「百薬の長」がお待ちかね。ほろ酔い気分で口ずさめばさらにご機嫌

 

Ch.20  酒の唄

 

 

Ch.20 酒の唄 目録 (五十音順) 


▼「酒大学林」より転載コンテンツ 

1 丹波流の祈り詞 2 越後流の祈り詞 3 南部流「仲仕込み唄」 4 秋田「酒屋唄」 5 越後流「櫂突き唄」 6 越前流「留唄伊勢音頭」 7 伊丹流「数取り唄」 8 広島流「酛摺り唄」 9 九州流「添えつき音頭」 10 酒造歌  11 籾摺歌 12 俊寛

13 猩々 14 紅葉狩 15 養老 16 出雲崎節 17 じやんじやかとてつるけん 18 とことんとこ節 19 しやんこ節 20 さけずき猩々寺 21 とつちりとん節() 22 新板大津絵節 23 アンコ入り都々逸之 24 アンコ入どどいつ 25 猫ぢや猫ぢや

26 京の四季 27 サノサ節 28 蛮襟ソング 29 オッペケペー 30 謙良節 31 嬉しき舞  32 お立ち酒 33 さんさ時雨 34 ドンパン節  35 杓子舞唄 36 真室川音頭 37 会津磐梯山 38 ほめことば 39 初瀬 40 肴節 41 羽田節 42 扇黒骨 43 三崎甚句 44 佐渡おけさ 45 御酒 46 松前節 47 世の中 48 江津舟歌

49 よいやな節 50 よいこの節 51 黒田節 52 おてもやん 53 酒宴 54 しよんがいな節 55 まだら節

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

▼新規コンテンツ 

赤い物で言はうなら 大つゑぶし 尾張舟歌「酒くどき」 カフェーの唄 京の四季 曲水の宴 くくみ酒 酒場の唄 酒盛唄 酒 酒飲み 賛酒唄 賛酒の都々逸酒席唄 女給の唄 酒中花 しんねこ酒 デカンショ節 天盃頂戴 杜氏唄 涙酒 

ノーエ節 バンカラソング  やけ酒 陽気酒 酔っ払いの唄 

 

 絵になる歌になる、ニッカの余市工場

 

 

以下は拙書『酒大学林』資料編(荻生待也編著、おぎぶん工房刊、CDブック「資料編」資料補137、同補3878)からの抄出である(本文のみ)

ただし、本文縦組みのものを横組みレイアウトにしたため、一部に文字化けなど不都合が生じている。

 

酒造りの無事祈願

酒造りは一種の縁起事との信仰から、酒神などに祈念する行事も杜氏の仕事になっている。蔵で蒸米が終わると、それからの仕込み作業から始まり酒が醸成するまで、酒造りの安全無事を夜明けの切り火とともに、神棚に向かって唱える。

同時に酒造り唄は、蔵人たちが作業の仕切り時間進行具合を知るのにも欠かせない仕事であった。

詞は杜氏流派によって異なる。

1 丹波流の祈り(ことば)

カッチリカッチンと切り込みましたるは玉のようなる潔めの切火。真正面なる松尾さま、荒神さま、これなる鎮守さま、産土(うぶすな)の神さま、八百万の神々さまもお目覚めあらせ給うて、お立会のほど願い奉る。ただいま仕込みましたるは第○号の(もろみ)。江戸へ出しては江戸一番、田舎へ出しては田舎一。甘く辛くシリピンの上々酒とならしめたまえ。

 &職人(しよくにん)ことば事典(じてん)伏見酒▼井之口有一・堀井令以知編、一九八三年・桜楓社刊

 2 越後流の祈り(ことば)

 イヤー明け方からカッチリカンと切り込んだるは、玉のようなる切火なり。常礼発身盗戒、真正面が松尾さん、水神さん、荒神さん、笠間の門三郎稲荷さん、申しおくれましたがところ鎮寺、御屋歌のお稲荷さん。強仕込んだる第一号の添、お江戸へ出してはお江戸一、田舎へ出しては田舎一、千人万人万々人の御愛嬌をもって、旨く辛く尻ピンとして、大極上々の、御銘酒と成らせ給え。イヤー、祓え給え清め給え。悪事災難不浄よけ。

 &同上

 

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酒造り祝い唄 *秋田酒屋唄

酒造り唄

酒造り唄は、かつての手造り時代に蔵人たちが唄った労作唄である。厳冬期の蔵作業の辛さを発散させるためだけでなく、作業を円滑に進行させるため、時計代わりに正しく調子をとりながら唱和した。

唄の種類も、作業内容に応じて桶洗い唄、米搗き唄、米洗い唄、酛摺り唄、醪仕込み唄、数取り唄などに分かれる。

機械醸造の発達した現代では、文化遺産ともいえる酒造り唄が歌われなくなって久しいものがある。

 

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丹波杜氏「もと摺り唄」 

3 南部流「(なか)仕込(じこ)み唄」

ヤーアレとーろりナンセーエエ

エーエエとーろりとーヤーエ

ハーヨイトコリヤ サッサ 出た声なれば

ヤーアレとー 声を ナンセーエエ

えーええとられた ヤーエ

ハーヨイトコリヤ サッサ 川風に

揃た 揃たと 仲搗き揃うた 

秋の出穂より なおそろた

&定本(ていほん)日本(にほん)酒造(さけづく)(うた)▼阪田美枝編著、一九九九年・チクマ秀版社刊

4 秋田「酒屋唄」

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秋田酒屋唄(酒造り祝い唄) 

ハアー さんさ酒屋の ヤーエ(ハイ)/始まる時は ノーヤーエ(ハア ドッコイ)(へら)杓子(しやくし)も ヤーエ(ハイ)/アリャ 手に付かぬヨー(ア ドッコイ ドッコイ)

宵に(もと)摺る 夜中に()かす/朝の夜明けに 酒造る

酒屋娘と 知らねで(もら)た/酒は飲めるし 気も荒い

酒屋若い衆 大名の暮らし/五勺六勺 立てて飲む

酒は良いもの 気の晴れるもの/飲んだ心地は 富士の山 

銘酒太平山 ()が名をくれた/出羽の秋田の 佐竹様

&日本(にほん)民謡(みんよう)大観(たいかん)東北篇▼一九九三年・日本放送出版協会編刊

5 越後流「櫂突(かいつ)き唄」

ヤアー 銘酒だ銘酒だ 酷寒銘酒だ 夏もつ酒だよ

アリャアリャ ヨンヤセイ サーヨンヤセイ サーヨンヤセイ

ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ 

ア どうだい 兄弟 調子が揃ったら ちんやり 早めて

シャンにもしようかい アリャリャン ヨンヤセー

&同右

6 越前流「留唄伊勢音頭」

アー 伊勢はヨーエー 津で持つヨ(アラ ヨイヨイト)

津は伊勢で持つヨ(アラ ヨイヨイ)

尾張コラ名古屋は ソーレワヨ城で持つヨ

(アラ ヤートコセーヨーイヤナ アリャリャコレワイセ ササナンデモセー ソリャヨイヨイ ソリャヨイヨイ)

&日本(にほん)民謡(みんよう)大観(たいかん)中部篇

7 伊丹流「数取り唄」

一、始まって最初の鳥の一穴(イツケツ)まははじまり

二、日光は天下の宮 ニコニコするのは若戎

三、三本松は伊丹の遊女 おさん伊達こき間男のはじまり

四、四方殿は但馬の守 シクシク泣くのは夜の○○

五、ごっそりごんぼう ゴソゴソするのは藪いたち

六、六甲山は灘のはげ山 六ケン松阪伊勢街道

七、お七の災難鈴が森 七面鳥は灘の鶏

八、はっちん坊主は百日の上がり はっちん坊主はたこの足

九、クスボリ銅ガン釜屋のふんどし 九郎判官義経公

十、十太郎大師は釈迦の孫 東照宮は天下の宮

十一、   紺田屋のいとはん

十二、   薬師はぼぼ薬師

十三、   法華の太鼓

十四、   十四の毛揃い

十五、   十五の春から一人は寝られん 十五の夜明け  

十六、   十六羅漢 ははたらかん

十七、   観音

十八、   鬼も十八、蛇も二十歳 十八娘は番茶も出花

十九、   厄善 十九は愛宕

二十、   姉は二十歳で嫁に行った

&(かもし)(わざ)「杜氏への第一歩」小島喜逸著、一九九四年・リブロ社刊

8 広島流「(もと)()り唄」

ア酒のヨー 神様ヨー(ヨイヤナー ヨイヤナ)

松尾(まつのお)ヨー様ヨー 造りヨーまします

(まします ヨーホイ ヤレ五万石 エンヤレサーノセーションガエ)

&日本(にほん)民謡(みんよう)大観(たいかん)中国篇

9 九州流「添えつき音頭」

中のしんに 押し立てて ヨーイソラ ヨーイソラ

ヤーレ 銘酒よ 出る出る ヤ ハイハイ 樋の口かめに

ア ヨイショ ヨイショ ヤーレ お声

自慢の ヤ ハイハイ

歌も出る ア ヨイショ ヨイショ

出来ど みやあせんかい ヨーイ ヨーイノ ヨイ

&定本(ていほん)日本(にほん)酒造(さけつく)(うた)

