1 哲学 (哲学、心理学、倫理学、宗教)

 

アテネの学舎 絵はラファエロ=サンツィオ(14831520)、イタリアの画家による。画面中央で観念論哲学者のプラトンと経験哲学者のアリストテレスが肩を並べ、哲学の対極指向を暗示している。

 

 

10 哲学

哲学 philosophy        100

 明治語で〈希哲学〉とも。人生、社会、世界等にかかわる究極的原理を客観的かつ理性的に追求する学域の総称。純粋な視点から、事物をより広く、より深く見極め、その成果を自身の内在へと取り込んで、自己を改造することも課題とされている。

哲学は古代ギリシアに発祥を見るが、当初は学問一般をさす言葉であった。それが時代を経るにしたがい、諸科学の思想面に反映されるようになった。いわゆる思想の論証化現象である。また哲学は論理学をはじめ認識論、存在論、哲学史などを包括し、さらには宗教学あるいは倫理学といった分野にも広くかかわりをもっている

比較哲学 comparative philosophy 101

 人類が形成してきた諸文化圏にあって、個々に諸成果を比較対照しつつ、哲学的見地にたち哲学的体系に組み込んで評価する学問である。ことに東洋と西洋との思想的見解の比較が重視される。

フランスの近代哲学者マソン・ウルセル(1882-1956)は、これにla philosophie compareeという呼称を与えている。

理論哲学 theoretical philosophy (101)

「法哲学」を土台とした哲学の一系で、論理学や認識論など、哲学の理論的分野を究める学域。ドイツ哲学の雄であるイマヌエル・カント(17241804)が現れるまでの時代は、理論哲学といえば超自然や超常現象などを扱う異端の形而上学をさした。「実践哲学」に対応した用語である。

 イマヌエル・カント 近代哲学史のなかでは最も高名な人物である。

純粋哲学 pure philosophy     (101)

 哲学の本質的概念をとらえた言葉。たとえばカント哲学で、時間と空間は「直感形式上」における「直感の内容」に位置づけられている。すなわち〈純粋哲学〉は、感性的な思惟や経験的な思惟をいっさい含まない、限りなく純粋な哲学を意味する。その意味でかなり高踏的かつ数学的である。

信仰哲学 religious philosophy (101)    

〈感情哲学〉とも。ドイツの哲学者カール・ヤコビ(18041851)が主唱する哲学の一潮流。神秘世界の認識を導入するのに哲理を直接的な「知」としての感情または信仰に求めた。すなわち、哲理への認識がきわめて主観的といえる。

西欧哲学 Western philosophy (102)

〈欧州哲学〉とも。古代ギリシアに始まり西欧で発達した哲学の総称。アリストテレス(384~前322)に端を発する原初の哲学は「知」の根源を意味する「愛智=フィロソフィア」から出発した。この概念こそ〈西欧哲学〉の土台となる。

形而上史学 meta history      (102)

 歴史哲学とは別に「形而上学」を中核に置き、その歴史的潮流を考察する学問。イギリスの文化哲学者で歴史家クリストファー・ドーソン(18891970)が提唱した。

 

11 哲学各論

総合哲学 synthetic philosophy (110)

  イギリスの哲学者ハーバート・スペンサー(18201903)が提唱した思想に対する命名。

 彼は、哲学には部分統一された科学的認識があり、これがさらに統合した広域認識を形づくる。その進化過程において、あらゆる現象に共通の不変的法則を見出す必要がある、と論じている。

第一哲学 first philosophy  110

〈第一部門の哲学〉とも。アリストテレスが学問の分類で用いた言葉で、存在そのものを存在価値と認める〈形而上学〉を意味する。すなわち彼は〈第一哲学〉を「存在する限りの存在」を対象とする「最も優越した哲学」として位置づけた。この論を踏襲し、フランスのルネ・デカルト(15961650)も哲学の第一部門に形而上学を据えている。

 アリストテレス

形而上学 metaphysics    110

 物事の本質あるいは存在の根本原理を、自己の思惟や直感をたよりに探求する学問。卑近ないい方をすれば、現実離れした抽象の世界で成り立つ学問である。有名なアリストテレスの著『形而上学』も、その骨子を明らかにしたものである。

自然哲学 natural philosophy  110

  自然を思惟的に解釈して説明を試みる思想の総称。解明の手段や方法は問われず、自然学に密着した隣接学問である。ローマのストア派哲学者ルキウス・セネカ(1世紀~前65)が、自然哲学を意味するphilosophia naturalisと命名したのが嚆矢である。

一般形而上学 metaphysica  111   

〈第一哲学〉すなわち形而上学の系統に属し、17世紀にフランスの詩人で科学者ジャン・バティスト・デュアメル(16241706)が命名、形而学のモデル的思想となっている。

批判哲学 critical philosophy111    

〈反哲学〉とも。ヨーロッパの近代哲学者らが人間文化の形成を批判することで、自己の思想的な営為を逆説的諧謔として用いた言葉。自然との関係を重視するいわゆる「哲学知」の基本概念を形而上学から外れた超自然的思惟とみなす発想による。

特殊形而上学 special metaphysics111    

神学、宇宙論、霊魂論などを扱う、かなり独断的な形而上思潮を形成するグループの総称。「一般形而上学」とならんで、17世紀フランスの詩人で科学者のデュアメルが分類し命名した。

形而下学 concrete science  111

  諸物質や動植物など、形ある存在物にかかわる研究目的をもつ学域。すなわち、広汎な科学全般を指した言葉、と解釈してよい。また、抽象的な「形而上学」に対し、具体的事物をもって対応した概念の言葉である。

光の形而上学 metaphysics of light111    

  光子とは世界自体を成立させる根源なり、として信奉に近い形でとらえたうえで、それを自己啓発に結びつける古典的思想を指す。プラトン(427~前347)が著した『善のイデア』に端を発する。

第二哲学 The Second Philosophy112    

〈自然学〉とも。アリストテレスによると、哲学は第一哲学(形而上学)ならびに自然科学および数学に三分しうる。このうち自然科学を〈第二哲学〉として独立した体系で扱っている。

「自然学」にいう自然的存在、運動および静止の原理を自身内に含む自然体の「運動変化する自然界の事物」を思索の対象とする。すなわち、きわめて博物学寄りの観点に立った哲理を構築している。

人間学 philosophic anthropology  114

 人間性の本質究明はじめ宇宙における存在理由や位置づけなどが研究対象になる、哲学の一分科である。したがって、人間の身体構成論、精神論に重きが置かれる。科学域での呼称「人間科学」とでは意味が異なる。

人間科学 human science      (114)

 人間個人あるいは人間集団としての思想や行動がもたらす諸事象を科学的にとらえて解明する学問。この目的のもと人類学、社会学、言語学、人文地理学あるいは民族学といった広範な学問が駆使され、人間にかかわる壮大な学域が形作られる。

アメリカではより実際的な〈行動科学〉の名が用いられている。

観念学 ideology            (114.2)

〈メタ人間学〉とも。人間の経験知のもとに知識、行為など全観的特質を人間の在り方と文化の表出形態との融和という形に敷衍し、形づける学究を指す。

18世紀末、フランスに興隆した哲学思潮である。この一派は「哲学とはイデア(観念)の発生を辿る学問である」と規定している。

生の哲学 humanity            114.3

 人間の生活や生命について、概念解釈の立場から生存の本質的意味を極める学問。処世哲学、人生哲学、実践哲学ならびに哲学的人間学まで包括する。また、より狭義の「体験としての生」を基点とし、理想の生の把握をめざす今日的潮流が目立つ。

実存哲学 existential philosophy 114.5 

Existenzphilosophieの訳語。一般に「実存主義」で通っている。人間を合理主義などで割り切ってとらえることのできないという前提で対象におき、その深層にある実存の構造と問題点等を探求する学問。デンマークの思想家キルケゴール(18131855)をはじめニーチェ(18441900)、サルトル(19051980)、ハイデッガー(18891976)らが自由と責任に対する標榜をもって取り組んだ。

観念 ideology          (115.1)

〈観念学〉ともいわれ、  一般に「イデオロギー」と呼ばれている。人間社会において、全体的に制約され、規定化された観念的思考形態の学問的解明をいう。たとえば道徳、宗教、哲学などの思想を政治的見解や法律的解釈に反映させる研究がこれに相当する。

神の眼に映ずる宇宙 イギリスの聖書学者トマス=ライト(1948-)が描いた神眼から見た宇宙図。題名は「ある独創的理論、または自然法則に基づく宇宙の新仮説。可視的創造物とくに銀河の一般現象を数学的原理により解く」と非常に長い。

先験哲学transcendental philosophy 115.2 

〈超越論哲学〉あるいは「新カント派学説」と別称することも。ドイツの哲学者イマニュエル・カント(17241804)により命名さ「純粋理性」にかかわるあらゆる概念を究明する哲学。独語Transzendentalephilosophieの訳語で、先天的可能性を認識の基底に置く主観的観念論に徹している。

プロセス哲 processing philosophy (115.5) 

〈有機体の哲学〉とも。イギリスの思弁派哲学者アルフレッド・ホワイトヘッド(18611947)が主張した哲学潮流の一つ。呼称が示すように、経験的プロセスに伴う「解釈哲学」を中心に体系づけた。

経験哲学 empirical philosophy (115.5) 

実験哲学〉とも。経験にすべての人間行動の規範を求め、あらゆる知識は経験的起源により生じると主張する哲学思想をいう。イギリス古典派哲学の主流派を占める高踏的な思潮であり、フランシス・ベーコン(1561-1626)が提唱したことで知られる。

実証哲学 positive philosophy (115.6) 

  近代自然科学の方法や成果を背景に、物理的かつ精神的な現象世界の統合説明を試みる

学問。フランスの社会思想家サン=シモン(17601825)が命名し、自然科学的方法論を哲学に敷衍させる手法を採った。

 サン=シモン

神秘哲学 esoteriecs     (115.7)       

〈神秘学〉また「神秘主義」 とも。 哲学的観点により、神秘的体験に核心的存在の意味を認める学派哲学である。多分に密教的色彩が濃く、神秘なものとの合一性(エクスタシス)に感覚的想念を結実させる。

論理学 logic                 116

 物事を正確にとらえるため、理にかなった筋道をつける学問。あるいは、正確な思考はいかになされるべきかを考察する研究。また、そのための方法論と条件が研究対象になる。一般に「論理記号学」ならびに「形式論理学」などと併行して研究する。

この語は明治初年に西(あまね)(18291899)によって和訳された。

西周 近代日本を代表する啓蒙思想家であった。

術語論理学 predicate logic   116.1

基本命題を文法的な主語と述語の要素に分析整理し、主語同士の内在的関係を解明する現代論理学の基礎分野である。「言語論理学」とは隣接関係にある。

形式論理学 formal logic      116.1

  思想の内容を取捨し、いくつもの推論を元に正して概念、判断、推理の形式を研究する学問。20世紀に進歩を見せた科学で、なかでも数学記号を駆使したものを〈記号論理学〉と呼んでいる。

