヨリ題モ出サズ、附スルモノ思付キヲ書キテツカハス、点者其ノ宜キヲ取テ勝トス、褒美、或ハ反物、塗物道具、多葉粉等ナリ、地口附ハ下ニ絵ヲ書、上ニ其言葉ヲ書テ遣ス

とある。

川柳の始祖柄井川柳も雑俳の点者であった

 いちおう付合興行の形はとっているものの、実質的には言語遊戯を道具に懸賞で入花料(点者の収入になる)を稼ぐ賭博行為にほかならない。これの流行に対し幕府は禁令を発したが、当然の処置である。

 もっとも禁止対象になったのは地口付だけでなく、前句付・冠付・沓付など付合全般に及んだ。賭博行為化を防ぐための一蓮托生の処分であった。

まさに線香花火のような地口付の流行であったが、やがて江戸では〈絵地口〉や〈地口行灯〉に、上方では〈絵口合〉にと、呼称を変えて生き長らえる。

さらに最近、『雑俳諧作法』という本を閲覧するに及んで、地口付が現代でも創作されていることを知った。形態は昔と比べ大きく変わってはいるが、一遊戯子として快哉を叫びたい。ちなみに現代作品のほうは絵が付いてなく、代わりに(おき)(ことば)を用いて課題吟仕立にしてある。

【例】

古典より

  (猿の絵に付けて)

▽転々きゃっきゃっきゃっ←でんでんかっかっか=祭太鼓の音

  (乾鮭の絵に付けて)

▽もうまつまへ←松前にひっかけ

  (鰯の絵に付けて)

▽いっしゅのぬたはござらぬか←一首の歌とヌタの掛け合い

&『はいかい一字たいじぐち』

 

下句付 しもくづけ

上三句を題とし、これに下二句(七七)を付合う雑俳を〈下句付〉という。一例を挙げると、

上句(出題)  我が思ふ外にはあろう筈がなし

下句(投句)  勝手知つたる昨晩の賊

と、〈前句付〉に比べ仕様が反対になる。これの十四字は独立句ではなく、前句の助けがないと一本立ちの句とならない。

 創作上の妙味という点では前句付に一歩譲るためか、下句付はさして流行しなかった。現今残された作例もわずかなので、窮余の一策、例示では拙作をご披露に及ぶ。

 下句付は江戸時代の雑俳(古川柳)集『誹風 柳多留』などから比較的有名句を選び出し、それに荻生作の後句を繋ぎ足して狂歌仕立とする、型破りな趣向である。形の上では狂詠の禁じ手である「腰折れ歌」になる。しかし、川柳はもともと用意された後句(七七)に前句(五七五)を付ける「前句付」から発生した文芸だけに、前句に後句を繋げる作句は、抜き身の刀身をあつらえ拵えの鞘に収めるようなもので、あながち邪道とはいえない。いや、下二句を継ぎ足すことで、「穿(うが)ち」に「茶化し」が加わり、かえって狂歌並の面白い作品に仕立て直すことも可能だ。

ただし、下句付を可としうるのは、次の三要件が同時に満たされる場合に限る。

㈠出題の後句(多くは抽象的な畳句)を凌ぐ出来の後句であること。

㈡前句との呼吸が合い整った完成歌体になっていること。

㈢前句の穿ちをさらに引き出す弾みがついていること。

いずれにせよ、正規の川柳でも狂歌でもないわけだから、言葉遊びの一環と割り切る必要がある。

なお、「以降の二句は出題元句、出典名ないものは『誹風 柳多留』である。

【例】

狂歌仕立の下句付                              ▽は荻生作

かみなりを真似て腹がけやつとさせ「こはい事かな〳〵(初篇二)

▽もっと真似ろにまた外すなり

取上(とりあげ)婆々(ばば)屏風を出ると取まかれ「たづねこそすれ〳〵(初篇三八)

▽付いているかい割れているかい

役人の子はにぎ〳〵をよく覚え「うんのよい事〳〵(初篇七八)

▽袖の下をもつかむ癖だす

神代にもだます工面(くめん)は酒が(いり)「手伝にけり〳〵(初篇一〇一)

 *スサノオノミコトの八岐大蛇退治の故事をさしている。

▽だまされ上手蠎蛇(うわばみ)になる

あら世帯何をやつても嬉しがり「用に立ちけり〳〵(初篇二二四)