10 酒造歌(徳島県名東郡)

わしの殿御はどこでもわかる。ヨイナ〱、わらで髪結うて、三文編笠けつくぐり、背中に大の字三つも四つも五つも入れて、阿波の吉野川あちやへとび、こちやへとび、エーヤサツ〱で筏乗る。シヨーンガエー。

竹に雀、エーエンエチユー〱バタ〱、羽を揃へて品よく止まる。止めても泊らぬ色の道。

ぐわんてうに鶴の鳴き声あのはねつるべ、むかへますぞよ、わかみづを。

めでたいとも、さかづきのなかにをさまるしかい波。

&同右

11 籾摺歌(熊本県下益城郡)

むかしの人のやさしさは、扇子の要に池を掘り、池の右泮に田を植ゑて、ひともと刈りては千石の、ふたもとかりては二千石、俵につもれば富士の山、酒に造れば泉酒、其さけ頂戴する人は、命もなーがいけれヤ、徳りもあるとくと、すゝめやお座の客。シヨンガエ。

&同右

 

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吉久保酒造(茨城県水戸市) 酒造り歌

(うたい)と酒

謡つまり謡曲は、能楽の歌唱部分である。文芸形式から見ると、演劇台本というよりは歌曲に近く、独特の韻を踏んだ律調がその印象を強めている。又形式上、序破急という構成をとってはいるが、これまた吟唱に合った詞体にととのえられている。その題材もほとんどが説話など古典からとったもので、これを能楽特有の言語遊戯的修辞を弄しつつ脚色してある。

ときに謡曲では、酒盛りを扱った作品は数少ない。姉妹関係にある狂言が数多酒に材を求めているのとは対照的である。その理由は、能楽では幽玄を重視するあまり、とかく乱調の危険を含む酒とか酔人は、意識的に遠ざけられてきたからであろう。それだけに「猩々」はじめ「養老」や「邯鄲」などの存在は、左党をうれしがらせてくれる。いわば、とろりとした古古酒の味わいだ。

12 俊寛(鬼界島)

 【四番目物】観世元雅作?主人公は平安末期に実在した僧。シテ=俊寛僧都、ヤスヨリ=平判官入道康頼。

ヤスヨリ「あれなるは俊寛にてわたり候か、是までは何の為に御出にて候ぞ シテ「はやくも御覧じ咎めたり、(どう)(むか)への其ために、一酒を持ちて参りて候 ヤスヨリ「そも一酒とは竹葉の、此島にあるべきかと立ち寄り見れば、や、是は水なり シテ「これは仰に候へ共、それ酒と申事は、本これ薬の水なれば、(れい)酒にてなどなかるべき 二人カカル「実々是は(ことはり)なり、(ころ)は長月 シテ謡「時は重陽 二人謡「所は山路 シテ謡「谷水の 三人謡「彭祖が七百歳を()しも、(こころ)を汲み得し深谷の水 上歌「飲むからに、実も薬と菊水の、実も薬と菊水(きくすい)の、心の底も白衣(しらぎぬ)の、濡れて干す、山路の菊の露の()に、我も千(とせ)を、経る心地する、配所は扨もいつまでぞ、春過ぎ夏()けて又、秋暮れ冬の来るをも、草木の色ぞ知らするや、あら恋しの昔や、思ひ出は何につけても 歌同「あはれ都に有し時は、ほ(ほつ)勝寺(しようじ)(ほう)成寺(じやうじ)、ただ喜見城の春の花、今はいつしか引かへて、五衰滅色の秋なれや、落つる木の葉の(さかづき)、飲む酒は谷水の、流るるも又涙川、

水上(みなかみ)は我なるものを、物思ふ時しもは、今こそ限りなりれ。                 

 高野山般若湯 和歌山・初桜酒造㈱醸

13 猩々(しやうじやう)

【切能】作者未詳も金春能、寛正七年二月演能と「飯尾御成記」に。有名作なので全詞を紹介する。ワキ=高風、シテ=猩々。

   名ノリ笛

ワキ「これは唐土(もろこし)金山(きんざん)(ふもと)楊子(やうず)の里に、高風(かうふう)と申す民にて候。われ親に孝あるしるしにや、ある夜不思議の夢を見る、楊子の市に出でて酒を作りて売るならば、富貴(ふツき)の家となるべしと、教への告になす(わざ)の、「時去り来りけるにや、次第次第に富貴の身とまかりなりて候 「またここに不思議なる事の候。童子のごとくなる者一人(いちにん)来り、それがしが酒を買ひ取り飲み候ふが、(さかづき)(めぐ)れども(めん)(しよく)変る事もなし、あまりに不審に思ひ名を尋ねて候へば、海中に住む猩々と名のり、壺を抱き海中に入りて候ふほどに、(しん)(やう)の江に立ち出で、酒を(たた)へ、かの猩々を相待たばやと存じ候 ワキ上歌「潯陽の江のほとりにて、潯陽の江のほとりにて、菊を湛へて夜もすがら、月の前にも友待つや、またかたむくる盃の、影を湛へて待ちゐたり、影を湛へて待ちゐたり。

   下り端

地謡「老いせぬや、老いせぬや、薬の名をも菊の水、盃も浮かミ出でて、友にあふぞうれしき また友に逢ふぞうれしき シテ三寸(みき)と聞く 地謡「三寸と聞く、名も(ことわり)や秋風の シテ「吹けども吹けども 地謡「さらに身には寒からじ シテ「理や白菊の 地謡「理や白菊(しらぎく)の、着せ綿を暖めて、酒をいざや酌まうよ シテ稀人(まれびと)も御覧ずらん 地謡「月星は(くま)もなし シテ「所は潯陽の 地謡(ゑひ)の内の酒盛 シテ「猩々舞を舞はうよ 地謡(あし)の葉の笛を吹き、波の鼓どうど打ち シテ「声澄みわたる浦風の 地謡「秋の調(しらメ)や残るらん。

   中ノ舞

シテ「ありがたや御身(おんみ)心すなほなるにより、この壺に泉を湛へ 地謡「ただいま返し、授くるなり シテ「よも尽きじ 地謡「よも尽きじ、万代(よろづよ)までの、竹の葉の酒、汲めども尽きず、飲めども変らぬ、秋の世の盃、影もかたムく、入江に枯れ立つ、足もとはよろよろと、弱り臥したる、枕の夢の、覚むると思へば、泉はそのまま、尽きせぬ宿こそ、めでたけれ。

14 紅葉狩(もみぢがり)

【切能】観世信光作。紅葉に染まった山あいで女達一行が酒宴を催す。シテ=女、ワキ=平維茂、ワキツレ=維茂の従者。

ワキツレ「名を尋ねて候へば、やごとなき上臈(じやうらふ)の、幕打ち廻し屏風(びやうぶ)を立て、酒宴の半ばと見えて候ほどに、ねんごろに尋ねて候へば、名をば申さず、たださるお方とばかり申し候 ワキ「あら不思議や、このあたりにてさやうの人は思ひも寄らず候。よし誰にてもあれ上臈の、道のほとりの紅葉狩、ことさら酒宴半ばならば、「かたがた乗打(のりうち)かなふまじと 地謡(ンま)より下り(くつ)を脱ぎ、馬より下りて沓を脱ぎ、道を隔てて山陰の、岩の(かけ)()を過ぎ給ふ、心遣ひぞ(たぐひ)なき、心遣ひぞ類なき シテ「げにや数ならぬ身ほどの山の奥に来て、人は知らじとうちとけて、ひとり眺むる紅葉葉(もみぢば)の、色見えけるかいかにせん ワキ「われは誰とも(しら)真弓(まゆみ)、ただやごとなき御事に、恐れて忍ぶばかりなり シテ「しのぶもぢずり誰ぞとも、知らせ給はぬ道のべの、便りに立ち寄り給へかし ワキ「思ひ寄らずの御事や、何しにわれをば()め給ふべきと、「さらぬやうにて過ぎ行けば シテ「あら(なさけ)なの御事や、一村雨(ひとむらさめ)の雨宿り ワキ一樹(いちじゆ)の陰に シテ「立ち寄りて 地謡一河(いちが)の流れを汲む酒を、いかでか見捨て給ふべきと、恥づかしながらも、(たもと)にすがり(とど)むれば、さすが岩木(いはき)にあらざれば、心弱くも立ち帰る、所は山路の菊の酒、何かは苦しかるべき 地謡「げにや虎渓(こけい)を出でし(いにしへ)も、(こころざし)をば捨てがたき、人の情の(さかづき)の、深き(ちぎ)りの(ためし)とかや シテ「林間に酒を(あたた)めて紅葉(こうよう)()くとかや 地謡「げに面白や所から、(いはほ)の上の(こけ)(むしろ)、片敷く袖も紅葉(もみぢ)(ごろも)の、(くれなゐ)深き(かほ)ばせの ワキ「この世の人とも思はれず 地謡「胸うち騒ぐばかりなり。

15 養老(やうろう)