帰納論理学 inductive logic   116.1

  論理学の一分科で、帰納法を命題に論理を展開する学問。「帰納」とは推論方法を示す哲学用語の一つで、具体的事象のそれぞれから一般的な命題や法則を導き出すことである。一般にいう「三段論法」が帰納法の骨格と見てよい。

演繹論理学 deductive logic   116.1

  一つ、または複数の前提から必然的な結論を引き出す演繹推理手法を用いた論理学。身近には三段論法の第一格がこれに相当する。 「帰納論理学」に対応した概念の言葉である。

メタ論理学 metalogic         116.1

  より高次の思考上の科学的成果を得るために、特定主題の概念、論理用語、構成などを研究課題とする基礎理論である。

接頭語メタは「超」または「高次」と訳されている。「メタ数学」「メタ言語学」などの語に用いられている。

様相論理学 model logic       116.1

〈時間論理学〉とも。命題となる事象をその性質により分類、またはその種類を対象に研究する学問。「必然」「可能」「整合性」などの時系列様相に密着した概念用語を核に扱う論理学である。

多値論理学 many-valued logic (116.1)

〈三値論理学〉とも。論理学においては未知予測の命題を仮定した場合に、既成の「二値論理」すなわち真か偽かの原理以外に「不確定」とする第三の真理値を含めて考究する。ポーランドの論理学者ジャン・ルカシェービチ(18781956)が着目し、発展の糸口をつくった。

記号論理学 symbolic logic    116.3

  論理学自体は「形式論理学」として2000年も以前にアリストテレスが創始した。この大筋を現代になってからプラグマティックに応用展開させたものが〈記号論理学〉である。記述の正確性を重視する論理学向きに考案された特別な記号を用い、数理記述中心に展開される。

なお、戦後に日本で用いられてきたJIS論理記号は1999年に廃止されている。

 ロジック記号の先駆として使用されたMIL記号の例。『ラダープログラム初級講座』より

分析哲学 analytical philosophy 116.3 

 言語分析の分野で、その有力手段としての哲学的解析手法を総称した言葉。いわば哲学を系統だて科学的学問に移行するという前提のもとに遂行される。現代では「人工言語」ならびに「自然言語」という二大グループに分けられている。

マルクス主義哲学 Marxist philosophy  116.4

 マルクス主義の三本柱(哲学、経済学、社会主義思想) のうちの一つ。哲学的諸問題について唯物論的世界観にたち、人間とその活動、人間性の実践、社会の発展を関連づけながら考察する。思想には一貫してマルクス主義の見解が貫かれ、社会主義理論に伴う体系化が完成されている。

カール=マルクス(181883) 世界的な共産主義の父祖。歴史、ヘーゲル哲学、唯物論に精通。資本家階級へのイデオロギー攻撃に終生を捧げた。

知識哲学 philosophy of science 116.5

〈知の学〉〈科学哲学〉とも。ドイツで発展したWissenschaftslehre「知識学」の一環で、知識と諸科学に対して展開する哲学的理論を指す。この分野では主として「認識論」および「論理学」を扱う。

一般科学 general science  116.5

ここでは人間の生活現象を核に総合的に研究する哲学寄りの学域をさす。20世紀に入りアメリカを中心に発達した。在来の古典的自然科学とは広く背反する思想に立脚したものである。

分類学 classification      116.5 

  概念の類と種別とを別し、その類についてさらに上級類に帰属させ、最高類に至るまで関係付けながら体系化、一連のヒエラルキーを形づくる学問。まさにスコラ哲学にいう「概念の分類」に相当する。

〈分類学〉は単に「分類」ともいっているが、学術分野では一般語のそれと混同しないように「学」の字を付けて用いるべきである。

現象科学 phenomenal science (116.7)

  ドイツの哲学者エドムンド・フッサール(18591938)が提唱した哲学理論。事実として存在する対象以外に、純粋意識を体現した現象の本質を記述するという立場をとる。現代では哲学を離れ社会学、法学、美学といった分野にも多大の影響を及ぼしている。

 エドムンド・フッサール

純粋現象学 pure phenomenal science (116.7)

 ドイツの現象学派哲学者フッサールが樹立した現実事象超越論で、さまざまな事象の本質と意味とをそれぞれ固有の思惟に置き換えて論証した。

実験現象学 experimental Phenomenology 116.7

 ドイツの心理学者シュトウンプによって提唱された心理学的哲学の新しい研究対象である。彼は「心理学は心的内容の学ではなく、心的機能の学である」と主張し、これを心理学上の〈実験現象学〉と名付けた。

現象学的物理学 phainomenological physics116.7             

  物質運動の諸現象について、現象相互間の関数関係の記述に終始する「現象学」の一分野。オーストリアの物理学者で現象哲学者のエルスト・マッハ(18381916)が提唱した。呼称上の物理学ではなく哲学に属する。

価値哲学 axiology              117

  人間性の発露である(まこと)、善、美といった東洋思想寄り資質の価値原理を哲学的に評価研究する学問。「道徳哲学」もしくは「倫理学」分野と重なり合う部分がきわめて大きい。

文化哲学 cultural philosophy   117

  Kulturphilosophieの訳語。文化学域を対象に、その本質および理念、原理など根本を究め、文化発展を通して理想的な文化のあり方に迫るための哲学である。

技術哲学 technical philosophy  118

  イデオロギーとしての科学と技術の本質的あり方を追究する哲学である。

現代のように、「バイオ」「ナノ」「コンピュータ」など先端科学が究極テクノロジーをめざしている社会で、がぜん注目されている英知のための課題。思想面では〈科学哲学〉と換言してもよいほど科学思想と密着関係にある。

 

12 東洋思想

東洋哲学 Oriental philosophy   120

「東洋思想」とも呼んでいる。インドや中国など東洋諸国での固有思想を究める学問で、もちろん日本哲学および日本思想もなかに含まれる。

非合理性と情緒性の色濃い仏教哲学や儒教思想が研究の柱になる。「西洋哲学」に対応した区分上の概念でもある。

東洋学 Oriental studies        120

〈オリエンタリズム学〉とも。近世以来ヨーロッパに発生した東洋指向学域の総称。東洋思想を核に、その縁辺を構成する民族、歴史、宗教、芸術などの総合的かつ多角的な研究が盛んである。

日本哲学 Japanese philosophy   121   

「日本思想」の語で代表している。日本の近代以前の思想ならびに現代哲学を対象とした学問。この語は東洋哲学や西洋哲学に対応させるため設けられた語であるが、意外なことに哲学諸辞典にも用語掲出が見えず、定義もいまだ確定されてない。すなわち、思想界にあっては市民権を得ていない、便宜上設けられた言葉といえる。

山鹿素行(1622-85)は江戸前期の儒者で軍学者。彼の神道寄りな思想は日本の古典思想を代表するものと見てよい。

日本学 Japaonology         121      

 諸外国の立場に立ち、日本文化についてのあらゆる学域を総括した言葉。きわめて漠然としており、一般には日本文化をはじめ日本思想を中核とする学問体系と解釈してよい。

近代イギリスにおいて勃興し、なかでもロンドン大学東洋学校が〈日本学〉専科を設け研究して注目を浴びた。

日本趣向学 Japonerie〔仏〕  121

 フランスにおける親日派による日本文化趣向。日仏文化交流を経て〈日本趣向学〉という言葉も定着しつつある。このことは外国語には排他的といわれているフランスで、日本語習得熱が高まっている現実がその一端を証明している。

「夢」のパリ公演ポスター 日本趣向への憧憬をバレエ「夢」公演のポスターに託した構図。1890年スタンラン作、大阪サントリー=グランヴィル=コレクションより。

条理の学           121.02

「天地万物に条理あり」と主張し、自然を支配する対立物同士の統一思想を表明した江戸中期の儒者、三浦梅園(17231789)の思想をいう。

国学              121.52

〈和学〉〈皇朝学〉〈本教学〉とも。江戸中期に起きた思想を背景とする学問。記紀や万葉などの古典を考証にそって文献学寄りに研究し、日本文化の解明に役立てる学問であり、中国渡来の儒学に対応する思想系を形作っている。契冲、賀茂真淵、本居宣長、平田篤胤ら多数の愛国的国学者を輩出した。

日本儒学            121.53

 中国本来の〈儒学〉に対応する言葉。彼地から移入後に日本で発達した儒教をいう。中国の孔子(551~前479)が開いたこの学問は、4世紀に日本に渡って以来、思想や理念の柱として実践され、数多くの儒学者を生み出し日本文学等にも大きな影響を及ぼした。

昌平廟学校図 元禄3(1670)年開設。江戸幕府肝煎りの官学系儒学を教授する学校で、その見取図

京学              121.54

 日本思想の一流で、江戸時代に京都で発達した〈日本儒学〉のこと。(藤原)惺窩(15611619)学派や堀川学派、松永尺五(15921657)の尺五堂などが知られている。広い意味で国学にも組み込まれている。

日本朱子学          121.54

〈程朱学〉〈宋学〉とも。中国発祥の「朱子学」に対応した言葉である。朱子学は中国宋代、朱子=朱熹(11301200)が大成した儒教の教えで、「性理説」を理念とする。わが国では江戸時代に官学として幕府の保護を受け隆盛。山﨑闇斎(16181682)が〈日本朱子学〉の確立者である。

南学              121.54

〈海南朱子学〉〈海南学〉とも。〈南学〉は土佐に興きた「日本朱子学むの一派。天文年間に南村梅軒(室町末期の人)が主唱し江戸初期に谷時中が一派をなす。教義は「実践躬行」を旨とする。

闇斎             121.54

〈崎門学〉とも。儒学者の山﨑闇斎(16181682)が起こした日本朱子学。孔子の「述而不作」を骨子に独自の学風に展開したもので、その思想は著『文会筆録』に示されている。

山﨑闇斎(161882) 江戸前期の儒学者。神道を基とする「崎門の学」は全国規模で広まり、日本の皇統思想に多大な影響を及ぼす。

陽明             121.54

 中国民代の王陽明(14721528)が為した儒学。彼は生涯を通して「心即理説」「致良知説」「無善無悪説」などの思想を唱えた。わが国では中江藤樹(16081640)、熊沢蕃山(16191691)、大塩中齋(17931837)らがこの説を広め、門弟少なからぬ思想系として一門を賑わした。なお、分類記号は日本の陽明学のものである。

江西学             121.55

藤樹学〉とも。琵琶湖西方をさして「江西」といい、そこの出身である中江藤樹が確立した日本の陽明学に付いた名。彼は学祖王陽明の「致良知」思想を支持し、上方で江西学派を率いた。

徂徠             121.56

〈古文辞学〉とも。荻生徂徠(16661728)を祖とする日本儒学の一派。和古語(やまとことば)の意義を帰納的に究めることで先代古典の本旨を知ろうとするかなり国粋色の濃い学問である。