▽貧乏神も腰を上げ下げ

死に切つて嬉しそうなる顔二つ「むつまじひ事〳〵(初篇四一九)

 *男女心中が主題。

▽新床さぞや蓮華(れんげ)()の上

母親はもつたいないがだましよい「気をつけにけり〳〵(初篇六一九)

▽極楽往かせその振りと知る

かし本屋何を見せたか胴づかれ「さかし(こそ)すれ〳〵(初篇三八)

▽その手を食わす好きな蛤

江戸ものの生れそこない金をため「じやまなことかな〳〵(十一篇一九)

▽一拍子だに打たずお仕舞

〆ころすぞとおどかす大三十日「見事なりけり〳〵(十三篇二六)

元日(あす)化けやるとおどし返せり

女郎買う金をおやぢはためて死に *底本で後句なし。(二十二篇九)

▽供養と息子買いまくるなり

賽銭をのんで神輿(みこし)をよろけさせ「次第しだいに〳〵(『柳多留拾遺』四篇七)

▽あとの祭りも出来上がったり

業平の(はなし)する妻気に入らず「もつれこそすれ〳〵(享保十七年刊、苔翁評『裏若葉』)

▽鏡さしだし舌も突きだす

御人柄すてゝ障子に穴をあけ「いぢのわるさよ〳〵(元文元年刊、収月評『口よせ草』)

▽それまた見入るなんと暇人(ひまじん)

(ばか)りはみな強さうな角力(すまふ)(とり)/清滝「いろいろが(ある)〳〵(寛延元年、「筑丈評万句合」)

▽番付肥し天下八卦よい

臆病(おくびやう)も金と一緒にふえて来る/はつせ「ぎやうさんな事〳〵(宝暦七年「収月評万句合」)

▽貧乏神はだてにはつかぬ

あつさうに蛍をつかむ娘の子/さくら木「もつともな事〳〵(宝暦十一年「川柳評万句合」)

▽転びなさんな騙されるなよ

雪隠に書かれる顔の美しさ/水せん「はづかしい事〳〵(宝暦十三年「川柳評万句合」)

▽しげしげ見入る尻の重さよ

 

字捩り じもじり 

雑俳分野の捩りも同音異義語を用いることに変わりないが、他の分野でいう本来の〈捩り〉とは形態が異なる。雑俳の捩り付には〈字捩り〉と〈本捩り〉の二種があり、用法がそれぞれ違う。

字捩りは、中七が上五と下七の双方にかかるように作る。さらに中七が上下それぞれ異なった掛り(異義)になるような、秀句の役割を果たす。たとえば、

お姫様 ふりそでめした 月の笠 &『つばめ口全』

の句では、「お姫様振袖召した」と「降りそで召した月の笠」ともに中七の同音異義語に重ね合わされている。つまり上五の「お姫様」と下五の「月の笠」という意味の上でまったく繋がりのない二句が中七によって相関係づけられているわけだ。謎解きの要素も含んでいることになる。中七の課題いかんでは、けっこう楽しめる遊戯である。

字捩りは能登地方で〈段駄羅〉という伝統言葉遊びとして今なお残り、地域起こしに伴い復活させようとの声も上がっている。

【例】

古今混交で

▽お祖師様 ありがたかりし 瓜の皮

 →「有難かりし」と「蟻がたかりし」

▽久米の仙 はぎのまよひは 秋座敷

 →「脛の迷い」と「萩の間良い」

 &『つばめ口全』

▽時鳥 きいて参つた 茶わん酒 

 →「聞いて参つた」と「効いて参つた」

▽瓜の皮 むいて見せたる 後ろ帯

 →「剥いて見せたる」と「向いて見せたる」

 &『嬉遊笑覧』

荻生作

蛞蝓(なめくじり) はしたないさま 阿魔(あま)伝法(でんぽう)     

 →「歯舌ないさま」と「(はし)たないさま」

《参考》

初午稲荷詣 地口    山崎美成地口と似て異なるは、語呂(ごろ)と、もぢりなり、語呂といふは自然と語勢の通ひてそれときこゆるなり、(中略)もぢりといふは、中の詞を上下へもたせ聞するいひかけなり、御祖師様ありがたかりし瓜の皮、あぶり餅こがしやかとなる摩耶夫人などなり、このもぢりの一体に、おくさまのお寝間へいつか〳〵とはひかけてくる朝顔の華、などいふもありし、