【脇能】世阿弥作。雄略天皇(元正天皇時代説もある)の時代に発見された養老の泉を背景に、化身した山神などが霊泉をたたえる。ワキ=勅使、シテ=老父。

ワキ「げにげに聞けばありがたや、さてさて今の薬の水、この滝川(たきがは)のうちにても、とりわけ在所(ざいしよ)のあるやらん シテ「御覧候へこの滝壺の、すこしこなたの岩間(いはま)より、()で来る水の泉なり ワキ「さてはこれかと立ち寄り見れば、げにいさぎよき山の井の シテ「底澄み渡るさざれ石の、(いはほ)となりて苔のむす ワキ「千代に八千代の(ためし)までも シテ「まのあたりなる薬の水 ワキ「まことに老を シテ「養ふなり 地謡「老をだに養はば、まして盛りの人の身に、薬とならばいつまでも、御寿命尽きまじき、泉ぞめでたかりける。げにや玉水(たまみづ)の、水上(みなかみ)澄める御代ぞとて、流れの末のわれらまで、豊かに住めるうれしさよ、豊かに住めるうれしさよ 地謡「げにや尋ねても、(よもぎ)が島の遠き世に、今の例も生く薬、水また水はよも尽きじ シテ「それ行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にはあらず 地謡「流れに浮ムうたかたは、かつ消えかつ結んで、久しく澄める色とかや シテ「ことにげにこれは例も夏山の 地謡(した)行く水の薬となる、()(ずい)を誰かならひ見し 地下謡「いざや水を(むす)ばん、いざや水を掬ばん 地上謡(もたひ)竹葉(ちくえふ)は、甕の竹葉は、蔭や緑を重ぬらん。その外(まがき)荻花(てきくわ)は、林葉(りんえふ)の秋を汲むなりや、(しん)(しち)(けん)が楽しみ、劉伯倫(りうはくりん)(もてあそ)び、ただこの水に残れり。汲めや汲め御薬(みくすり)を、君のために捧げん 地下謡(きよく)(すい)に浮ぶ鸚鵡(あうむ)は、石に(さは)りて遅くとも、手にまづとりて夜もすがら、馴れて月を汲まうよや、馴れて月を汲まうよ。

 中世の売り酒〔『七十一番職人歌合』より〕 得体の知れない自家醸造酒が跋扈した

近世・近代酒席唄〔宴外不出篇〕

酒盛りに俗・俚謡。まったく意気投合、といった取り合わせである。

酒席を賑わす歌謡の大半は俗謡か民謡だ。雰囲気にピッタリの音曲であるし、詞のほうもいささか与太り気味で、高吟放歌向き。飲むほどに歌うほどに、座は渾然と同化し、対人関係の垣根が取り払われていく。

近代まで、お座敷唄と云うと、小唄・都都逸あるいは破礼(バレ)唄に人気が集中していた。ときには芸妓の三味線爪弾きに乗ったり乗せられたりで、一見渋いノドを披露する旦那芸がはやった。今なら、スナックバーで一杯やりながら、マイク片手にカラオケといったところだろう。

酒席唄に関しては、この「宴外不出篇」と続く「飛入り民謡篇」の二部に別けて構成した。出典の多くは粋筋やお座敷商売の教則本といったところで、詞の調子に合わせ二上り三下りといった曲に調弦(ととの)える。なお【 】は所収書名を示す。

16 出雲崎節

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茶屋へ腰かけ、酒の肴は何じやいな、問はれて番頭のいふことにや、海は荒れるし、魚は無し、まいのまいの松の木に、松の小枝に鷹とめて、小鳥とらしてトコあんちやん酒肴【俗謡末摘花】

17 じやんじやかとてつるけん

酒は剣菱いろよしで、かはり一猪口三猪口ちよこ、お酌はぶら〳〵なまけでまゐります、じやんじやかじやか〳〵じやんけんな仲居はお客にしかられて、返事ははいとてつるけん、気をつけてサア来なせへまいりましよ、チヨン〳〵ガヨンヤサ【俗謡末摘花】

 *拳酒全般の囃し。

18 とことんとこ節

酒は剣菱、肴はきどり、とことんとこ/酌はたぼがよい、ヤレコノ、飲めやんす/一杯あがれとつぐ酒も/どうでも年増が、味がよい/たんぼさん〳〵【饗庭篁村「張込帳」】

19 しやんこ節

花の桃山、善光寺の弥陀仏が/酒や肴の極楽へ、極楽へ/姫菩薩が手を引いて/私もお前に開帳、開帳

こちの娘を、酒相手にい出したら/あたら鉢をば割りました/わしや、とうから割れてゐる/初めしてから、三度、 三度【瓦版「京名所開帳」阿波屋板】

20 さけずき猩々寺(かハりもんく 上)

さけにのみよハかず〳〵ござる。かはらけざけをのむときハ五ぞう六ぷへひゞくなり。しよくごのさけをのむときハ衆生(しゆじやう)めつたによハぬなり。しんしやうのからいにハ。ほかり〳〵とよふてくる。きいてためした人もなし。われは五升のさけのんで。しんきのうさをいざやハらさん。【町中はやりうた・よしのや勘兵衛板】

21 とつちりとん節()

もしも、この子が、芸者の子なら、座敷〳〵をつとめして、客をそらさぬ酒盛りに、三味線手に持ち流行(はや)り唄、今の流行りの恋の(しよう)かいな、(おう)(りう)(ちゑへ)()まで払つて(かい)で取つて、いよ〳〵座敷はお片付き、ちよつと着替の結城(ゆうき)(じま)、それをばつとめて姉御(あねご)(かぶ)【あづまじまん名人】

 化粧する人魚の遊女 〔北尾重政画『箱入娘面屋人形』〕 かむろが銘酒「男山」の薦被り呑口から提子に酒を注いでいる。

22 新板大津絵節

唐人と変人が寄りあつまりて酒盛り変人が筋を言ひ腹立ち上戸となりまする通人ハにこ〳〵笑ひ上戸唐人は一人で泣き上戸渋面(じうめん)つくつて愚痴(ぐち)を言ふコウチノオ嬶ノ浮気者〳〵行方ヲタヅネテハル〳〵ト〳〵ト蝦夷(えぞ)長崎国々をまご〳〵と唐人の生まれハどこじやいなアイ〳〵国は(から)のあめりかでござりますそんなら(かか)アハおらんだかいへ〳〵(はら)んでおりまする【新板大津絵節】

23 アンコ入り都々逸之

  山々亭有人作

はるの詠めに 興ます酒は

  花下志帰因美景 はなのもとにかへるをわするるはびけいによつてなり

  樽前勧酔是春風 たるまえのゑひをすすむるはこれはるかぜ

下戸のしらない こゝろもち【同右】

24 アンコ入どどいつ                    吾妻雄兎子作

茶だち塩だち酒までたつて

  ○(しのぶ)れど色に出にけりわが恋は

   ものやおもふと人のとふまで

これでもそへずはなんとせう【明治三年「畳ざん辻うら詩入どどいつ」】

*以下、補50までの掲出は、『俚謡集拾遺』(高野辰之編、大正四年四月・六合館刊)の巻末付録「明治年間流行唄」から抄出したものである。(  )内は流行年代。

25 猫ぢや猫ぢや(明治五年頃)

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下戸だ下戸だと言はんすが、下戸が一升樽かついで、前後も知らずに酔ふも、雪がとりもつ縁かいな。

26 京の四季(替歌、明治二八年)

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春は嬉しや、ふたりころんで花見の酒、庭の桜に朧月、それを邪魔する雨風が、ちよと散して又咲かす。

冬は嬉しや、二人転んで雪見の酒、苦労しらずの銀世界、話も積もれば雪も積む、鳥渡とけます炬燵中。 

27 サノサ節(明治三〇年代)

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月明り、見れば朧に船の中、粋な爪弾、水調子、思ひ合うたるネー首尾の松、エヽ辛気ぢやぞへ酒の酔、サノサ。

鳥影に、鼠なきしてなぶらるゝ、之も苦界のうさはらし、愚痴が飲まするネー冷酒(ひやざけ)も、君待つ身程アヽ苦の世界、サノサ。

28 蛮襟(バンカラ)ソング

*明治四三年頃の流行で、軍歌「敵は幾万」のメロディで歌う。

酒は幾樽ありとても鯨が水飲む様なるぞ/よし其の様にあらずとも/傾けつくす酒量あり/泡盛は剣菱に勝がたく/ウイスキーはブランデーに勝栗の/飲みたき心の一徹は/空樽覗く(ためし)あり 覗いて悄気(しよげ)る例あり/などてのめないことやある/ などゝ悄気る例あり【日本近代歌謡史・第四十章】

29 オッペケペー

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*明治二十年代から大正初期まで、演歌師の川上音次郎が大流行させた時局風刺の俗謡シリーズ。左掲のものは二十六年頃流行した。

亭主の職業は知らないが お(つむ)は当世の束髪で 言葉は開化の漢語(からこと)で 晦日(みそか)の断り洋犬(カメ)抱いて 不似合だ およしなさい なんにも知らずに知つた顔 むやみに西洋を鼻にかけ 日本酒なんぞ飲まれない ビールにブランデー ベルモット 腹にも馴れない洋食を やたらに食うのも負け惜しみ 内証(ないしよ)後架(こうか)反吐(へど)ついて 真面目な顔してコーヒー飲む おかしいね エラペケペッツポ ペツポポー 儘になるなら自由の水で 国の(けが)れを落したい オッペケ オッペケペッポペッポーポー