その教義は服部南郭(16831759)、太宰春台(16801747)らに継承され一派を「徂徠学派」と呼ぶ。

荻生徂徠(16661728) 朱子学を修めて後、古文字学を唱導し太宰春台ら門弟多数を擁す。図は荻生敬一氏蔵。

古義             121.56

〈仁斎学〉〈堀川学〉とも。古学派の一人、伊藤仁斎(16271705)が京都堀川に開いた古義堂において開塾、門弟三千を教えた学問。「仁」に基づく人間修養を学哲に据えた。

春台学           (121.56)

江戸初期の環学者である太宰春台が主唱した経世派の道徳論を基調とした儒学である。彼は〈春台学〉の中で、資本主義社会を予見するがごとき卓越した経済論を唱えている。

亀門           (121.56)

 江戸中期の儒学者、亀井南冥(17431814)、昭陽(17731836)父子が四国で樹立した儒学一派の称である。

山子           (121.57)

 江戸中期の日本儒学者、片山兼山(17301782)が成した折衷学派一門の称である。

水戸学             121.58

 水戸藩で興隆した日本儒学の一学派。国史と神道を基にした国家意識の高揚を学風とした。一派は筋金入りの藤田東湖を輩出するなど、後の尊王攘夷運動に多大な影響を及ぼしている。

藤田東湖

西田哲学          (121.63)

 近代日本の代表的な哲学者である西田幾多郎(18701945)が樹立した思想系を指す。著『善の研究』では参禅哲理をバックにして、主客未分の純粋経験を独自の世界観として開陳した。

西田幾多郎

中国哲学 Chinese philosophy    122

「中国思想」とも。中国で発達した諸思想の総称である。春秋・戦国時代の「諸氏百家」にうかがい知るように、往古は数多の学派が覇を競いあった。やがて混乱は淘汰され、「儒教」ならびに「道教」が二本柱となり、わが国の思想界にも大きな影響を与えた。

シナ学 Sinology           122

〈支那学〉とも表記する。近代以前の中国の言語、文化、歴史などの学域を研究する学問。19世紀以来ヨーロッパを中心に興きた。この呼称は現在死語になっている。

経学            (123.01)

 中国古典『経書』『四書五経』などの思想解釈に関する学問体系の総称。彼我において裾野の広がりが大きく、近世日本儒学にも多大な影響を与えた。

            (123.01)

 学問としての〈小学〉は、古代中国で「経学」の下位に位置付けされた一分科である。

今文(きんもん)学           (123.01)

今文経学〉とも。中国で経学および経書を研究する専門家集団が開いた。清朝期には政治改革の具に利用されたりした。「小文(こもん)学」(先秦時代の古体文書が対象)に対応して用いる語である。

義疏(ぎそ)           (123.01)

 中国で経典関係の意味や語釈を詳解する学問。「義疏」すなわち、経義を疏通する、の意である。チベットなど大乗仏教布教のルーツはもとより日本思想にも少なからず影響を与えている。

聖徳太子著『三経義疏』の一部 日本における義疏学の代表的古典である。

青箱(せいそう)            (123.01)

〈王氏青箱学〉とも。中国の伝統科学である〈経学〉の一区分で、王姓を名乗る王氏による有職故実を集成した学問。医学や宗教などとも深くかかわりをもち、その真髄は長らく奥義秘伝とされてきた。

公羊(くよう)           (123.66)

 中国の古典思想書『春秋公羊伝』を中心に、今文経書(きんぶんけいしよ)を理念とする儒学の一派を指す。今文で書かれた経書が規範となっている。

儒学 Confucianism            124.1

「諸氏百家」の一で、孔子創始による中国伝統の政治と道徳に関する学問。なかでも〈朱子学〉は清朝期まで中国思想界で首座を占めるに到った。

先師孔子行教像 数ある孔子像のなかで未修正の1枚。唐代、呉道子画。

 わが国には応神天皇(記紀伝第15)の時代に「論語」が渡来したが、官学色が長らく続き、その影響で一般に普及するのは江戸時代になってからのことである。

老荘学 philosophy of Lao zi and Zuang zi            124.2

〈老荘の学〉とも。古代中国で道教二家を誇る老子と荘子(ともに春秋戦国期の人)とが唱えた類似学説の併称。もしくは、両者によって代表される道家の学説。すなわち、「宇宙の根源は虚無であり、故に、無為により自然なる道を選ぶべし」と教える。

黄老学              124.2

 コウロウノガクと読む。「道学」の一分野で、黄帝(古代中国伝説上の人物)と老子とを合体させた道家の思想体系をさす。すなわち、人為を避け、無為(自然体)の自由を尊ぶことにより生を養うことを知る、との主張が基盤になっている。

 Confucian philosophy (124.2)

 ここでいう〈道学〉とは、「道家の学問」を指し老子を始祖とする。すなわち、在来儒家の思想は人為にたよりすぎると否定的態度をとり、自己主張の帰結として「無為自然の体」をすすめている。

            (124.22)

 中国哲学史において、『老子』の「無」思想に根本理念をおく魏・晋時代思想の総称。「玄」そのものは、幽遠にして神秘的な存在を意味する語である。

刑名学              124.5

 中国思想の一で、戦国時代に申不害、商鞅、韓非らが説いた法治による治国主義思想を指す。すなわち、名と実が一致しない矛盾を取りあげ、これを許すべからざる所為として責めている。「刑は形に通ず」という定義からの命名である。

訓詁(くんこ)               125

注疏(ちゆうそ)学〉〈章句の学〉とも。 漢代・唐代に、(けい)の本義を解釈した学問として発達。「経書」の集成という形を経て、訓詁すなわち字句の解釈を試みた学問で、唐代になって完成を見た。

(ばく)              (125)

 中国史での「幕府」すなわち、地方政治の一般官署の役人(幕友)が学ぶべき裁判と財政の基本知識を指す。

朱子学 doctrines of Zhu Xi   125.4

  南宋の儒学者朱熹が大成させた儒学「宋学」の、さらなる新体系を総称した学域。すなわち、宇宙は存在を表す「気」と、その存在根拠となる「理」から成り立つ、との二元論を唱えた。これを「生即理」なる命題にととのえ、理の形質としての自己実現を課している。

               125.4

中国宋代の儒者、朱子(1130-1200)が中興した東洋思想の一体系。〈理学〉〈性理学〉〈程朱学〉あるいは〈道学〉などいくつもの別称や類称がある。宋代に成った新儒学の総称であり、後の〈朱子学〉と重なり合う部分が大きい。北宋の周(とん)()張載らが「陰陽五行説」など観念論を背景に説明した思想を南宋の朱新興儒学の一体系として完成させた。

朱子(朱熹)は「朱子学」生みの親でもある。

義理之学           (125.4)

 宋代以来、中国の道学者らによる義理(道理)を追求する学問の総称。在来の〈訓詁学〉に対応する用語である。

陽明学              125.5

〈王学〉〈心学〉などとも。明の王陽明が樹立した儒学。彼の在世時に形骸化してしまった朱子学を批判し、経典権威の相対的復興、欲望謳歌の理の素定など新思潮をもたらした。

陸王              125.5

 陸象山(11391192)ならびに王陽明が唱えた学問に対しての両者併称。両人ともに「心即理」を主張したため、一括した呼び方をされるに至る。なお「陸王学派」という名は後世人が便宜上付けたもので、当時現実に存在したわけではない。

良知心学           (125.5)

 中国の「陽明学」のうち王学学派の指導者、王守仁(陽明)が唱えた学説。すなわち良知((ひと)生来の正しい知力)の自己実現を基とした私人格の形成を本義とする。

考証              125.6

 明末清初に実証を旨とする学問として興った。天文学はじめ金石学、音韻学等において、考証を重視する風潮が盛んになり、それをきっかけに清朝期に顧炎武(16131682)が一派をなし、これの中興の祖となった。

インド哲 Indian philosophy   126

 インドで発達した哲学思想の総称であり、ウパニシャッドはじめバラモン教や仏教などに関した固有の思想をも含む思想体系。うち 「見解」darsanaは〈インド哲学〉のまさに骨子といえる語で、諸派宗教を交えた独自の世界観もしくは哲学体系を展開している。すなわち宗教の実践を通して、苦行と輪廻の世界から自己を解脱し、慈悲の精神を世上に満たすことに意義を置いている。

バラモン哲学 Brahmin philosophy 126

  仏教以前にインドの四種(カースト)制を標榜した民族哲学で、「バラモン教」の教義を基としている。バラモン教では『ヴェーダ』を聖典とし、宇宙の根源をなす梵天を中心に、難行苦行と操行潔白の自己犠牲を教える。この教えはインドの民衆社会に深く根を下ろし正統的な哲学思想と合わせ「解釈神学」あるいは祭祀、儀軌、宗教現象など全般を包括した呼称である。

『リグ・ブエーダ』聖典の写本 サンスクリット語で書かれている。インド国立民俗学博物館蔵、中西コレクションより

ベーダーンタ哲学 Vedanta  (126.2)

 インド哲学において、「アートマン」(自我)こそ個人の本源であるとするバラモン哲学系の一派を指す。

インド学 Indology         (126.25)

 インドとインダス文明にかかわる哲学中心の博物学をさす。ほかに文化、宗教、歴史などを対象とし、18世紀後半イギリスで発達した〈東洋学〉の一分野である。

六派哲学            126.6

〈バラモン哲学〉を構成する六体系、すなわちミーマーンサー、ヴェーダーンタ、サーンキヤ、ヨーガ、ニヤーヤ、ヴァイシェーシカを指す。インドのグプタ王朝期に、この六体系は〈六派哲学〉の名のもとに正統バラモン教に帰属する流派として確立された。いずれも『ヴェーダ聖典』を哲学の根源に据え拠りどころとしている。

ヨーガ哲学 Yoga            (126.6)

 インド正統バラモン派の修業法から発した「六派哲学」の一系。絶対者すなわちブラフマンおよびアートマンとの合一により精神の神秘境に入れると説く。

サーンキヤ哲学 Sankhya     (126.6)

 インド六派哲学において、アートマン(自我)を純粋な精神原理とみなし、これを宇宙の形質因に通じる存在であるとする一派の思想である。

瑜伽(ゆか)派哲学 Yogacara philosophy 126.6

「瑜伽派」はユイシキハとも発する。「六派哲学」の一つ、ヨーガ派に支持されている哲学思想。ヨーガ思想を通して解脱の境地に達することを希求する学派である。ヒンズー哲学者パタンジャリ(2世紀の人)を祖とし、『瑜伽(ラーガ)聖典(スートラ)』を経典としている。

朝鮮の哲学          126.6

〈朝鮮儒学〉とも。中国より朝鮮に渡来し当地で発達した儒教の今日的な総称。〈朝鮮の哲学〉は500余年続いた朝鮮王朝時代に隆昌し、同国の政治史と常にかかわりを深めながら幾多の変転革新を経て推移してきた。韓国は昔から「儒教崇拝が濃く儒教の優等生」といわれているのに、その本質や実体はいまだよく知られていない。哲学辞典にも関連項目すら見当たらないのはいささか理解しがたい。