&『三養雑記』巻一

 

洒落付 しゃれづけ

雑俳中の一句を洒落で飾るものを〈洒落付〉という。七音句を軸に創作する。すなわち、修飾する位置は、五七五の句なら中七、七五の句では冒頭句となる。

洒落といっても駄洒落も含まれ、むしろこのほうが数多い。

洒落付の過半は課題吟であり、さらに「白いものを」とか「食べ物不可」のような縛りの付く場合がある。

【例】

現代作品より                                    荻生作

   天気を

東風(こち)吹かば雨夜横ちょに三度笠(←ままよ)

酒に限る

▽酔いつぶれチンザノ恋の物語(←銀座の)

   題は自由、食べ物不可

▽遠目には大根(つら)が塗りつぶし(←下手な役者)

 *この句、作者が「役者」の意味で使っても大根は食べ物ゆえ病句になり、失格である。

 

十四文字 じゅうよんもじ 

雑俳で七七の十四文字で作る短句を〈十四文字〉と通称している。

長句十七文字よりも一段と少ない音数で、いかに内容のある句にするかで優劣が分かれる。字余りは(やまい)句(違反句)であり、出題にそった課題吟とすることもある。

【例】

題は「匂うもの」、バレは不可                     荻生作

▽ラーメン横丁腹が号泣

▽はな引き寄せる赤ちゃんの肌

▽愛想良くなる給料日

 出典は宮武外骨『一癖随筆』十四文字

 

十四文字折句 じゅうよんもじおりく 

仮名二字を七七各句頭に置く遊びを〈十四字折句〉といっている。

図に引用の宮武外骨ではないが、古典では十七字句に勝る名句も少なくない。

題は「なえ」                                 荻生作

▽仲がよすぎて縁なき子供

▽涙のあとの笑顔ポンチ絵

▽生酔い左エロ事は右

同字縛り「食べ物二以上」                        荻生作

▽あんみつ姫に甘栗太郎

▽涙のあとの笑顔ポンチ絵

▽生酔い左エロ事は右

 

上下据字 じょうげすえじ 

雑俳五七五のうち上五と下五を題に指定し中七のみ付けるものを〈上下据字〉という。

【例】

題は「酔わぬのに○○○○○○○千鳥足」              荻生作

▽酔わぬのに ぬかるみさけて  千鳥足

▽酔わぬのに 両手に花で 千鳥足

▽酔わぬのに 恋の水茎 千鳥足

 

上下付 じょうげづけ

七七の十四音雑俳を対象に、指定の二音題を(かむり)(くつ)とに付けるものを〈上下付〉という。上下付作品は十四字厳守で字余り不可、止めも必ず体言止とし、用言止は(やまい)句(違反句) になる。句順や清音・濁音について「天地清濁随意」など緩和条件をつけることもある。

【例】

題「ヨ・メ」「ム・コ」

▽ヨメ  った口から逃げた枝

▽ムコ  しゃむしゃ食べる割勘の下

題「ア・タ」「リ・メ」(天地清濁随意)

▽アダ  い海辺へ焼きに行く

▽メリ  に入らずにこぼす目

&『雑俳諧作法』

 

浄瑠璃付 じょうるりづけ 

古典浄瑠璃の文句を取って雑俳に仕立てたものを〈浄瑠璃付〉という。普通七七句を連想に基づいて作句する。

浄瑠璃の本場大阪では、今でも吟社などでこれの伝統が受け継がれているという。

吟社での句会風景 

【例】

擬古作品より                                 荻生作

枕をたたむ夢たたむ(国性爺合戦)

▽ () 惚れた相手が陰間とわかり

七つの時が六つ鳴りて(曽根崎心中)

▽ () 質草流れをフト気づくなり

観音威力(いりき)ぞ有難き(出世景清)

▽ () 箪笥ヘソクリやよ見いだせり

 

据字 すえじ 

俳句・雑俳五七五のうち中七の文句を出題とし句を完成させる遊びを〈据字〉という。出題形式に変化をつけたもの、中七自由題のもある。

【例】

題は「(かわず)飛び込む」                               荻生作

▽下手なりに 蛙飛び込む ざれ発句

雨乞いや 蛙飛び込む 幕の内

夕立や 買わず飛び込む 女郎見世

 *この句、音通の曲取り。

 