 新吉原惣仕舞之図〔歌川豊春画〕

近世・近代酒席唄〔飛入り民謡篇〕 

30 謙良節(けんりようぶし) 青森市周辺、祝い唄

さてもエー目出度い 正月様よ/年の初めに 千代八千代/鶴の一声(ひとこえ) 祝わなん/若水汲んで 屠蘇(とそ)(ざけ)を/一富士二鷹 三茄子(なすび)/アー 開けて嬉や 初夢で【日本民謡選集】

31 嬉しき舞 岩手県上閉伊郡、祝い唄

お正月のことなれば、三ばう立ての祝酒、三杯飲んだ心持や、なにより以て嬉きや。嬉しき舞とはやさうぞ。其次の嬉しきは婆さん達の嬉しさで、孫彦やしやごねゝろやころころや、ころころやの白犬は、一疋はねれや皆はねると、だました心持なにより以て嬉きや。嬉しき舞といよいよ。【日本歌謡集成・巻十二】

32 お立ち酒 宮城県黒川郡、婚礼祝い唄

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お前はお立ちか お名残(なごり)惜しい/名残り情けの (くく)み酒

又も来るから 身を大切に/はやり風邪など 引かねよに

泣いてくれるな 今立つ酒に/わしの心も にぶくなる

目出度嬉しや 思うこと(かの)うた/末は鶴亀 五葉の松

今日は日も良し 天気も良いし/七福神の お酒盛り

目出度目出度の若松様よ/枝も栄えて 葉も繁る

銚子持って来い (さかずき)ゃいらぬ/わしとあなたは 含み酒

【日本民謡選集】

33 さんさ時雨(しぐれ) 宮城県、婚礼祝い唄

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さんさ時雨か 萱野(かやの)の雨か(ハアーヤート ヤート)/音もせで来て 濡れ掛かる/シヨウガイナー(ハアー 目出度い 目出度い)飲めや大黒 歌えや恵比須/中で酌とる 宇迦(うか)の神【日本民謡選集】 

34 ドンパン節 秋田県、酒盛り唄

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姉山さ行ぐいがねがでェ いまわらびコ盛りだ 酒屋のほんとのいいどころ 一とふぐべコしょっかげで(ドン〳〵パン〳〵ドンパン〳〵 ドン〳〵パン〳〵 ドンパン〳〵 ドドパパ〳〵ドンパン〳〵)

いつ来てみても井戸端で 綺麗に咲くのはあやめ花 秋田のおばこによく似てる 可愛い花だよ皆おいで【日本民謡大事典】

35 杓子舞唄 山形県北村山郡、祝い舞唄

一本の杓子(しやぐし)を、七(ひろ)もとつでひつからがつて、八尋もとつで引つちよーた。杓子〳〵とふれたれば、長者(ちやうじやどの)殿、お女郎めが、杓子買はうと云ふほどに、なんぼにはかーはれべ。十六文にまげないか。ほたなごんでは売られない。二十()文に買うてなだ。さらばさつとされまげる。二十四文の(ぜに)を腰に、ちやんとはさんで、餅屋に行くか、蕎麦屋(そばや)にゆくか、(でん)(がく)()にゆくか、とんと案じだした、酒屋がよがべ。二十四文の銭で、七合(しづごー)いれで、づわりづつと皆飲んだ。あまり酔つてしかだがない。あまりまだよつたちや。千秋(てんせ)万歳(ばんぜ)(ところ)も繁昌、旦那様も御繁昌、杓子(しやぐし)(まへ)もこればかり。【俚謡集】

36 真室川(まむろがわ)音頭 山形県真室川町、酒盛り唄

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わたしゃ真室川の梅の花コーリャ あなたまたこの町の鶯よ(ハア コリャコリャ) 花の咲くのを待ちかねてコーリャ 蕾のうちから通うて来る(ハア ドントコイ ドントコイ)

夢を見た夢を見た夢を見た あなたと添うとこ夢を見た 三三九度の盃を いただくところで眼がさめた【日本民謡大事典】

37 会津磐梯山 福島県会津地方、盆踊り唄

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(ハア ヨイショ)イヤー 会津磐梯山は 宝の山よ/笹に黄金(こがね)が エエマター ()り下がる (チョイサー チョイサ)小原(おはら)庄助さん なんで身上(しんしよう)潰した 朝寝朝酒 朝湯が大好きで/それで身上潰した ハアもっともだ 最もだ【伝承】

38 ほめことば 千葉県、紐解き祝い唄

ヨイ、しばらく、しばらく、しばととめたるこのやつこ、ほめる作法は知らぬども、ちん、ちくとばかり、ほめまうそう。八十ばかりのこのやつこが、銭を八文字に握り、酒屋の内へかけこんで、酒を八文くだされや。酒は剣菱、男山、紙屋の菊に七つ梅。酒の肴は何々ぞ。沢庵漬か奈良漬か、または奥山千両蕪漬と、ホホーつつしんで候。こちらまた一座御家御繁昌すんまいて、シャン、シャン、シャン。【俚謡集】

39 初瀬(はつせ) 千葉県君津郡、祝宴儀式唄

こらほどのお座の半ばに、うた好まれて、望まれて、好きならば歌い申すよ、お笑いあるなお座の衆、酒盛は今が半ばよ、おり島台をおだしやれ【俚謡集】

 

40 肴節 千葉県夷隅郡、座敷唄

 

小西が、ナーナーヨーイ、小西、ナーヨー、小西がふかば、ナーヨー、船橋入りこめ、ナーヨー、船橋のりこめ、ナーヨー、船橋のりこめ。ナーヨー、船橋お茶屋でのんだるその酒、ナーヨー、お江戸の地酒か味醂(しゆ)ざけか。ナーヨー、その酒飲めば、ナーヨー、その酒飲めば、ナーヨー、その酒飲めば、ナーヨー、末代長者となる。【俚謡集】

41 羽田節 東京都大田区羽田、祝い唄

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めでたいものはヨーワハーエーエエ(ハコイコイ)  お酒エイエイもりヨイー(ハコイコイ) エ松竹をヨーワハエーエエ(ハ アラマダ) 立ててエイエーそよナイー(ハ マダマダ)エお酌ソリャ十ヨ七エ ナーハーヨ(アヨカツタ ヨカツタ)【日本民謡大観・関東篇】

 貧民街における小人数での酒宴〔C.NettoPapier-Schmetterling aus Japan,1887

42 (おうぎ)黒骨(くろぼね) 東京都伊豆大島、祝い唄

扇くろぼね()が買つてくれた、やれ忍ぶよづまが、エーオーサ、買つてくれたそのー、ヤツチョメ〳〵、指すよ盃をば、ナカ、中を見て受けろや、ヤレ、中には恋路のおさぢが御座る、ヤツチョメ〳〵、実をまるよめて、ナア、その戸に入れて、ヤレ、忍ぶよづまに、オーサ、持たせたいの、ハア柳に直して()て来い、盃を又添へて、ちがひないぞい〳〵、中のよいよに〳〵、誠に中がさで、ほんかいな嘘いはぬ、まだも思ひ入れの、盃又ござる、ちがひない、中のよいよに中のよい〳〵、誠に中がさで〳〵、本かいな、嘘いはぬ、まだも思ひ入れの、盃またござる、ちがひないぞい、末もよいよに、末もよいよに、誠に末がさで、本かいなお目出たい。【日本歌謡集成・巻十二】

43 甚句 神奈川県三崎町、座敷唄

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 ー 三崎城ヶ島は(アイヨーエ)/見事な島よ/根から()えたか 浮島か (エー ソダヨーエ)

「三崎の地蔵さんは 性悪(しようわる)地蔵さん 女と酒なら 裸で世話する ヨーエ キタサーエ」【日本民謡選集】

44 佐渡おけさ 新潟県相川町、座敷唄=字余り詞

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ハアー来いと(ハ アリヤサ)言うたとて/ちょっくらちょいと/隣の酒屋へ 徳利持って/酒買いに 行く様な訳には/いかりょか 佐渡へヨ(ハ アリャアリャ アリャサ)/佐渡は四十九里 波の上(ハ アリャササッサ)【日本民謡選集】

45 御酒(ごんしゆ) 石川県美川町、祝い唄

この御酒は○○お祝いの御酒じャアいや参れ 参らんにやお酒が無になアる 「ヤッチャヤッチャ ヤチャヤッチャ ちょちょちょっと 一言ほめて上げましょう この()のお庭の梅の木に 一つの枝には金がなる 一つの枝には餅がなる 一つの枝には餅がなる 二つ合せて金持 金持【日本民謡大事典】

46 松前節 愛知県海東郡、座敷唄

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ヤーエー 酒の盗み呑み、ヤーエー(受け) ヤツトコセ、ヨーイヤナ、あゝ酒の盗み呑み、呑み千本桜。静にたゞ飲む(忠信)(受け)ヨーイトナー。【俚謡集】