李珥(イーイ)(153684) 朝鮮李朝は宣祖(ソンジヨ)代の民生家・文人学者。科挙に9回も首席で合格したことから、「九場状元公」の異名をとる。

アラビア哲学 Arabic philosophy 129

  アラビア半島で発達した各派哲学を総括した呼称である。〈アラビア哲学〉は古代にギリシア哲学を受け継いで展開、イスラムの『コーラン経典』に融合同化させた、いわば「ペルシア哲学」の本家系統を踏む。

ユダヤ近代哲学 Jewish modern philosophy 129.8

  近代のユダヤで発達した哲学。Chokmahと呼ばれる実在に関するヘブライズム思想の系統で成っている。近代では、在来のユダヤ教の独自性を廃し、普遍性のある理性原理を目指しつつある。モゼス・メンデルスゾーン(17291786)はこの主流派の中興の祖とされている。

イスラム哲学 falsafa islamia〔アラビア〕 (129.8)

アラビア語で「ファルサファ」と称する。

イスラム教での哲学体系を指す総称であり、イスラム教徒自身がイスラムの伝統思想をこう呼んでいた。思潮としては新プラトン哲学系の思潮が色濃い。

 

13 西洋哲学

西洋哲学 Western philosophy   130

  古代ギリシアをはじめとし、中世西洋におけるキリスト教世界へ、さらには近世以降に世界規模で多様に変遷してきた哲学の流れを総称した言葉。哲学思想では「東洋哲学」に対応する広範囲な学域を示す。

なお、哲学を示すPhilosophiaはギリシア語である。

古代哲学 ancient philosophy    131

紀元前6世紀前後、ギリシアの都市国家で発祥した古代の伝統的哲学の総称。ソクラテス(470~前399)以前の哲学者、すなわちタレス(620?~前555)、アナクシマンドロス(610?~前547)、ピタゴラス(570?~)、ヘラクレイトス(535?~前475)およびクセノパノス(6世紀の人)などを輩出している。

しかし一部の現代哲学者は古代哲学に偉大な業績を残したソクラテスをも含め古代哲学の対象とすべきだ、と主張している。なお単に〈古代哲学〉と称した場合は西洋哲学史におけるそれを指し、東洋思想などとは別して扱うのが普通である。

ローマ哲学 Roman philosophy    131

 1世紀、ローマ帝政時代以降にローマで発達した哲学の総称。〈古代哲学〉以降の区分に属し、この時代にはルクレティウス(97~前55)、セネカ(465)、プリニウス(2375)、エピクテトス(55?~135)らを輩出している。

ギリシア哲学 Greek philosophy  131

 古代ギリシアで発達した哲学の総称。普通3期に分けられ、第1(6世紀ごろ)は東方イオニアに発祥の自然学と西方イタリアの論理学とが2大勢力に分派し勢力を競った。第2(54世紀)にアテナイで名を売ったソクラテスの「人間対話的批判」、あるいはプラトンの「イデア論」、アリストテレスの「四原因生成論」など、形而上学的古典哲学の展開を見る。第3(3~後6世紀)には精神的安定を求めるエピクロス派をはじめ懐疑派など各派哲学が乱立した。

ソクラテス(469-399)は古代ギリシアの哲学者としてつとに知名度が高い。

ギリシア初期哲学 Greek early philosophy           131.1

 古代ギリシアで発達した初期哲学の総称。前6世紀、小アジアのうちギリシアの植民地イオニア地方で、タレスらが現れたのを発祥とする。やがて地中海沿岸に何人もの哲学者が現れ、それぞれイオニア学派、ピタゴラス学派、エレア学派などの流派が生じる。彼等は総じて万物の元である「アルケ」(根元)に存在意義を求め、自然神学の思想を表すようになった。

自然学 physics          131.1

 ギリシア初期哲学の1派で、自然そのものに哲理の本義をおいた。すなわち、万物の元となるのはアルケ(根元)であり、その具体的存在が水、空気、土あるいは「アトム」(原子)であるとした。近世に入り、〈自然学〉は自然科学に融和同化、論理学ならびに倫理学と並んでギリシア哲学の三本柱を構成するに至る。

プラトン哲学 Platonism      131.3

「プラトン主義」の汎称で通っている。プラトンの「イデア」思想とその学説から生じた哲学。彼の「霊肉二元論」によると、霊魂は肉体を超越して永遠に不滅であると説き、この思想を国家、道徳、宇宙の諸問題に敷衍させている。こうしたいわゆるイデアに基づく認識をもって現実世界を理想世界へと導くことを主張している。

プラトン(427~前347) ギリシアの高名な哲学者で、人間超越の実存的世界観を示す「イデア説」を唱える。

アリストテレス哲学 Aristotelianism 131.4        

「ペリパトス学派」の開祖アリストテレスの思想を受け継ぐ一派による哲学体系を称している。彼の哲学は、イデアを超感覚的な実態とみなすプラトン説を否定し、「エイドス」(形相)は質料に内在する本質そのものであるとしている。その主張は『哲学のすすめ』において詳しく述べられている。

アリストテレス論理学 Aristotelian logic             131.4

 アリストテレスが樹立した論理学。今日では論理学の基礎として、今にいう「記号論理学」に対し古典的宝鑑を誇っている。彼の論理学は、後にOrganon(機関) の名で呼ばれ、大きく概念、命題、推論、方法、誤謬の5系に分けて論じられている。

ストア哲学 Stoicism         131.5

「ストア学派」が唱える哲学。この学派は紀元前4世紀末に、逆説でその名を高めたキプロスのゼノン(336?~前264)が創始した「ギリシア哲学」の一派である。

ゼノン

 彼等は克己、禁欲、義務の励行を旨とし、感情に左右されることなく、運命を毅然として甘受するという、道徳的高尚の態度に徹した。

〈ストア哲学〉の特徴は論理学、自然学、倫理学を三本柱として体系化されていることにある。

中世哲学 medieval philosophy   132   

 西欧における哲学史区分の中世分野が対象に。すなわち前354年から13世紀末までをさす時代の哲学域となる。この時代で知られたものに教父哲学、スコラ哲学、ルネサンス哲学などが含まれる。

教父哲学 Alexandrianism     132.1

〈教父学〉とも。キリスト教会史上、初期著作家たちの思想集成の総称。「ギリシア哲学」でもとくに教父アウグスティヌス(354?~430)から受け継いだ教統を守っている点が特徴である。

スコラ学 Scholasticism    (132.2)     

 中世ヨーロッパに成ったいわゆる「スコラ学派」の総称で、哲学はじめ神学や法学などで構成される。

スコラ哲学 Scholasticism     132.2     

〈スコラ学〉〈煩瑣(はんさ)哲学〉とも。中世ヨーロッパで、教会や修道院付属学校において、教職者が哲学・神学などを研究した学域をさす。

 なかんずくアリストテレス哲学やプラトン哲学を弁証法的になぞり、形式主義に、すなわち煩瑣かつ衒学的な論法に傾いた点に特色がある。

スコラ論理学 Scholastic logic (132.2)       

 西洋中世の学校であるスコラにおいて、「アリストテレス哲学」を中心に「キリスト教神学」と同調して成った哲学のうち論理学分野での思想系を指す。

新スコラ哲学 neo-scholasticism 132.2         

〈新スコラ学〉〈新トマス哲学〉とも。13世紀イタリアの神学者で哲学者のトマス・アクィナス(12251274)の学説復活をめざした哲学運動のこと。19世紀末、フランスのカトリック哲学者ヤクエアス・マリタン(18821993)が中興したスコラ哲学の呼称である。

アラビア中世哲学  Arabic medieval philosophy  132.28

 アラビアで中世に発達した哲学史の一区分。イスラム神学者をはじめ、「清浄の兄弟」と呼ばれた一群の民間学者の思想がこれの研究対象になる。

ユダヤ中世哲学 Jewish medieval philosophy 132.29

  中世におけるヘブライ思想の一連の流れを総称した用語である。

11世紀のスペインに定住したサロモン=ベン=エブタ=ベン=ゲビロルが新プラトン的学説を唱えた時期から始まり、バルーチ・スピノザ(16321677)、メンデルスゾーンあるいはヘルマン・コーエン(18421918)あたりまでが対象人物になる。

バルーフ・スピノザ

ルネサンス哲学 Renaissance philosophy 132.3

  ルネサンス(文芸復興)期に前後して現れた一連の哲学活動をさす。なかでも13世紀イタリア半島に起きたブルジョアージー意識の芽生えが、自己の文化的エネルギーを背景に哲学にも発揚された。これがルネサンス哲学の特色の一つで、後にスコラ哲学を生み出す母体となる。

近代哲学 modern philosophy  133      

  人によっては〈近世哲学〉とも称している。哲学史の時代区分で「近代」に相当する期間の哲学活動を総称した言葉である。具体的な時代区分は研究者によってまちまちであり特定できない。この時代の特色を一言でいうと、古代ギリシア哲学を復活させることにより、哲理をヒューマニズム寄りに変えることを目標とした一連の流れをいう。18世紀英仏に生じた新思潮のもと、新興中産階級の台頭に見る近代市民社会の哲学などは、〈近代哲学〉の典型といえよう。

西洋近代哲学 Western modern philosophy 133

 哲学史の時代区分で「近代」に相当し、西欧で発達した哲学の流れをいう。 この時期にはエックハルト、カント、クサヌス、ルネ・デカルト(15961650)、スピノーザ、ヨハン・フィヒテ(17621814)、ゲオルグ・ヘーゲル(17701831)など著名な哲学者が数多輩出している。

啓蒙哲学 philosophy of enlightenment 133

  ヨーロッパ哲学史で17世紀末オランダに始まり、18世紀後半に全欧で成熟した革新的哲学の総称。人間生活の進歩と幸福の追求を本旨とし、宗教、政治、社会、教育など広範な分野にわたり新秩序の構築をめざした。イギリスのジョン・ロック(16321704)、フランスのシャルル・モンテスキュー(16891755)やヴォルテール(16941774)、ドイツのカントらが活躍した。

イギリス哲学 English philosophy 133.1

〈英国哲学〉とも。理想主義に支えられた実践哲学こそイギリスが生んだ哲学の主軸といえよう。ベーコンに代表される中世伝統哲学に始まり、18世紀後半のアダム・スミス(17231790)を経て、オックスフォードのギルバート・ライル(19001976)ら論理分析家などに至っており、多彩な思想過程を総観することができる。

アダム・スミス

アメリカ哲学 American philosophy 133.9

〈米国哲学〉とも。西欧の植民地であったアメリカでは、民主主義を建前とした現代プラグマティズム哲学が誕生した。この路線はやがてネオ・プラグマティズムというアメリカ独自の哲学に発展し、ルイス、クワイン、モリス、グッドマンらの思想家を世に送り出している。