立入 たちいり 

雑俳用語で物名(隠句)を句中にそれとなく隠し入れる技法を〈立入〉と称している。和歌でいう〈(ものの)名歌(なうた)〉の作法を雑俳に応用したものと考えてよい。

純然たる雑俳では別に〈立入短句〉といっているが、ここでは切字を用いた俳句風作品をも含めた総称とする。今では、立入の用語自体がまれに見るほどになっている。

【例】

古典より

▽魚名四  くちをしやこちらがゑそは棒だ

 らけ(石首魚(くち)(こち)狗母魚(えそ)(たら))

 &『経よみ鳥』

▽鳥名四  うかりけり壁に耳つく浮世かも

(()(かり)木菟(みみづく)(かも))

 &海士(あま)をぶね』

▽虫尽し  昼からはちとかげもあり雲のみね       一茶

((ひる)()(はち)石竜(とかげ)(あり)(くも)(のみ))

 &『一茶発句集』

 *この句、十五音中に二音をのぞいて物名で構成。句体は俳諧、心は雑俳だが、立入にしては見事にすぎる秀句といえる。

 

九十九折 つづらおり 

短句七七の十四字雑俳で四音の題を決め、それを各句(かんむり)(くつ)とに分けて配置するものを〈九十九折短句〉という。十四音のうち四音が縛られかなり作りにくい。折り順は①③②④とするのが基準だがこだわる必要はない。難解な割りに句体を整えにくいという弱点があるため、現在ほとんど衰退している。

【例】

現代作品より「物の名四音」

 ①②③④

▽マナイタ  ()り道し()()い人()

▽シイタケ  ()くじってま()()じけてる()

 ▽マクラエ  ()違えなが()()ぬぐう見()

 &『雑俳諧作法』

 

天地 てんち 

漢字と仮名の別を問わず、二文字の名前や熟語を一文字ずつ二分し、雑俳の(かんむり)((かしら))および(くつ)(())それぞれに折り込んだものを〈天地〉という。つまり一句で〈(くつ)(かんむり)〉の形になっている。

【例】

古典より

▽忠度  忠兵衛が冥途の旅ニゆく三度

 &『とはず口』

▽春雨  春日野の飛火を消しに北時雨(しぐれ)

 &『花の宿』

▽クモ  苦も知らぬ庵に真知の月を友

 &『和光の影』

 

二字入 にじいり 

雑俳で一句中に漢字一文字を二度使いしたものを〈二字入〉という。置く位置は上五・中七・下五いずれか一度ずつ。

【例】

古典より

▽人  仏より先人になる人がない

▽神  かよふ神見出してあれる山の神

▽顔  朝顔の日にうばはれて赤い顔

&『市楓評五千句集』

 

本捩り ほんもじり

〈本捩り〉も〈字捩り〉と並ぶ雑俳独特の捩り遊びで、ともに中七を上五と下五に掛ける点で共通している。ただ、字捩りが上下二義に働く秀句であるのに対し、本捩りは字義が双方に直接掛かる単義である点で異なる。

本捩りには〈気捩り〉の別称があり、その形態の単純さゆえか、人気では字捩りに及ぶべくもなかった。

【例】

古典より

▽軽業師 行灯へ立つ 木綿針

▽迷子の 見つけて嬉し 下手の鞠

&『江戸の粋・短詩型文学前句附け』

《参考》

加藤曳尾庵

享保十年頃、捩リト云コトハヤル、字モジリ、本モジリノ両説アリ、是ハ近所ノ俳諧ナドスル人ヲタノミ、甲乙ヲ分ツ、勝ニハ懐紙をツカハス、五人三人七人ニテモ人数カマヒナシ、先ズ題ヲ出シ、一句ヲ付ケル、一句ノ終リヲ又題ニシテツケル、今ノ段々付ナリ、

 字モジリ/題丸カブリ スキ カマ クハヲモツ土民(鋤・鎌・鍬を持つ土民、好きか真桑瓜を持つ土民)

又土民ヲ題ニシテウケテ下五字ヲ別ニ云廻ス、

 ムスメノ子 カミスイテイル 三谷町(髪梳いている、紙漉いている)