47 世の中 三重県伊勢地方、祝賀唄

神代の昔天照神(あまてるかみ)の初めて御田(おんだ)をば作らせ給ひ、次第に五穀もさかえける。今年の夏は思ひのまゝに、五風十雨と程よく渡り、さかひの外に五穀もみのり、さては楽しき御世(みよ)なれや、(なな)()で米が五斗五升、(たつと)い神の(をしへ)とや、其米を酒に造らせ、お伊勢の港へ諸国の船が、帆かけてみゆる。百艘の舟に米をつみ、百艘の舟に酒を積んで、(まづ)はお伊勢へ奉る、有りがたや。神と君との道()ぐに千秋楽(せんしゆうらく)とや、万歳(まんざい)楽とや、歌ひよろこぶ限りなし。【俚謡集】

48 江津舟歌 島根県江津市、船祝い唄

イヤーナーエー めでたいなエー 祝ゆエーめでたいのー ノーエーソレワカ(ホイ)葉もエー栄える ノーエー 葉もエー

勝山エ 山は鶴山亀の山 麓流れる江の川 上降る滝なる ハその水酒に造りて御酒となし エー【日本民謡大観・中国篇】

49 よいやな節 広島県瀬戸田町、婚礼歌

これの座敷は祝いの座敷 鶴と亀とが 酒盛いたす 天から孔雀が酌をとる ヨイヤーナー【民本民謡大事典】

50 よいこの節 香川県仲多度郡、祝い唄

(うぐゆす)がエー鶯が今年(イヨイショ)始めて伊勢参宮(アーヨイサヨイサヨヤサノセ) 伊勢の道ほど広けれど 一夜が宿を借りかねて 浜へ浜へと舞い下る……飲めよ大黒歌えよ恵比須(えべす)(アーシャンシャン)(あい)の酌とりゃ福の神ションガエー【日本民謡大観・四国篇】

51 黒田節 福岡市周辺、酒席唄

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酒は飲め〱 飲むならばー 日の(もと)一の この槍を 飲み取る程に 飲むならば これぞ(まこと)の 黒田武士

峰の嵐か 松風か 尋ぬる人の 琴の()が 駒を控えて 聞く程に (つま)(おと)高き 想夫恋(そうふれん)【伝承】

52 おてもやん=熊本甚句 熊本県、座敷唄

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おてもやん あんたこの頃/嫁入りしたでは ないかいな/嫁入りしたこた したばってん/御亭主(ごてい)殿(どん)が ぐじゃぺだるけん/ まぁだ(さかずき)せんじゃった/村役鳶役 (きもいり)どん/あん(ふと)(たち)の ()らすけんで/(あと)はどうなと きゃあ成ろたい/ 川端(かわばた)(まつ)つあん きゃあめぐろ/春日(かすが) ぼうぶら殿(とん)達や/(しり)ひっぴゃって 花盛り花盛り/ピーチクピーチク ひばりの子/げんぱく茄子(なすび)の いがいがどん【日本民謡選集】

53 酒宴 佐賀市地方、祝賀唄

海老殿は、酒も飲まずに赤くなる。年も寄らずに腰曲がる。胸にはわぐさの波をうけ。腰にはいくさの弓を張る。目の出たや。目出たさや。

【日本歌謡集成・巻十二】

 元和年間武家観月の図〔『風俗画報』45号〕 酒は人と名月との風流な仲立ちもつとめる 

54 しよんがいな節 長崎県南高来郡、座敷唄

むかしのしとのやさしさーは、扇のかーなめにいけーほりて、池のみぎはに田をうゑーて、ひーともーとかーりては千石よ、ふたもとかりては二千石、三もとかーりてはかじやしれの。石につもれば富士のやーま、酒につもればいづみざーけ、その酒頂ざいするしとーは、いーのちもなーがかーれとーくあーれ。とくどまいらのせ、おざのおきやく。シヨンガイ。【俚謡集】

55 まだら節 鹿児島県、祝い唄

(さか)にやもろはく、肴にやまだら、いかな、ヨイ〳〵、下戸(げこ)(しゆ)も三つあがれ。(つね)にやあがらずと、今宵(こよひ)はあがれ。そなた、ヨイ〳〵御馳走に取り寄せた。五島(ごとう)平戸(ひらど)で立てたる(はしら)、取るはヨイ〳〵大阪の新川(しんがは)で。【俚謡集】

 

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 頭書の転載はここまで。

以下は関連する一般的な「酒の唄」雜載である。

  

赤い物で言はうなら あかいものでいおうなら

【例歌】

〽赤い物で言はうなら、官二女の袴に赤小豆飯(あずきめし)、疱瘡見舞いに神教丸、月に七日のお客さん、アレ恥しさうな顔の色、千代の(よはい)にちよと(つむり)の花やかさ、それは丹頂の鶴ぢやえ、エヽそれもさうかいな、「紅さしてる(ささ)機嫌。

──二上り俗謡、江戸後期流行『上方演芸辞典』

 「もう一杯、いくか」「いいじゃん」 〔マンガトップ by admin-manga

 

大つゑぶし 〔抄出〕

「大津絵節」についてはこれまでにたびたび触れてきたので、説明は省いて例歌のみに止めよう。

【例歌】

〽おさかづき。いたゞきませう。ありがたくちようだい。ちよつとおあい。おつゞけおかさね。ちります〳〵る。ありますさいづちおさへませう。今入三杯おつぎめお仕合(しあはせ)。御手もと拝見これは御見事。どうじや(はい)(いち)やりんかちよんべけつりんか。上むかずにぐつと引なされ。モフ〳〵いけん。すき腹こたへるした地があるのんじや。いちやこちやいはずとすなをにわつさり(しろ)猪口(ちよく)まわしてこれでおとり。

──大津絵唄、天保一二年頃流行、『粋の懐』初篇

 

尾張舟歌「酒くどき」おわりふなうた/さけくどき

「尾張船歌」とは、船歌のうち三河湾を臨む尾張地方に伝わる船歌。

【例歌】

尾張船歌 おわりふなうた

〽扨もめでたや、酒のむかしを尋ぬるに、エイ天竺しや(こく)に名を得たる、ゑいてんしゆといへる弓とりは、親に孝なる人なれば、百味おん(じき)備へ給ひて孝をなす、()にや仏神三宝も、エイ誠の道を守り給ふぞ有がたや、

〽かゝるやさしき心もち、エイ雲井のほかの空までも、通じたりけん天よりも、酒をてんしゆに授ケ置く、エイ祝ひの水は薬にて、エイヤヨエイヤコノ

「取り上げて、汲めや〳〵〳〵此の泉、不死の薬の御酒を、呑めば宝は満々て富貴(ふうき)延命(えんめい)成ると、かゝるめでたき御酒なれば、酒の威徳(いとく)にしくはなし、

エイ祝言・幽玄(ゆうげん)恋慕(れんぼ)の道に至るまで、イヤ酒を愛してすゝめつゝ、歌ふつ舞ふつ乱曲(らんぎよく)も、エイ遊ぶも酒の威徳也、

〽たとへ花なき里にても、酒だにあれば(かうじ)花、エイ霞の内に残るらん、エイ御代万代の座舗(ざしき)にめぐる盃、(ながむる)るもエイ是も酒のいとく也、やらん。

──日本歌謡集成(にほんかようしゆうせい)続編巻三「尾張船歌」高野辰之編、東京堂出版部刊(復刻)

 酒名は「くどき上手」山形・亀の井酒造㈱で醸した純米古酒 福島県・家満寿美()

 

カフェーの唄 かふぇーのうた

 大正時代から昭和初期にかけ繁栄した都市カフェーの雰囲気や女給らを主題にした唄。かなり量産気味である。

【例歌】

カフエーの唄 かふえーのうた      作詞者未詳

行きませう 春の野に 手を取りて

花にたわむる蝶の様 アイラブユー ユーラブミー ハンケドンケ誰とキッスしようか 大正の新しい女はこゝよ

優しきみ手を我肩に 誰も見る人もなし ハンケドンケ誰とあそびませうか

行きませう 夏の日に 日比谷まで

月の木の間を出ぬまに アイラブユー ユーラブミー ハンケドンケ誰とキッスしようか 大正の新しい女はこゝよ

燃ゆる思ひを語らへて 誰も知る人もなし 誰とあそびませうか

いざ行かん 手をとりて 秋の野に

野辺に照る月身に浴びて アイラブユー ユーラブミー ハンケドンケ誰とキッスしようか 大正の新しい女はこゝよ

君が御胸と吾胸を 誰も見る人もなし ハンケドンケ誰とあそびませうか

いざゆかん 手をとりて カフエーまで

五色の酒の持つものを アイラブユー ユーラブミー ハンケドンケ誰とキッスしようか 大正の新しい女はこゝよ

赤き口ビル冷いぬまに まつてゝよよくつてよ ハンケドンケ誰とあそびませうか

──流行歌、大正十年頃流行、『流行歌曲楽譜』第五集

カフエーの唄        渡辺迷波詞

恋の灯 渦巻く カフエーには

可愛アノ子が 笑たたへ

白いエプロン 蝶結び

サアサ飲みませう唄ひませう

心浮きたつジヤズバンド

赤い唇誰を待つ

好きなアノ人 来た時は

胸が燃へます 恋の火に

妾しや カフエーの 夜の蝶

──流行歌、昭和三年流行『流行小唄新集』

 