ドイツ哲学 German philosophy   134

 ドイツで発達した哲学の総称で、嚆矢は中世13世紀ケルンのマグヌス・アルベルトウス(1193?~1280)やマイスター・エックハルト(1260?~1327)あたりに求められよう。〈ドイツ哲学〉全般は多分に形而上学的かつ観念論的な特徴をもつ。なかでもドイツ古典哲学は、「哲学それ自体を哲学した最初の哲学」であるとされ、言い得て妙である。具体的には批判哲学、カント哲学、現象学などが成立し、カントはじめフィヒテ、ヘーゲル、グスタフ・フェヒナー(18011887)、マルチン・ハイデッガー(18891976)らを輩出している。

ゲオルグ・ヴィルヘルム・フリードリッヒ・ヘーゲル(1770-1831)はドイツ観念論を代表する哲学者で、ヘーゲル哲学の創始者。

スイス哲学 Swiss philosophy    134

 スイスで発達した哲学の総称だが、哲学活動に限って、さして高名な者はいない。チューリヒの宗教改革者ウーリッヒ・ツヴィングリ(14841531)は宗教の同化で実績をあげている。またジュネーブ生まれのジャン・ジャック・ルソー(18121867)は、渡仏してから啓蒙思想家として名を挙げた。

オーストリア哲学 Austrian philosophy 134

 オーストリアで発達した哲学の総称。ウィーンで成立したマルクス主義が中核になる。マルクスの社会理論を支えに、新カント主義手法「社会的アプリオリ」が超越論的概念としてもてはやされた。、この国ではブルーノ・バウアー(18091887)、 カール・レンナー(18701950)といった近・現代の哲学者を輩出している。

批判哲学 critical philosophy  134.2

〈先験哲学〉あるいは〈観念論哲学〉とも。人間にとって認識可能な条件や認識能力の発露に対し、先験的考察を加えて認識批判へと導入する哲学。カント哲学による批判主義から派生した。

カント哲学 Kantianism        134.2

 ドイツの哲学者イマヌエル・カントが提唱した哲学を継承し発展させた思潮の総称。カントは伝統的な形而上学を否定することにより、事実と価値あるいは史学と自然科学とを相対関係でとらえ、道徳論的かつ美的判断寄りの認識論を樹立した。名著『純粋理性批判』においては、特有のアプリオリ(先天性)なる認識能力論が展開されている。

同一哲学 Identitatsphilosophie〔独〕 (134.3)

 理性は対立しあう有限なものすべてを包括するという前提のもと、たとえば主観性と客観性、実在と観念などを同一視で把握し、絶対的な再構築を実現するとする哲理を指す。ドイツの近世哲学者フリードリッヒ・シェリング(17751854)が提唱した。

ドイツ古典哲学 dialectical materialism (134.7)

 ヘーゲルの観念弁証法を中核とする唯物論弁証法の総称。いわゆる「肯定、否定、否定の否定」という論理を構成する。

現象学 phenomenology         134.9

 ドイツの哲学者フッサールが記述した本質論。先入観を排除したうえで意識上の諸現象を正しく直観し、哲学や縁辺学域の基礎とすることを主張している。この〈現象学〉を土台に、ハイデッカーやサルトル(19051980)らが20世紀哲学・美学のいわゆる現象学的潮流を確立している。

生の哲学 philosophy of life  134.9

〈生哲学〉のほかに〈生活の哲学〉〈生命哲学〉〈人生哲学〉など、独語Lebensphilosophieを移入した当初は各種の訳語が用いられた。人生や生活の知恵を扱う人生哲学、あるいは生を中心概念とする新思潮をさす。ドイツのディルタイ、ニーチェ、ジンメル、フランスのアンリ・ベルグソン(18591941)らがその旗手として知られている。

フランス哲学 French philosophy 135   

 フランスで発達した哲学の総称。〈フランス哲学〉はスコラ哲学をよりどころに栄えた。そこに芽生えたのがデカルト哲学で、人間的合理主義を標榜したものである。ラブレー(1494?~1553)やモンテニューらを輩出し、後者の「ク・セ・ジュ」(われ何を知る)はあまりにも有名な箴言である。また19世紀~20世紀に台頭した政治哲学も注目に値する。

ミシェル・モンテニュー(1533-92)はフランスを代表する哲学者の一人

ベルギー哲学 Belgian philosophy 135

  ベルギーで発達した哲学の総称。フランス哲学の影響を多分に受けている。

オランダ哲学 Dutch philosophy 135

  オランダで発達した哲学の総称。

スペイン哲学 Spanish philosophy 136

 スペインで発達した哲学の総称。16世紀に現れたスペイン神秘主義の流れが色濃く尾を引く。その発祥は14世紀に活躍したライムンド=ルリオとロイスブルークとされている。

ポルトガル哲学 Portuguese philosophy 136

 イベリア半島の1共和国、ポルトガルで発達した哲学の総称。

イタリア哲学 Italian philosophy 137

  イタリアで発達した哲学の総称。イタリア哲学が脚光を浴びたのは中世からのこと。古くは教父哲学者アウグスティヌスを生み出し、11世紀のアンセルムス(10331109)らを経て、12世紀に異端哲学者と称されたアヴェロエスや、スコラ派のトマス・マクィナス(11261198)などが活躍している。神学者で科学者のレオナルド・ダ・ヴィンチ(14521519)は、哲学者としても名を列している。

ロシア哲学 Russian philosophy  138

 ロシアで発達した哲学の総称。旧来〈ロシア哲学〉はギリシア正教の神学を踏襲したものにすぎなかった。これが17世紀末のピヨトール大帝治世期に、西欧化への転機を迎えた。この時期、キエフ出身の詩人でもあるフルイホーリィ・スコヴォロダ(17221794)はロシアで最初の本格的な哲学者とされている。

ホーリィ・スコヴォロタ

20世紀に入ると10月革命を期に、ロシア哲学は「ソビエト哲学」へと名実ともに変容するのである。

ソビエト哲学 Soviet philosophy 138

  ロシアが「ソビエト連邦」と称した時代の哲学をさす。〈ソビエト哲学〉は即、ボリシェビキ党(後のソ連共産党)の世界観であるマルクス・レーニン主義哲学に他ならない。ソビエト哲学の特性は、たとえ思想といえども哲学者という少数派の占有物ではなく、すべての人民の共有物とされたことにある。近・現代はステパーノフやN・ブハーリン、ミーチンといった哲学者を輩出している。

スカンジナビア哲学 Scandinavian philosophy 138

 スカンジナビア半島諸国(ノルウエーとフィンランド)にデンマークを加えた国々で発達した哲学の総称である。

アフリカ哲学 African philosophy 139.4

 アフリカ大陸諸国で発達した哲学の総称。19635月のアフリカ統一機構発足後は、民族の独立と解放、反植民地化闘争を反映させた革命とナショナリズムに塗り染められたもの、といってよかろう。

ユダヤ哲学 Jewish philosophy (139.7)

 ユダヤ人が「モーゼ律法」を信奉し、そこから支脈となった啓示思想の流れを指す総称。本来的な「哲学」を意味するギリシア哲学とは思潮を異にする。

ユダヤ近代哲学 Jewish modern philosophy 139.7

  近代イスラエルで発達した哲学の総称。

 

14 心理学

心理学 psychology              140

〈心理学〉とは、明治の思想家の西(あまね)が移入時に当てた訳語である。人の心の動きを中心に、その行動を研究する学問。当初は精神領域の学問に限定していたが、今では哲学はじめ倫理学、宗教学、生理学、物理学にまでわたり、実証的科学として不動の学域を形成している。

下部領域に応用心理学、発達心理学、異常心理学など多彩な分野を含む。

応用心理学 applied psychology  140       

  心理学の一分科で、「基礎心理学」(心理学研究の基礎分野。NDC等には記載がない)に対応した概念の言葉である。

実験心理学の手法と成果は、教育指導、カウンセリング、臨床医学など幅広い面で応用されている。あるいは、これの下位分野である消費者心理学や購買心理学などのように、マーケティングという実務面にも応用され成果をあげている。

文化心理学 cultural psychology  (140)         

 人の心の動きを社会、文化、歴史などそれぞれの産生としてとらえ、生物学的実証に迫る心理学の一分野である。これの源流は19世紀、ドイツの心理学者ヴィルヘルム・ヴント(18321920)が初めて提唱した「文化心理学」に端を発する。しかし日本で本格的に研究されはじめたのは、1970年代に入ってからである。

 ヴィルヘルム・ヴント

実存心理学 existential psychology 140.1         

  合理主義や実証主義に対抗し、人間を理性や科学ではとらえられない独自の存在と主張したうえで、人間心理の複雑な構造や問題点を解明する心理学的方法論の一系。思想系統上は実存哲学に隣接する学問である。また形態心理学、ゲシュタルト心理学、行動心理学などともかかわりあっている。

トポロジー心理学 topological psychology (140.1)

〈位相心理学〉とも。むある環境におかれた人間心理、あるいは生活空間の構造変化等を位相(トポロジー)の概念をもって解明する心理学の一分科。アメリカ在住のドイツ人心理学者クルト・レヴィン(18901947)1936年に発表した「トポロジー空間」として知覚される、心理学的幾何学説に根ざしている。

トポロジー構成の空間 エドワード・ソジャ(1940-)作「第2空間」#2 トポロジーの開店空間を示している。

構造心理学 structural psychology 140.1         

 スイスの言語学者フェルディナンド・ソシュール(18571913)の著『一般言語学講義』に触発され形成された一連の構造主義人文科学のうち、心理学にかかわる学域の総称。つまり心理学的な秩序の解明を言語構造になぞらえて分析し同化させていく手法をさす。

力動的心理学 dynamic psychology (140.1)         

〈力学的心理学〉〈精神力学〉とも。学術用語「欲動」から発生する心理現象および心理過程をとらえ、双方の相互作用や促進、抑止、結合などを研究する学問。深層心理学やメタ心理学などに適用される。オーストリアの精神科医ジグムント・フロイト(18561939)が「意識」と「無意識」とに分けた理論を提唱したのが発端である。

組織心理学 organizational psychology  (140.1)

 通常〈産業心理学〉とも呼ばれている。組織の構造ならびに機能と、そこに所属する人々の活動との関連性を研究する、応用心理学の一分野。たとえば労働効率や職務満足度といった、心理学的諸問題に焦点が当てられる。一般の企業体をはじめ学校、病院、団体などに適用される。

構成心理学 structural psychology (140.1)        

〈構成的心理学〉〈要素心理学〉〈内容心理学〉とも。20世紀初頭にアメリカの心理学者エドワード・ティチェナー(18671927)が初めて用いた語。彼はドイツの心理学者ヴントがまとめた実験心理学的手法を忠実に継承し、新たに「構成主義」を唱えてその方法論を確立した。

連合心理学 associationism  (140.1)

〈連想心理学〉とも。イギリスの経験主義哲学者ジョン・ロック(16321704)が唱えた説で、心理要素あるいは観念が相互に引き付け合う現象に関する研究を指す。さらにスコットランドの哲学者J.S.ミル(18061873)は、これに対して「心的科学」という当を得た名づけをしている。なおこのセオリーは、人工知能へのアプローチといった先端技術にも利用されている。

作用心理学 act psychology (140.16)        