前に同じ/本もじり

 題、年布、臼アリ 杵アリ 兎モアリ 

 題、兎モアリ、細長をあられに切る

此外シリ五文字等アレドモ略ス、文字理と書テ可ナリ 

&『我衣』

 

前句付 まえくづけ

〈前句付〉は雑俳の一体で、点者が下二句(七七)を題に出し、これに参加者が上三句(五七五)を付ける〈付合〉の一形態である。例で示すと、

前句(点者)  切たくもあり切たくもなし

付句(投句)  盗人を捕えてみればわが子なり

のように、投句者は出題の句味を的確に理解し題から遊離しないように付合う必要がある。

 前句付、享保五年和本「扁額 」矢島峯月書

 前句付は延宝年代(167381)に起こり元禄八(1695)年ころ最盛、享保末(1716)まで流行をみた。家元に相当する宗匠は点者を認可する権利を持ち、点者は一般から付句をつのり、入花料なる点料収入を得ていた。当時、点者では収月、判者では机鳥、紀逸、川柳らが有名であった。

前句付は、文芸を娯楽として楽しむ庶民に大受けした。季語だの切字だのと形式にとらわれた俳諧にない自由闊達さがあり、普段使い慣れた平易な言葉で作ればよい。しかも一時期ではあるが「褒美前句付」といって、秀作には景物つまり景品まで出しており、これまた人気をあおる一因となった。元禄期には、諸国から一投句点料十六文、一回につき一万句も集める大規模な興行「万句合」すら登場しいる。前句付の中でも秀逸作、たとえば、

役人の子はにぎにぎをよく覚え

などは、「うんのよい事〳〵」という前句がなくとも、付句だけで一本立ちしうる句体を作りあげている。

 判者の一人である柄井川柳が、付合う長句の自立化を促進し、「川柳」という新分野の確立を成し遂げたのも注目すべきことだ。

【例】

代表的な前句付

▽宝船来るたびに寄る(おい)の波

  前  めでたくもありめでたくもなし

 &『誹風 柳多留』八九篇

▽異見いふ人に心で尻くらへ

  前  じつとだまつて〳〵

 &『なつこだち』

▽一つ取りや皆ついてくる香の物

  前  ぶてうほうな〳〵

 &『寄太鼓』

▽下女部屋に親仁の眼鏡落ちてあり

  前  どうもいはれぬ〳〵

 &『かはりごま』

()へば立て立てば走れと親心

  前  障子に穴を明くるいたづら

 &『千代見草』

古典笑話より

  めとも言ひもとも言ふ                    安楽庵策伝

宗祇(飯尾)、宗長(柴屋軒。宗祇の高弟)とつれ立ち、浦の夕べに立出であそばれしに、漁人の網に藻を引上たり、「これは何と名をいふぞ」と問はれたれば、「めとも申し、もとも申す」と答ふ。時に祇公、「やれ、これはよい前句や」とて、

 めともいふなりもともいふなり

総長に、「付けられよ」とありければ、

 引連れて野飼の牛の帰るさに

牝牛(めうじ)はうんめとなき、()(うじ)はうんもとなくなる、祇公感ぜられたり、宗長の「一句沙汰あれ」と所望にて、

 よむいろは教ゆる指の下を見よ

「ゆ」の下は「め」なり(「いろは歌」で)、「ひ」の下は「も」なり &『醒睡笑』巻一

《参考1》

秋月下白露

誹諧といふもの、何の益にかなせるといふ故さへ、知らざる人少なからず、かくまでおとろふ事ぞといへども、風雅の道を金銀にかへ、利益を得んがため、商物同前に持なす故とぞ思ふさあればとて、点料を受納する事を憎むにあらず、貞徳京師花咲社中にト居の時に、誹諧の百員点をとりにのぼせけるみぎり、其国々の名産を礼として上しけるよし、かく双方ともに志の厚き事にて知るべし、(中略)其角の花押は風流のみを愛する心より、物好きたる点に、料を極めてとりたることなし、然れども隠者の事故、好士より志を厚くあしらひたる事ぞ、淡々も料物は自分より極め出さねど、いつとなく百員銀一両、五十員銀二朱、歌仙一銀目半と、朱料に定り来たりしとなり、夫を後世の誹士、此朱料を書付、当座に贈らざる方へは、書付を遣すなど、卑劣の沙汰になりし、後世の誹士、此事を是とも思はじ、然れどもこれをあらたむる人稀也、かく降りし誹道故、点者たる人々を宗匠と称す、一向其意を得ざる事なり、何の道にても宗匠と号せるは、これ其道に一人のものなり、他の芸道にも此ごとくなる称号を聞ず、文学をして風誹に遊ぶ人々、これを弁へざるはあさまし、集物を成に句々の善悪も弁へず、手にはの吟味も正さず、入料さへ添来れば、悉く加入す、是近世の悪風なり 