京の四季 きょうのしき〔抄出〕

【例歌】

〽春は花 いざ見にごんせ東山 色香あらそう夜桜や 浮かれ浮かれて 粋も無粋も物堅い 二本差しても軟こう 祗園豆腐の二軒茶屋 禊ぞ夏は打連れて 河原に集う夕涼み よいよいよいよいやさ。

〽真葛ケ原にそよそよと 秋の色増す華頂山 時雨を厭う傘に 濡れて紅葉の長楽寺 思いぞ積る丸山に 今朝も来て酌む雪見酒 そして櫓の差し向い よいよいよいよいやさ。

──本調子端歌、天保年間流行『粋の懐』初篇

 新宿カフェー街 Wikipediaより

 

曲水の宴 きょくすいのえん

  平安の昔、三月三日上巳の節句に内裏や公家の屋敷で開かれた遊宴の一種。招かれた客は溝の曲水の流れに沿って座を占め、上流から下り来る杯が自分の前を通り過ぎないうちに詩歌を詠じる。出来上がったら杯詠を次なる者へと継がせていく。即詠出来ないと罰杯を飲まされた。これは中国から伝わった「杯流し」という野外宴の流儀によるもので、「曲水」「曲宴」と略し、またゴクスイノエンとも、和語ではメグリミズトヨノアカリなどともいった。

【例歌】

曲水 きよくすい

〽さかづきを、かずかく水に、ながしては、思ひ〳〵の、うたのさま、心のうちは、いはぬ恋、ゆかしき人は、山吹の、かきのおくなる、あげじとみ、花のかんばせ、すきびたひ、ねむれるすがた、かいだうの、ゆめかうつゝか、わすられぬ、こきむらさきの、ふぢのはな、さむるといふは、色ならで、さけの手枕、よひながら、おぼろ月夜の、かげうすく、ほしもみつよつ、ひかるきみ、すまにみの日の、はらひして、心もころも、はるゝ春雨。

──琴唄、『吾嬬筝譜考証』

 京都観光の名所「曲水の宴」

 

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曲水の宴「白拍子の舞

 

くくみ酒 くくみざけ

〈含み酒〉とも。色酒の飲み方で、男女が互いに口に含んだ酒を口移ししながら飲み合うこと。また、その酒。

【例歌】

♪銚子持て来や、盃いらぬ、わしとお前はくくみ酒 

──岩手県の酒盛り唄「遠野の銚子節」

 

酒場の唄 さかばのうた

酒場の唄 さかばのうた        北原白秋詞

     一

ダンスしましょうか

骨牌(カルタ)切りましょうか

ラランラ ラランラ ラララ

赤い酒でも飲みましょうか

    二

ピアノ弾きましょうか

笛吹きましょうか

ラランラ ラランラ ラララ

赤い月でも待ちましょうか

    三

闘牛見ましょうか

花投げましょうか

ラランラ ラランラ ラララ

赤い槍でも振りましょうか

    四

女かけましょうか

玉突きましょうか

ラランラ ラランラ ラララ

赤い心臓でもあげましょうか

    五

さあさ退()けましょうか

まあだ飲みましょうか

ラランラ ラランラ ラララ

赤い(そり)にでも乗りましょうか

──劇中歌、大正七年発表、『新版 日本流行歌史』上

 北原白秋は生家が福岡県柳川の造り酒屋で、酒好きな彼のエピソードも多い

 

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雨酒場 *香西かおり

雨の駅裏  村上幸子

雨の酒場で(カラオケ)

居酒屋 春日八郎

裏町酒場 西田佐知子

北酒場 細川たかし

酒場エレジー 田端義夫

酒場にて 江利チエミ

酒場の唄 *中山歌子

酒場の花 フランク永井

時代おくれの酒場 高倉 健

純情酒場 竹山逸郎

女給の歌 羽衣歌子

だから言ったじゃないの 松山恵子

涙のグラス *宮 史郎

涙の酒場 竹山逸郎

望郷酒場 *千 昌夫 

夜更けの酒場で フランク永井

路地裏しぐれ *三木てつや

 

酒盛唄 さかもりうた

人々が集まって酒を酌み交わすときにうたう唄。起源は古く、記紀歌謡にもかなりの数が見える。

古来、酒は貴重品であり、ハレの日など特別な日に集まり、結束を固める目的で酒を飲み、かつうたいつつ酔いしれた。いまでも多くの民謡等に泥酔賛歌が残されている。

【例歌】

             島田両三詞

酒は(はかり)なしと(のたま)ひし、聖人は上戸にましましけん、三十六の(しつ)ありと諌め給ひし、仏は下戸におはすらん、何はともあれ八雲立つ、出雲の神は八塩折(やしお)りの、酒に大蛇(をろち)を平げ給ふ、これみな酒の徳なれや「おゝいし酒つる、(かしこ)みも(みかど)の酔ひのすゝみなり、姫の(みこと)のまち酒を、さゝよささとの言の葉に、伝へ〳〵て今は世の人も、きこし()せ笹、きこし召せ笹「劉伯倫(りうはくりん)()太白(たいはく)、酒を飲まねば只の人、よい〳〵よいのよいやさ

──本調子端歌江戸後期作、『上方演芸辞典』

[メモ] 本調子手事物で、「笹の露」すなわち酒の異名を表す副題を持つ。

つやまた節 つやまたぶし

〽仲人すりやこそ酒買つて飲ませれ、あかの他人にたが酒買つて飲ましよ、よこほがつや〳〵。

──小歌、天保二年頃流行、『小唄の衢』

 左党は見逃せないモザイクだ

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酒が飲みたい さけがのみたい バートン・クレーン唄

森 岩雄訳詞

酒飲みは 酒飲めよ

酒あれば ソリヤ 怠け者

水はとても おいしいが

酒飲めば 僕楽しい

万歳! 乾杯!

養老の滝が 飲みたい

もしなければ スツトコドツコイ

酒飲め 酒飲めよ

──歌謡曲昭和六年頃流行『新版 日本流行歌史』上

 

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雨の屋台 田端義夫

祝い酒 坂本冬美

おもいで酒 小林幸子

酒きずな *天童よしみ

酒尽尽 *カラオケ(カバー)

酒の中から 有島通男

酒の苦さよ 三橋美智也

酒呑めば *うめ吉

酒は涙か溜息か 藤山一郎

酒よ *吉 幾三

手酌酒 *渡辺 要

涙の酒 *ちあきなおみ

 

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ひとり酒(伍代夏子)

ひとり酒(ぴんから兄弟)

ブランデーグラス 石原裕次郎

わかれ酒 *横内じゅん

 

酒飲み さけのみ 

【例歌】

酒をのむ人 さけをのむひと

〽酒をのむ人。のまぬ人下こと上ごのその中に一合のんではまだたりぬ。ばんとうさん。あとをごんのじかけてくれ。のむとすぐさまくだをまく。なにさした杯なぜのまぬ。のまぬとぬかしやがりやおらきかぬさて〳〵わりやいがこわいのか銭がないのか。ほんにあかにしな人さんじやそりやごむりいそぎの用があるのにほんにばからしいじやふだんじやないよしなんせ。

──江戸端唄、江戸後期作、『巷歌集』

 酒豪の能面 

枯れすすき替え>のんだ小唄

♪俺は名代の のんだくれ

 同じお前も のんだくれ

 どうせ互いに しらふでは

 生きて居れない のんだくれ

♪のむものまねも ねぇお前

 人のお世話に 何なろう

 俺もお前も飲仲間

 のんでのんでのんで 暮らそうよ

♪電車なくなりゃ テクルのさ

 うちにお前は 嬶がある

 おれはこれから 吉原の

 舟の船頭で さわぐのよ

──替え歌大正後期作、添田唖蝉坊演

 

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男酔い *吉幾三

酒ひとり *五木ひろし

酔 歌 *吉幾三

すごい男の唄 *三好鉄夫生

チャンチキおけさ *三波春夫

日本全国酒飲み音頭

やきとりブルース *岡本リサ

ヤットン節 *久保幸江

酔ごころ *青江三奈

 

賛酒唄 さんしゅうた

〈上戸唄〉とも。飲酒または酒そのものをたたえた唄の総称である。

この分野だけで大册ができるほどネタは多くある。

【例歌】

♪今宵忍ぶなら 

 拍子木片手に忍ばんせ

 人が咎めたら

 夜廻で御座ると言ふてのけろ 

 お母さんに頼んで

 暇貰て出てくれば 

 しんから〳〵可愛い

 空腹にお酒は飲んでおいしい〳〵

──『流行新歌あだ文句』明治三二年

♪玉の盃黄金(こがね)の水は    松崎ただし詞

 またとない世の宝でござる 

 呑んで酔いませう死ぬ程呑んで 

 さつさ踊れよ可愛いピエロ 

──「ピエロの歌」二節、大正十一年発表 

 酒の十徳 BLACKEYブログより

 

賛酒の都々逸 さんしゅのどどいつ

【例歌】

*以下、いずれも都々逸始祖の都々逸坊扇歌(1804?~52)作古典作品。

●酒を飲む人花ならつぼみ今日もさけさけあすもさけ

●さけは飲めのめ茶釜で沸かせ御神酒あがらぬ神はない

●論語孟子を読んではみたが酒を飲むなと書いてない

●腹が立つときや茶碗で酒を飲んでしばらく寝りやなおる

●酒はほろ酔い娘は二八花は桜のさかり前

●どうせこうなりやデツカイことなされ親父質において酒を飲め

 