 人間の感覚、記憶、想像力、意思などといった精神的要素はすべて作用の働きから芽生えるとする心理学派の主張。オーストリアの哲学者フランツ・ブレンターノ(18381917)が提唱した。

了解心理学 Verstehende Psychologie〔独〕 (140.16)

 人間の精神活動を認識する場合に、了解という他者とのシンボリックな関連手段を用いて解釈する心理学の一分派。ドイツの哲学者で心理学者ウィルヘルム・ディルタイ(18331911)が提唱した。

本能論心理学 instinctive psychology (140.16)

 精神の能動的推進力としての原点を本能に置いた心理学論の一派。イギリスの心理学者ウィリアム・マクドゥーガル(18711938)提唱した。

ゲシュタルト心理学 Gestalt psychology  140.17

和訳して〈形態心理学〉とも。知覚にかかわるゲシュタルト(形態的概念)の現象を解明する心理学の一分野。主観的経験の役割に重きを置き、形態あるいは構造といった視野に立ち、簡潔性の法則を貫くことで研究に資する。マックス・ヴェルトハイマー(18801943)ら、ゲシュタルト心理学の牙城といえる、いわゆる「ベルリン学派」によって提唱された。

ゲシュタルト心理学を応用した錯視画像 黒は盃台に、白抜きは対面する二人の人物に見える。

行動心理学 behaviorist psychology 140.18         

 心理学を行動科学の一環としてとらえ、客観的観察を通して課題を究明する心理学分野の一つ。ここでいう「行動」とは、人間や動物が示す総合的な行為で、観察可能な反応など表面だったものをいう。卑近な例では、湾岸戦争で多国籍軍がイラク軍のプロパガンダを行動心理学応用によって見破り、勝利を収めたことが知られている。

機能心理学 functional psychology 140.18         

  実用性や経済効用を重視する機能主義の思想を心理学に適用させた学域。アメリカのプラグマティズム哲学者で心理学者のジョン・デューイ(18591952)1896年に主唱した学説に基づき、機能主義一派が展開させた。1920年以前の初期段階では、これの心理学的実験に人ではなく実験動物がもっぱら供されている。

精神発生学 psychogenesis   (140.7)

〈心因学〉とも。精神障害の徴候、自覚症状などを含めた各種障害の発生原因を研究する学問。身体よりも心理的過程での動きが重視される。

精神測定学 psychometry     (140.7)

〈心理測定学〉とも。心理テストのさいに適用する効果的な手法と構成について研究する心理学の一分科。臨床に当たっての定量化、標準化などにより種々の測定法が用意されている。

精神物理学 psychophysics     140.7

〈心理物理学〉とも。ドイツの哲学者で博物学者グスタフ・フェヒナー(18011887)が確立した、身体と精神との相互依存関係を解明する学問。彼は、その中核となる知覚への刺激と感覚との関連性の研究で実績をあげ、「ウェーバー=フェヒナーの法則」という形式を樹立した。

グスタフ・フェヒナー

実験心理学 experimental psychology 140.75     

 人間の精神状態、現象や動物の行動などについて、実験的手法を適用する心理学手法上の総称。すなわち統制実験のもと、認知(知覚、記憶、思考、言語など)や学習スキルのような心理作用にかかわる研究が対象となる。臨床心理学や発達心理学との関連性が深い。

普通心理学 normal psychology   141  

 一般の人に共通して見られる心理を扱う。言い換えると、心理学の基準となる諸規範を形作る分野。「異常心理学」に対応して用いる概念の言葉である。

能力心理学 faculty psychology  141

 古典心理学の一分野で、「骨相学」を発達させる基礎となった学問。意志、理性、本能といった心理上の機能や現象は、これらの相互作用によってもたらせられる、という主張から生まれた。

音響心理学 psychoacoustics     141

  音の物理的属性と心理的効果との関連性を聴覚器官を通じて究める学問。聴覚が深く関与する生理的心理学の一分科であり、音響学からの分岐領域でもある。成果は音声、音楽、情報処理など多方面で活用されている。

生理学的心理学 physiological psychology           141.2

〈生理心理学〉とも。生理学的プロセスあるいは心理学的事象との関連を研究する心理学の一分野。能力心理学の一分科である。ちなみにウィルヘルム・ヴント著に『生理学的心理学要綱』がある。

アヒルかウサギか アヒルともウサギとも見える同体の錯視図。1900年、アメリカのゲシュタルト心理学者ジャストローが創成。

認知心理学 cognitive psychology (141.51)  

  イメージや推論をもとに、内在する精神の認知過程をモデル化して研究する学問。ここでいう認知は注意、知覚、学習、記憶、思考、意思決定、言語はては人工知能的などが含まれた心理的諸形態の領域をいう。

認知科学 cognitive science  141.51  

 認知心理学とほぼ同義も、研究対象をより広げ、人間の知性をその応用面で分析し解明する。記憶、知識、表現、概念形成などに基づく生体の仕組の解明をめざす。アメリカで急速に発達している先端科学である。

感情哲学 philosophy of feeling (141.6)      

 独Gefuhlsphilosophieの訳語。18世紀末ドイツに出現、知性よりも感情を重視する非合理主義思想をいう。〈感情哲学〉は、今日では哲学よりも心理学のカテゴリーに属している。

意志心理学 akrasia psychology 141.8 

 NDC分類上の記載語だが、心理学辞典にこの術語は見当たらない。意志薄弱の精神症例を対象にした言葉か。あるいは意思の動きを研究対象とする「意思心理学」の表記誤りか。

個人心理学 individual psychology 141.9   

 1911年にオーストラリアの精神科医アルフレッド・アドラー(18701937)が提唱した精神分析の一領域。彼は「心的エネルギー」イコール劣等感の補償という個人的無意識論を掲げ、斯界の注目を浴びた。

個性心理学 psychology of the individual 141.9

 人や動物に個性を付与する行為やそのプロセスを研究する心理学。分析心理学上に「個性化」という術語を用い、さらにその象徴として曼荼羅(まんだら)(梵学での象形図形)を掲げるなど、その研究過程はきわめて異色である。

差異心理学 differential psychology 141.9    

 個人の性質や能力などの差異を研究する分野の心理学。個人ごと、男女ごと、民族ごとといった人間グループ同士に生じる違いを統計を活用して究める。

環境心理学 environmental psychology  (141.92)

 人間をとりまく物理的環境における心理的変化や心理学的影響を研究する学問。たとえば文化の差異をもたらす生活環境や職場環境などが対象になる。

性格学 characterology    141.93

 人の性格(個性)を分析し研究する学問で、心理学では古典的基礎に位置づけられている。

古代ギリシアに遡り、アリストテレスの弟子テオフラストス(373~前287)が初めて個性的描写を手がけたことに始まる。ここでいう「性格」とは、ある個人を他人と区別する心理的特性の集合体あるいは結合体をさす。

自我心理学 ego psychology (141.93)     

 オーストリアの精神科医ジグムント・フロイト(1856-1939)が自我学説を一段と発展させ、自我を積極的に研究対象に組み込む精神分析学の一派。フロイトの娘で児童心理学者のアンナ.フロイト(18951982)らが手がけ、以来アメリカの精神分析学諸派の主流となる。

ジグムント・フロイト

類型学 typology             141.93

  個別の存在や現象の類似点を考察し、この結果をもとにいくつかの群体類型を設定して本質を究めるための学問。〈類型学〉では心理学の学域が中核となるが、他に文化哲学、生物学、文化人類学など研究テーマによって異なった学域からの参加を得て展開される。

人格心理学 personality psychology (141.93)

 人格に人として最高の価値を認めるのがカントら提唱の〈人格主義哲学〉。その流儀を心理学に敷衍し適用したのが〈人格心理学〉で、多分に道徳的かつ個人的な学域である。

臨床神経心理学 clinical neuropsychology  (141.94)

 脳の一部に局所的病変のある患者の症状から、逆にその局所の機能を推察する学問。大脳中の感覚性言語野を対象にした実験で、書字や計算などにかかわる中枢がこの方法により解明される。

神経心理学 neuropsychology  (141.94)

 脳と神経系の障害がその人の行動や精神的経験に与える影響を研究する学問。心理学と神経病理学との中間領域に位置するが、属性化がやっかいである。

筆跡学 graphology           141.98

〈書相学〉〈筆跡鑑定学〉とも。書かれた筆跡をもとに、その人の性格など心理的側面を理論的かつ実際的に分析研究する学問である。法医学等の分野では筆跡を鑑定する専門家を「筆跡鑑定家」と呼んでいる。

鎌倉時代の歌人、藤原俊成の筆跡は全般に「奇癖の強い筆跡」であると鑑定され、個性の強い人格との判定も下されている。『仮名消息』に所収、泉屋古文館蔵

発達心理学 developmental psychology 143

〈発生心理学〉とも。人間の幼児期→児童期→青年期→成人期→老年期にさまざまな心理的事象、あるいは生涯に起こる各種の心理的変化について研究する学問である。これらは発達時期に応じてそれぞれ「幼児心理学」「児童心理学」「生年心理学」「老年心理学」などと称される。

比較心理学 comparative psychology 143.8    

 種が異なる動物同士の行動を研究する心理学領域で、進化のメカニズムに焦点を当てて研究する。「行動心理学」「動物行動学」とは縁辺関係にある。

民族心理学 racial psychology 143.9   

 一民族の習俗、道徳、神話、言語などから特有の文化的側面を解明する心理学。ドイツの心理学者ヴントが中興した学問で、今では文化人類学あるいは民族学の一分野にも組み込まれている。

風土心理学 geopsychology     143.9    

 自然地理学的各相の環境が人間心理に及ぼすさまざまな影響を研究する学問。文化心理学の一分科であり、また「環境心理学」と重なり合う面が大きい。

異常心理学 abnormal psychology 145    

 以前は〈変態心理学〉ともいった。異常な心理状態、病的な心理状態、精神的無能力、夢分析、催眠術などを対象に発生因診断、予防、治療などを目的とする心理学の一分野。

ドイツではこれをPsychopathlogie (精神病理学)と称している。

催眠学 hypnology           145.4

 古くは「催眠術」といった。正常者を催眠状態へと導く心理療法の一つ。人為的催眠状態の誘致操作により、心理的変化等を解明してカウンセリング面に役立てる。

臨床心理学 clinical psychology 146    

 人間の心理学的障害を対象に、その解消のために心理学上の理論や技法を駆使する心理療法の総称。精神障害者や精神的無能力者などの臨床面においては、その性質、分類、診断、治療、予防などに役立てられる。

精神分析学 psychoanalysis   146.1      

精神の深層すなわち潜在意識内のコンプレックスを発見し、いくつか技法を用いて治療する臨床心理学の一分野。オーストリアの精神医フロイトが体系づけた深層心理学で有名である。主な治療技法に自由連想、夢分析、失策行為処方などがある。

鑪幹八郎著『夢分析入門』創元社

分析心理学 analytical psychology (146.1)    