&『誹論』巻二

《参考2》

                                喜多村筠庭

五十年の前は、たゞ歌仙とて三十六句を連ね、或は五十韻百韻とて連歌のごとく連ねて、宗匠の点を乞ひて優劣を争ひあへるのみなりしに、元禄の初の頃より、前句付と云ふこと起る、其の法宗匠より下の句を一句出だして、多くの人に上の句を付けさせて、点に第一第二の品を命じて、甲乙の次第に従ひて賞を行ふ、其の賞は、或は布帛、或は器物など、そこばくの直なる物を出だす、布帛器物に望なきものは、その直なる金銀をとる、此の賞を得んとて、貴賎となく我も〳〵と句を付けて、日々に点銭を費す、是則博弈の類なり 

&『独言』

 

三笠付 みかさづけ

〈三笠付〉は〈冠付〉の一、江戸で某雑俳宗匠が始めた。冠の五文字を三題出し、続く七五を付けさせ優劣を競わせた。のち《参考》にあるような賭博化し禁制に追い込まれる。

 三笠付そのものの例示はある程度の説明を要するので、ここでは省く。

《参考》

加藤曳尾庵

正徳ノ頃ヨリ、右ノ冠付ニナゾラヘテ三笠付ト名付、不宜コトハヤリタリ、前々ハ始ナレハ諸人ノ合点仕安キヨウニ、冠付ノ題一ツヘ句二十一句カキツケ、其二十一句ノ内ニテイツレノ句々カ、三句組テ出スト云コトヲ当手サセ、誠三句トモニアリタルモノニハ金一両ヲ遣ス、料ハ十文ニテ金一両ヲトルベシト思ユヘ、諸人欲ニフケリ昼夜勘ヘ是ノミ業トス、次第々々ニ流行テ後ニハ冠付ノ句ヲ点者ヨリモ出サズ、懐紙ト名付、巻紙ノ内ニ和歌三神ヲ書、一十一十五ナトヽ数計リヲ書テ封シ、正面ニカケオキ、付ル者ハ帳面ニ右ノ一ヨリ二十一迄数計三ツ宛組合セテ一句トナシ、右一句ノウチ三ツトモニアタレハ、一番ナリ、二句アタレハ二勝トテ銭ヲツカハス 

&『我衣』

 

迷俳 めいはい 

雑俳で、有名歌俳から部分借辞して五七五体を完成させる遊びを〈迷俳〉と通称している。

普通は五文字付け仕様で、別に述べる〈笠付〉〈沓付〉〈小倉付〉などがこの範疇にに含まれる。

 

連々呼 れんれんこ

〈連々呼〉は雑俳形式の〈ものは付〉のうち、解き句の中に〈畳語〉を挿入したものである。

言葉重ねの点がいささか変わっているだ

けで、在来のものは付と同類であり、文化頃(180418)一時的に現れたものの間もなく消滅している。

【例】

古典より

▽金銀のために命を失うは──よくよくの欲

▽佐野の渡りの夕暮は──ゆきゆきの雪

▽はやらぬ女郎の無筆は──よんでくれよんでくれの読んでくれ

▽福寿草の根がふえたは──芽でた芽でたの目出た

▽阿蘭陀虫眼鏡は──ありありの蟻

&『連々呼式』

 

割句 わりく 

出題された文句を川柳の(かんむり)(くつ)とに割り振って折り込むものを〈割句〉という。折り込む隠句は三音~五音と、どう分けるかは任意である。

仕上がった句に妙味がなく、現在ほとんど作られることはない。

【例】

題は「花の名」                               荻生作

ナデシコ  撫でられて二尺力士が派手に四股

▽キンセンカ  金銭でしあわせを買へ現世(うつつよ) 

サツキ  束がはじけ夢見の泡景気(気結割句)