酒席唄 しゅせきうた

宴会の席上でうたわれる唄。

この類は無尽蔵、たいていが罪のない戯れ唄だが、猥歌が目立つ。

 蛙どもの乱酔〔服部応賀作『近世あきれかへる』の挿絵〕 徳川びいきの作者が維新を戯画化した作品。

【例歌】

よし〳〵ぶし 

そも〳〵是は。宇多の天皇。くだらぬ恋の大将軍。平の卿か不器用か。して見にやわからぬ紋づくし。偖もいろよき若まつしまや。千代も目出度きいてうづる。丸にいの字のあげはの蝶に。世の中まるふて。よし〳〵。

──本調子上方唄、『粋の懐』八篇(文久二年)

[メモ] 歌意がよくわからないが、天皇をからかった唄は、後にも先にもこれ以外は知見しない。一杯機嫌でうたうにしても憚りがあったろう。

よしよし節 よしよしぶし

いんしう因幡のとつとりで。しかも大道のまん中で。女が三人であひしが。先なる女が十六で。中なる女が十七で。あとなる女が十八で。先なる女のいふ事にや。はじめてとのごとねたよさは。三ツめぎりでもむがよふに。きりりやきりりといと(ござ)る。中なる女のいふ事にや。はじめてとのごとねたよさは。あさくらさすしよをくふがよふに。ひりりやひりりといと厶る。あとなる女のいふ事にや。はじめてとのごとねたよさは。むぎめしとろろをくふがよふに。ぬるりやぬるりとよふござる。(後略)

──俗謡、安政年間再流行(初出は文化二年)、『江戸ばれ唄大成』

[メモ] 当代、江戸で七十数人の男どもを血迷わせては手玉に取った名うての莫連(ばくれん)美女、林屋お筆にちなんでうたわれたという。

 鈴木春信の 《林屋お筆》

開化因州いなば節 かいかいんしゆういなばぶし

♪芸者座敷の持成(もてなし)は、然も開化の世の中で、髭鯰(おひげ)に三名出会しが、先なる鯰は鼻下(びか)(ちやう)で中なる鯰は真黒で後なる(どじやう)は等外で、先なる(おひげ)のいふ事にや初めて芸者を呼んだには☓☓(くら)妾法(せふはふ)する様にベラリヤ〳〵と紙幣(かみ)次第、中なる(おひげ)のいふ事にや紙幣(さつ)見て殿御といふたの応来(おうらい)芸者の持前でコロリヤ〳〵と床のよさ、後なる(どぢやう)のいふ事にや見つめ切りにていらるるかヂロリヤ〳〵ときざな奴。

──俗謡、明治二十一・二年流行、『明治流行歌史』

[メモ] 本書にも類歌がいくつか載せてあるが、類似の替歌が多く、互いに詞がちぐはぐに異なる。

何でもやらしやんせ なんでもやらしやんせ

♪ことし威勢よく陽気で一杯やらしやんせ、飲まんせ〳〵上りやんせ、お酒で夜明しや何でもない、踊りは下手でも上手でも、ヤアとんとろつくヤーとん〳〵、鶴亀小宝老松と浮れて何でもやらしやんせ、サヽやらしやれなやらしやれな。

〽今年も()の年細長う、儲けて一杯やらしやんせ、飲まんせ〳〵上らんせ、八々で夜明やア平素(ぜうじ)だよ、打手は下手でも上手でも、オキを頼んだ船頭さん、梅、松、桜アオタンと、めくつて何でも出来しやんせ、サヽやらしやれなやらしやれな。

♪今度皆さん御存じの、様子は(すい)さま疾く合点、云はんせ聞きませう何ざます、主と妾しの浮気沙汰、踊り狂ふた痴話ごとをヤアとんとろつく、囃されて、気もふは〳〵と逆上(のぼせ)込み。

──俗謡明治三十八年頃流行『日本近代歌謡史』下

 

女給の唄 じょきゅうのうた

【例歌】

女給の歌 じよきゆうのうた        羽衣歌子唄

好いちや居れども好かれちや居ない、

磯の(あはび)でさ、片思ひ。

わたしやお江戸へ勉強に行くが、跡に花おおくさ、枝折るな。

枝は折る舞折られもすまい、心おきなくさ、行かしやんせ。

白いヱプロン、うるしの(ヘルス)

心染めなんさ、五色(ごしき)酒。

──流行歌、大正十二年頃流行、『女給の歌』音譜

 

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浮草の宿 *春日八郎

港のおりくさん *若原一郎

 

酒中花 しゅちゅうか

【例歌】

酒中花 しゆちゆうか           麗白 

絵におどる山吹の主やたれ、花ならぬ身の花ならば、いつも散りなん盃に、ひらきそめてふ鳥ならで、笑ひともなる白はぎにちらと何やらはづかしや、仙人様が見さんしたら、つう失なはんしよ、せうし、さいつおさへつ曲水のリウチエイハマクワイとり〴〵めぐる春の興。

──宮薗節、江戸中期作、『宮薗新曲集』

 

しんねこ酒

【例歌】

カフェー祭        久保田宵二詞

 青い灯よ 赤い灯よ

 カフェ祭は 空さえおぼろ

 抜けよシャンパン グラスを交しゃ

 ブラヴォー ブラヴォー

 ブラヴォー ブラヴォー

 かわい袂の 紅が散る

♪若い胸 おどる胸

 うれしサービス ほゝえむネオン

 お茶にしましょか ビールにしましょか

 ブラヴォー ブラヴォー

 ブラヴォー ブラヴォー

 いっそあの娘の 御意まかせ

♪飲めよ酒 乾せよ酒

 通いつめても 柳に風の

 いとし口紅 誰ゆえ赤い

 ブラヴォー ブラヴォー

 ブラヴォー ブラヴォー

 たまにゃ妬けます ほんのりと

♪宵の町 花の町

 白いエプロン 伊達にはつけぬ

 つらい世渡り 涙の蔭に

 ブラヴォー ブラヴォー

 ブラヴォー ブラヴォー

 やがてかゞやく 春を待つ

──流行歌、昭和九年発表

 風流酒〔井原西鶴作・近世艶隠者の挿絵〕

 

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ふたり酒 川中美幸

二人でお酒を *林あさ美

 

デカンショ節 でかんしょぶし (抄出)

【例歌】

♪デカンショデカンショで

半年ゃ暮らすヨイヨイ

後の半年ゃ 寝て暮らす

ヨーイヨーイデッカンショ

♪デカンショデカンショと

唄うて廻れヨイヨイ

世界何処の 果てまでも

ヨーイヨーイデッカンショ

♪酒は呑め呑め 

茶釜で沸かせヨイヨイ

御神酒(おみき)あがらぬ 神はない

ヨーイヨーイデッカンショ

♪デカンショデカンショと

赤門の前でコリャコリャ

おでん燗酒 いなり鮨

ヨーイヨーイデッカンショ

♪同じやるなら

()かいことなされコリャコリャ

親父質に置いて 酒を飲め

ヨーイヨーイデッカンショ

──東京高等師範学校作寮歌、明治四十年に一高寮歌と交換『新版 日本流行歌史』

【例歌】

 酔いざめを迎えた路地 仙台・長町裏路地飲み屋街 「美食派写真日記」ブログより

 

天盃頂戴 てんぱいちょうだい

【例歌】

天酒頂戴 てんしゆちようだい

てんしゆちやうだい みなまち〳〵で ちよいト〳〵 どん〳〵おまつり 東京府

──祝賀唄、明治元年『日本近代歌謡史』 

  上

[メモ] 明治元年十一月、東京府への天皇東幸を記念し、お上から二千樽の賜酒があった。

 鹿児島における天盃頂戴の図

 

杜氏唄 とうじうた

杜氏が神棚に酒造りの無事を祈念するときの詞。特有の節付けで唱えられる。

酒造りは一種の縁起事との信仰から、酒神などに祈念する行事も杜氏の仕事になっている。蔵で蒸米が終わると、それからの仕込み作業から始まり酒が醸成するまで、酒造りの安全無事を夜明けの切り火とともに、神棚に向かって唱える。

同種の作業唄であっても詞は杜氏流派によって異なる。 

 

涙酒

【例歌】

酒と流浪          西崎義輝詞

♪酒が憂いを 晴らすなら

 ほろ酔う夜が この世なら

 思い出たどるも 楽しかろ

♪影を凝視(みつ)めて 何故泣くか

 歌えぬ重き 胸ならば

   やつれし影さえ 泣かすだろ

♪心暗けりゃ 灯もさびし

 桃色の夢 描けども

 かえらぬ春よ あのひとよ

♪酒が涙を とめるなら

 ほろ酔う夜が この世なら

 酒場をたずねて 泣きはせぬ

──流行歌、昭和八年発表

 

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おもいでの雨 石原詢子

悲しい酒 *美空ひばり

酒と泪と男と女 *ちあきなおみ

酒に涙を誘われて 松平 晃

なみだ酒 *長山洋子

夢追い酒 渥美二郎

舟 唄 八代亜紀

 