 1913年にスイスの心理学者カール・ユング(18751961)が、在来の精神分析から一歩進めた概念をもとに、新しくアプローチを試みた心理学手法をさす。これは「ユング派分析」という術語でも呼ばれている。

深層心理学 depth psychology  146.1 

 人間の精神活動内部で、まだ意識に上がらない心理的領域を対象に、意識生活や行動を「無意識」で説明しようする心理学理論をいう。現代にいうカウンセリング心理学に大いにかかわっている。

フロイト学 Freudianism       146.1 

 オーストリアの精神科医フロイトが樹立した精神分析の概念を実践、継承していくための分派学問。フロイトの学術的実績を対象とする諸研究成果といった業績も含まれる。

サイ科学 psi science        (146.1) 

  UFOから霊界通信まで超常現象全般を対象に、その真実の姿を解明する研究。ただし学域としての整理あるいは統合性がなく、個々の分野での実体はまだ「予測研究」の段階にとどまる。

推命学                       146.1 

古くは「四柱推命術」と称した。約2500年前の中国で編み出された占術の一つである。人が生まれた年月日時によってその人の運命がどう変わるのか、死に様がどうかなどを暦に付いた干支で予測した。

健康心理学 health psychology (146.8)  

〈保健心理学〉とも。人の身体的健康について、心理学的側面から究める応用心理学の一分野。たとえば健康増進、生活習慣病の予防、薬物乱用の防止などへの適用がある。

超心理学 parapsychology        147

「心霊研究」ともいっている。かつては超常的な心理現象はじめプシー現象あるいは超感覚的知覚(透視、テレパシー、予知など) 等を対象に研究する学問であった。これが現代においては、俗に超人と言われる人たちを対象に、自然法則では説明のつかない超能力を究める意味へと転化している。

心霊学 psychicism           147 

 人間社会等に生じる超自然、超常現象について、死後存在の面から解釈、考究する学問。ヨーロッパ諸国では古くから心霊信奉を通して扱われ、科学の一分野として発達した。

瑢璣玉衡(ようきぎよくこう) 秦の一官吏である舜は、「瑢璣玉衡」すなわち天測儀を用いて天道の運行を見計らい、上帝が自分を帝位に就ける意思のあることを知る。古典『尚書図解』より。

隠秘学 occultism            147 

 俗称「オカルト」または「オカルティズム」。近代、科学の体系から逸脱した自然や精神生活における超常諸現象を扱う学問。霊媒、超能力、霊界通信といった古典的現象がことさらに強調されるため、科学者によってはこれを学問体系に組み入れないケースもある。

性相学 ?              148.1 

人相、骨相、手相など人の肉体的特徴を下に、その性質や運命などを判断する学問である。昭和戦前期に「性相学聖典刊行会」という団体が実在した。なお英訳語は未詳である。

相貌(そうぼう) これは観相の基となる顔全体の観法をいう。顔を山にたとえた「五岳」から気色と血気の相である「三停」を見て「十二宮」を鑑定する。

人相学 physiognomy        148.12 

〈観相学〉とも。昔は「人相見」「人相術」といった。人相を対象に、その人の気質や性格、ときには吉凶の相と運勢まで明らかにする経験知の体系を指す。

手相学 palmistry         148.1

「手相見」とも。人の運勢を手相つまり手指と手掌に示される徴相に読み取る技法をいう。

骨相学 phrenology        148.16 

 骨相を鑑定して、その人の性質や運命を判断する学問。18世紀欧州で、脳の特定領域には心的能力が宿るという仮説のもと、その場所を頭蓋骨の隆起としてとらえ検出する学問が栄えた。今日の大脳生理学の発達にも寄与。

毛相学 hairymancy         148.19 

 毛髪や体毛の生え方、色具合、長短、剛軟などから人や動物の運勢や吉凶などを占う術。

易学 divination              148.4 

 易を研究する学問。西欧では占星術など、過去にたくさんの易学が生まれては消えた。

陰陽道の八卦 上は八卦の魔除け護符の図、下は三本足の蛙を持つ幸運の使途である劉海(りゆうかい)(せん)の像。1915年『中国の俗信』挿絵。

 

墓相学                 148.5 

 中国の秦・漢時代から伝承されてきた術数の一つ。墓所の吉凶を占うものだが、実証性に欠け迷信の域を出ない。

 

数秘学 numerology          148.9 

 数を用いて人物等の性格や運命、予兆などを解き明かす西洋占術の一分野。公的には学問として認められておらず、いわゆる術の一、私称学の一部であるにすぎない。

亀卜(きぼく)の図例 大陸経由で日本に移入されたもの。「亀卜」とは、亀の甲羅を焼き、出来た亀裂の方向などで吉凶を占う。図はそれのひび割れが生じた方向に応じた占いを示す。年代は未詳。

拘禁心理学 prison psychology 149         

 収監者が刑務所などに収容された場合の通有的な心理現象を研究する応用心理学の一分野である。

 

15 倫理学. 道徳

倫理学 ethics                  150

 ギリシア語のethosから、〈エートスの学〉とも。「倫理学」はわが国近代の哲学者、井上哲次郎(18551944)が訳した語である。道徳全般、すなわちその起源、発達、根拠、本質あるいは規範などについて究める学問。広義には、論理学や美学と並ぶ哲学の三大学域の一つに数えられる。実践倫理学、社会倫理学、処世哲学などの下位分野に広がりを見せ

セネカ(5~後65)の胸像 通称小セネカ、ローマの哲学者、道徳家、政治家、文学者。『セネカ十大悲劇』の著で知られ、道徳垂訓の小論を多数発表している。

道徳哲学 moral philosophy      150

 おおむね〈倫理学〉に同じ。ただし、〈道徳哲学〉を個人の道徳規範の思想として扱う場合は、倫理よりも人間の内面性洞察を重視することになる。

道徳学 moral philosophy    150

 道徳、すなわち人が行うべき正しい行動の規範と習慣形成、あるいはその実践方法などを通して研究する学問である。

 「良心の目覚め」 売春婦が現実世界から抜け出そうとあがくヴィクトリア朝期の寓意画。1853年W.ハント画、テイト美術館蔵。

メタ倫理学 meta-ethics      150

 倫理学の確とした根拠を示す目的で、道徳判断の拠りどころや善悪概念の意味を明かにする学問。「分析哲学」寄りの思想である。なお「メタ」はギリシア語で、超越を意味する接頭語である。

東洋倫理学 Oriental ethics (150.22)   

 東洋で興隆した倫理学。中国で発達した儒教を中核に、主に東洋思想の一環として扱われる。

実践倫理学 practical ethics (151)   

 道徳原理を示す純粋理論上の研究に対し、こちらは原理を具体的に応用・実践することを主軸にした倫理学の一分野である。

神学的倫理学 theological ethics (151)   

 人間行為を神に最も近い究極理想へと引き上げ導く倫理思想。プロテスタント神学の用語である。

社会倫理学 social ethics    154

 道徳成立の起源や評価について、個人を脱し社会的条件などを加味しつつ記述する倫理学の一分野。アリストテレス記述の「ポリス学」はその典型といえる。

心学                157.9

〈石門心学〉とも。江戸時代に庶民啓蒙の手段として発達した学問。神、仏、儒の三教を合体させ、その教義を平易な言葉や喩えで説明している。開祖は教化思想家である石田梅岩(16851744)で、彼の石門心学は最盛期に全国規模で講舎を開いている。

禅心学               157.9

 禅にいう「無」の思想を通して、参禅しながら人間形成のすべてを一心に帰結させる心学体系をいう。

処世哲学 philosophy of religion (159)           

 一般には「処世術」で通っている。世渡りの方法をいっているが、下世話に用いられることが多く、処世訓など数多の思想が表明されている。

経営哲学 philosophy of management (159.4)

 社訓や社是などを含めた企業体の経営理念。たいていは明文化して従業員に周知徹底させ、事業姿勢にも反映させている。

 

16 宗教

宗教学 religious studies     161  

 世界に存在する諸種多数の宗教を総括的に研究し、その本質もしくは実態を解明する学問。この分野の研究が本格化したのは19世紀末からである。宗教哲学、宗教社会学、宗教心理学などにより構成されている。

マルティン=ルター(14831546) ドイツの宗教改革指導者・聖書のドイツ語翻訳者。1520年、クラーナハ()画、ウィーンのアルベルティーナ美術館蔵。

教学               161  

 宗教において道徳面を強調する場合に用いる術語である。「教学」イコール「宗派」との解釈も出来る。

               161  

 「宗派学」とも。仏教における「教学」で各宗派ごとの教学に分かれる。 

宗教哲学 philosophy of religion 161.1      

 宗教一般のあるべき姿を哲学的に解釈し、その方法をより究めていく学問。ただし、特定の宗教とその教義は原則として取り込まない(比較論はある)ので、神学や教義学とは異質のものである。

宗教社会 sociology of religion 161.3      

 あらゆる宗教現象は社会上の事象である、との前提のもと、宗教の性質や機能、宗教と社会との関連性、宗教の社会帰属性などを研究する。

宗教心理学 psychology of religion 161.4      

 宗教現象を心理学的見地から研究する。信仰を軸に解釈態度や観察規範の設定がポイントになる。

宗教史学 history of religion  162

 宗教の歴史、あるいは宗教と歴史学や考古学との関係を研究する学問である。

宗教人類学 religious anthropology 163

  宗教の教義、表象、行動に課題をおいた人類学研究の一分野である。

宗教民族 ethnology of religion 163      

  宗教現象を民族学の見地から比較考察を加えて研究する。図例に掲げた呪札は俗信研究対象の端的な例といえる。

禁方免(きんぽうめん)(さつ)」の呪札 凶事の方位や方災を避けるための密教まじない。『大秘符』所収より。

 

神話学 mythology             164  

 神話の起源からその成立、発展、考証などを研究する学問。〈比較神話学〉を除いた分野では、単一国家または民族に発生した神話に集中して研究される場合が多く、「民俗学」とも深く関係する。

 

比較神話学 comparative mythology 164

 諸民族の神話を比較しつつその宗教的奥行きを探り出す研究。 神話学の中核的存在で、19世紀以降に発展した比較的新しい学問である。

 

比較宗教学 comparative religion 165     

 宗教学の一分科で、諸宗派を比較しながら、個々の宗教の歴史的・考証的な考察を下し、その本性や意義を評価する学問である。

 

天啓神学 revealed theology (165.1)       

啓示神学〉とも。天啓説を宗教の起源とする神学一派の学説。「天啓」とは、神など絶対者が人に(さと)し示すことを人間の側から表現した言葉。キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、日本の教派神道などがこれの分野に相当する。

ヴィシュヌ女神 ヒンドゥー教は多神教を背景に発達。ヴィシュヌは世界の守護神であり、魚に化身して人々に崇められる。18世紀、バーナード=ピカートの木版画。

教条神学 dogmatic theology (165.1)       

教義学〉とも。「教条」とは教会が公認し内容を箇条に成文化した教義をいう。この教条を絶対視して自動的に適用させる神学一派を〈教条神学〉という。〈教義学〉とも。

イスラム学 Islamology     (167.1)