ノーエ節 のーえぶし〔相馬節替え〕

【例歌】 

♪竹になりたやアヤ、オヤつんつるべのウ竹にノーエ、かわいおかたアに、オヤつらしてくまして、湯にして茶にしてエ飲ませたアいとノーエ。

♪酒になりたアヤ、オヤ金銀正宗のウ酒にノーエ、かわいおかたアに、オヤ、すゝめて飲ませて、酔はせて聞きたいイことがあアるとノーエ。

♪相馬中村のお神楽堂からノーエ、ゑびすが鯛つるオヤほんまにおつぴきひやらりこノーエ。

♪相馬中村のおつぺらぼうのノーエ、(チーチがたかつてノーエ)チーチーサイサイトートーチーチーおつぺらぼうのノーエ。

明治流行歌史替歌、明治二十八年流行

 三島の能兵節踊り

 

バンカラソング「酒の雜載」

【例歌】

バンカラソング 

♪進め吉原花の(さと) 飛び込め浅草花屋敷 弁当箱提げた報酬の 拾円取つたは今日なるぞ 車に乗り込め先づ景気よく おでん屋にひつかけよや濁酒二合 斯くして今夜楽しめば 明朝は徒歩(てく)〳〵帰るなり 割引電車で帰るなり 張り込み壱円五拾銭 進め吉原チヨイト千束町イ

♪酒は幾樽ありとても鯨が水飲む様なるぞ よし其様にあらずとも 傾けつくす酒量あり 泡盛は剣菱に勝がたく ウイスキーはブランデーに勝栗の 飲みたき心の一徹は 空樽覗く(ためし)あり 覗いて摂げる例あり などて飲めない事やある などゝしょげる例あり

♪春は花咲く上野山 隅田堤に来て見れば 老若男女集ひ来て 浮世の態を顕すよ 酒なくて何の己が桜ぞや 運は天にあり牡丹餅棚にあり 呂律も廻らぬ酔機嫌 浮れ浮かるゝ其の様は 活惚踊の活動写真 ロハで見たるに異らず 扨ても可笑しき人の世やア

♪酒を飲むのは国の為め 晩酌三合やらかせば 年に税金拾五円納める訳になる 拝啓早々呑酒遂五六本 酔ふて件の如く愚図まけば 恐い所へ引ツ張られ 醒めたるあとでお目玉を 頂くなどは大有りの名古屋 散々お詫して 恐れ入谷で引き下がるウ、

──演歌、明治四十三年流行『蛮襟ソング』

 

やけ酒 やけざけ

【例歌】

酒に涙を誘われて     久保田宵二詞

♪酒に涙を

 さそわれて

 返らぬ夢に 忍び泣く

 あゝこいしの 君が面影

♪風の浮世に

 さらされて

 記念(かたみ)の薔薇も 今は無し

 あゝやさしの 君が思い出

♪暗い酒場の

 灯の蔭に

 恋ゆえ夜毎 男泣き

 あゝあの日の 君は何処よ

──流行歌、昭和十一年発表

 

陽気酒

【例歌】

紅葉酒盛 もみじさかもり

望月維茂様(これもちさま)が共々に、此山蔭の栬葉(もみぢは)を、田毎御遊覧とるからは、あれなる毛氈(まうせん)を是れへうつし、酒の調度を、少しも早う。四人畏りました。(ト上手幕の内へ這入る) 雲平御酒(ごしゆ)と聞いては手前も共々、お手伝ひをいたしませう。常磐津「さざめき立つて毛氈を、こなたへ敷けば腰元が、手に〱運ぶ酒道具(ささだうぐ) (ト運平望月田毎よき所へ毛氈を敷き、腰元四人提重(さげぢゆう)三ツ組肴瓶子(さかなへいじ)など運び) 

 柿紅葉の花見の宴

ざ是れへお進みありて、田毎(こん)お過し、五人遊ばしませ。維茂仰せに従ひ、御免あれ。岩木(いはき)ならねばむら(はぎ)の風に(したが)ふ姿にて、心弱くも引留(ひきと)められ。(更科姫(さらしなひめ)恥かしさうに維茂の袖を引く、是にてよろしく下に(すま)ふ。此内腰元堤重(ささへ)より酒道具を出し) 望月さあ、お一つお過し遊ばせませ。「侍女が進めに取上げる、人の(なさけ)の杯も、竹本「数を重ねて心解け、いつか隔ても中垣(なかがき)に、(えにし)を結ぶ糸萩(いとはぎ)や。(ト此内侍女一田毎(たごと)が三方の杯をすすめ、維茂杯を取る、望月酌をなし、維茂酒を呑む。更科姫次女一へ思入(おもひいれ)する、一心得て前へ出て) 野辺(のべ)吹く風に誘はれて、(たれ)(なび)くかしをらしや、野菊の花の紫に、「しのぶ由縁(ゆかり)藤袴(ふぢばかま)、つい穂に出でし穂芒(ほすすき)の、「姿優しき男郎花(おとこへし)、これも花野(はなの)の色なれや。(ト侍女一よろしく(ふり)、此内維茂田毎を相手に酒を飲む)「夕日まばゆき(くれなゐ)に、紅葉うつらふ酒の(ゑひ)(ト維茂少し酒に酔ひし思入) 運平是れは〳〵御主人様には、()のみ御酒を(あが)らぬのに、女二御酩酊(ごめいてい)でござりまするな。維茂並々(なみなみ)ならぬ銘酒(めいしゆ)ゆゑ、思はぬ酔を覚えしぞ。更科こたびは末の杯にて今一献お過しあれ。(ト望月維茂の前へ杯を出す) 維茂なか〳〵以て大杯(たいはい)にては、望月左様(さやう)仰せられませずと、田毎早うお過し遊ばしませ。一二二人でお酌いたしませう。維茂余程(よほど)酩酊いたしたれば、最早(もはや)許して下されい。殿様がおいやなら御家来様、さあ私が思ひざし。あなた御酒家(ごしゆか)と見えますれば、私がお酌いたしませう。大杯(おほさかづき)満々(なみなみ)と、つぐを遅しと呑干(のみほ)して、「いつか乱るゝ(ささ)()(ふし)可笑(をか)しくうたひ出て、(トシヤデンになり、女の二杯をさし、三酌をして運平呑み干し、酔浸る思入似て扇を持ち立上り)  木曾(きそ)桟橋(さんばし)は丸木を渡し、下は数丈(すぢやう)早瀬(はやせ)の川に、「見れば(こは)さに、怖さに見れば、何と信濃(しなの)難所(なんじよ)の橋も、「見えぬ座頭(ざとう)何市(なにいち)どのが、都登りに小座頭(こざとう)連れて、がつくりそつくり杖突いて、「拍子取り〳〵渡りしは、これぞたとへの盲目蛇(めくらへび)(ト運平田毎を相手に、よろしくあつて) 維茂こりや〳〵御場所も(はば)からず、あられぬ所作(しよさ)は失礼なるぞ。運平つい一杯のお酒に乗じ、恐入(おそれい)つてござりまする。維茂最早数杯(すはい)を傾けて、(じゆく)(すい)いたせばお許しあれ。

──舞台脚本、河竹黙阿弥作、明治二十年新富座初演、『紅葉狩(もみじがり)

 

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恋酒場 *長山洋子

瓢箪ブギ 三橋美智也

 

酔っ払いの唄 よっぱらいのうた

男女の酔いしれたときの言動を自嘲を込めて描いた歌。

【例歌】

黒かみかへうた くろかみ/かえうた

〽さけのみの「(よい)つぶれたるおもしろさ。ようて寝た夜はひぢまくら。よはず寝た夜は箱まくら「わたしやおさけがすきじやといふて「すきな上戸のこゝろとしらで。しやんと。立たたるかんちろり「(ゆうべ)のさけが今朝さめて。湯くれ「水くれ。塩茶くれ。どくともしらず。つもる大酒。

──上方端歌、『粋の懐』九篇(文久二年)

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お酒のめのめ おさけのめのめ 土取利行(唄・演奏)

添田啞蝉坊詞

♪お酒のめ〳〵 酔ふまで飲みやれ

どうせ酔ふたよな此の生活(くらし)

 お酒よ お酒よ たゞお酒

♪園部六ぐでんに 酔ふて暮せ

お酒よく〳〵 横目で見たら

何ぢやいつでも飲むお酒

お酒よ お酒よ たゞお酒

 いつでもガブ〳〵 飲むお酒

♪いやでやでやで泣くほどやでも

 どうせ買はれた此のからだ

お金で 買はれて きたからは

一切合切 金次第

♪恋も情けも忘れさせ

どうせ此の世は金の世ぢや

金だ 金々 その金よ

一切合切 金の世ぢや

──替歌、大正八年流行、『時代を生きる替歌・考』

 

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秋田まるまる おこさぶし 

って来たヨッパライ *加藤和彦・坂崎幸之助

ヘイ・ダーリン *カラオケ

酔いどれ銀座 *竹山逸郎

酔いどれ女の流れ歌 *森本和子

ぱらっちゃった *内海美幸

 酔いどれの終着駅