 イスラム教域にわたり、18世紀にヨーロッパで流行したオリエンタリズムをいう。たとえば『コーラン』の英訳やナポレオンのエジプト遠征などの史実はその代表である。      

イスラム神学 Islamic mythology 167.1        

〈アラー神学〉とも。アラーを唯一全能の神と信ずる神学。啓示を集成した『コーラン』を教典とする。

 

17 神道

神典学               (170)

神典すなわち『古事記』『日本書紀』はじめ『風土記』など神道の教典となる日本の古典について研究する学問である。 

神道考古学              172

〈神社考古学〉とも。考古学者の大羽磐雄によって提唱、命名された宗教考古学の一分野。神社や祭祀具、奉納品などを対象に、日本固有の神道とその祭祀のあり方を考古学的に検証する学問である。

 なお日本の神道においては「神学」に相当する語はなく、「神道」の誤で包括する。

熊野大社の荘厳な拝殿正面 長らく最高位格の一宮国幣大社として君臨、熊野信仰発祥のルーツであった。

 

18 仏教

仏教哲学 Buddhism thought     181  

 一般に「仏教思想」と称されている学域を指す。狭義には〈仏教学〉に同じで、仏教全般に関し、教徒とその教義や宗派信仰のあり方などを哲学的、宗教思想的に研究する分野である。

八宗兼学              (181)

 日本での古代・中世の諸宗派仏教において、各宗の教学を比較研究し評価を下す研鑽行為を指す。

なお八宗とは「大乗八宗」のことで、真言宗、天台宗、曹洞宗、日蓮宗、浄土宗、臨済宗、浄土真宗、時宗を指す。

仏教考古学 Buddhist archaeology 182.9        

 仏教に関し、関連する遺跡、遺物、社址、経塚、仏像、仏具など幅広く対象にして研究する宗教考古学の一分野である。

丸山応挙「波上白骨座禅図」 聖僧だろうか、海上で座禅を組み超常的、骸骨はかなり写実的だ。応挙の「なんでも見て描いてやろう」という姿勢を髣髴させる。京都、大乗寺蔵。

仏伝文学 Buddhistic stories (184.9)    

 日本において、釈迦思想伝来をめぐる説話や物語の総称。『マファーヴァストゥ』という梵語古典に見るうに、ときには釈迦自身の伝記とされる。文学性よりも宣教色のほうが濃いので、筆者の判断で「仏教」の分類に組み入れた。

講唱文学             (184.9)

 古代中国で寺院の俗講僧らが唱導を目的とした語り物を指す。文学というよりは、明らかに宣教の目的をもって台本が書かれたものである。

 

19 キリスト教

自然神学 natural theology    190.9

〈哲学的神学〉とも。古来「理心論」「自然神教」「自然神論」などといわれてきた。

神の存在や心理の拠りどころを超自然的な天啓とか奇跡にたよることなく、崇拝の根源をあくまでも人間理性に求め、その主張を論証する神学一派をいう。

組織神学 systematic theology  190.9  

 キリスト教の教義や倫理を学術的側面からとらえ、系統だった真理として示す学問。教会の成り立ちとかかわりが深く、キリスト教神学の重要な一分科を占めている。

キリスト教神学 Christian theology 191       

 諸神学のうち、キリスト教に関する神学をいう。聖書の「天地創造」や「聖人降誕」といった物語に基づく部分が大きい。

デューラー「書物を貪り食う聖ヨハネ」 天啓に従いヨハネは書物を食べてしまうという伝え『ヨハネ黙示録』第10章の内容を描く。アルブレヒト=デューラー(14711528 )はドイツの著名な版画家。1498年制作の木版画、新潟県立近代美術館蔵。

平和神学 irenic theology     (191)

 キリスト教神学の一分科で、平和主義を教義の全面に標榜している。

新神学 new theology          (191)

 19世紀末、ドイツから日本に伝えられたプロテスタント系「自由主義神学」に対する日本での呼称である。

個人の理性的判断に基づき教義の解釈を進める立場をとる。

応用神学 applied theology    (191)

 理論的に成立した神学体系を実践面で応用するための神学で、アメリカのメリルハースト大学を中心に発達した。

西方神学 Western theology    (191)

〈ラテン神学〉とも。中世にラテン語で書かれた教典神学すなわちローマ=カトリック教会の神学を指す。「東方神学」に対応する概念の言葉である。

東方神学 Eastern theology    (191)

 古代ギリシアでギリシア語で書かれ、キリスト教をを弁証法で思惟する一派の神学を指す。「西方神学」に対応する概念の言葉である。

プロテスタント神学 Protestant theology             (191)

 プロテスタンティズム諸派に信奉されてきた「福音主義神学」をいう。英連邦諸国ならびにアメリカで広まった。

スコラ神学 scholastic theology (191)  

 11世紀、キリスト教に生じたスコラ哲学すなわちアリストテレス哲学寄り教義の神学を指す。

プロセス神学 process theology (191)   

 アルフレッド・ホワイトヘッド(18611947)の「プロセス哲学」に依拠し展開させた形而上学と神概念との整合性を重視した一派の神学思想である。

教義神学 doctrinal theology  (191)

〈スコラ神学〉に思弁的な教義を求め分派神学である。

倫理神学 moral theology      (191)

 人間を超自然的かつ高等的な究極の目的へと導く行為を示す、カトリック神学の典型的な用語である。

契約神学 federal theology    (191)

 キリスト教において、神人関係および社会関係すべてが神意との契約に基づくとするピューリタン思想の一派を指す。カルビニズムの系統に属する歴史神学でもある。

イコン神学 icon theology     (191)

 イコンすなわち聖画像を絶対視、偶像視する、あるいはその破壊をタブーとする教義の神学宗派。8~9世紀ビサンティン(東ローマ帝国)に始まるイコン破壊主義に対抗して生じた一派である。

三位一体イコン アンドレイ・ルブリョーフ(1360-1430)画。彼はロシアの修道士、聖像画家として知られる。

神秘神学 mystical theology   (191)  

 カトリック神学において、神との神秘的交流を通して密教体験を得るとする神学一派。「否定神学」とは表裏一体の関係にある。

否定神学 apophatike theologia〔羅〕 (191)  

 5世紀末、偽ディオニュシウスという人物が広めたキリスト教神秘主義の支弁を支える教条。すなわち、神はあらゆる規範を超えた存在ゆえに、神が善であるとか存在するとかは言い得ない。神への規範と形容いっさいを否定することこそ神への道である、と彼は説いた。

近代主義神学 modernism theology (191)  

 ドイツのプロテスタント神学における神学史の時代区分上の呼称である。フリードリッヒ・シュライエルマハー(17681834)からカール・バルト(18861968)までの活動期間を指す。

自由主義神学 liberale Theologie〔独〕 (191)

 キリスト教神学において、歴史的相対性のもと、個人の自由な信仰の実存や精神活動を教条とする一派を指す。

教義学 dogmatics           (191.1)

 キリスト教の教理の歩みなどを編じまとめるための学問。三位一体論をはじめ贖罪論、義認論、サクラメント論、終末論などで構成する。

キリスト教人間学 Christian humanism 191.3

 キリスト教の立場から論じる人間学。宗教色が濃く現れるので、本来の人間学とは一線を画して扱う必要がある。

悪魔学 demonology        (191.5)  

 悪魔や悪霊についての伝説や口承等を研究する学問。洋の東西を問わず存在し、東洋では妖術使いが、西洋では魔女がこの分野での主人公である。

弁証法神学 speculative theology 191.9 

〈思弁神学〉〈危機神学〉とも。神の超越性を論拠に天啓への応答との間に介在しうる逆説を説き、これを教義に求める神学一派をいう。

バルト神学 Barth’theology   191.9  

 弁証法神学の開祖カール・バルト(スイスの神学者)の教義面を強調した神学用語である。

解放の神学 liberation theology 191.98 

  1960年代ラテンアメリカに現れた新思潮の神学。教会を拠点に社会奉仕を目的に、大衆を貧困や搾取から解放しようとする使命感に支えられ発展している。

聖書神学 the bible theology 193.01

 聖書とそれを構成する諸書の神学的考察を研究する。対象とする研究内容により「旧約聖書神学」と「新約聖書神学」に分かれる。

聖書考古学 biblical archeology 193.02  

 聖書の記述内容をはじめ記載人名と地名、それらの背景となる時代と地域などを遺跡、遺物等から史学的に考証する。

聖地考古学 Holly-land archeology (193.02)  

 旧約聖書やユダヤ教に出現する聖地各所を史実と整合させるため研究対象とする考古学の一分科である。

知恵文学 wisdom literature (193.02)  

 旧約聖書中の「箴言」「ヨブ記」「伝道の書」などを人智学的観点で見た場合の特称である。世界支配を知者にゆだねるという神秘的宇宙論や信仰秩序に基づく。

使徒らガリラヤ湖で漁 舟に擬した教会を湖に浮かべ魚を取るペテロたち。信徒を魚に見立てている。12世紀初頭、フランスのヴァンドーム画、ラ=トリニテ修道院蔵。

聖書学 bibliology           193.09

 聖書を人文科学面にポイントを置き、総合的に研究する学問である。

旧約聖書学 the Old Testament (193.1)  

〈旧約学〉とも。旧約聖書固有の事象を研究対象とする聖書学の一分野である。

聖書語学 biblical language  193.09 

新約・旧約両聖書に現れる用語の語義、人名、地名等を研究する。

聖書解釈学 hermeneutics     193.09

 聖書そのものを理解するための補助学問で、方法や解釈規範等が多様化している。

新約聖書学 the New Testament (193.5)  

 〈新約学〉とも。新約聖書の事象を研究対象とする聖書学の一分野である。

パウロ神学 Pauline theology 193.71

 使徒パウロによって書かれた新約聖書の文書から教義を展開する神学である。

黙示文学 apocalyptic literature (193.8)  

『黙示録』すなわち、紀元前後のユダヤ教およびキリスト教の終末論を述べた文書群の総称である。

宣教学 missiology            (197)  

〈伝導学〉とも。キリスト教を伝導し信者を広める活動を展開するための支援的研究である。

牧会学 pastoral theology       197

〈牧会神学〉とも。神の言葉と神の民キリスト教徒の生き方とを関連づけた実践神学の一分野である。

教会史学 ecclesiastical history (198)  

 キリスト教下の教会史のなかで各地における歩みを史学的かつ神学的観点から考古する研究である。

基礎神学 fundamental theology (198.2)  

 神の啓示の真理を対象に研究するカトリック神学の一分野。キリスト教義学の体系の一脈をなす。

調停神学 mediation theology (198.38)  

 ドイツのプロテスタント神学者マルティン・ルター派神学に属し、いわゆる「信仰義認」を教条とした。20世紀初頭にケーラー(18351912)らが先駆的役割を果たす。

神智学 Theosophy            198.99

 古くに「接神術」といった。本来、人間には神秘的な霊智がそなわっていて、これにより神を直接見ることができる、とする信仰である。

『時祷書』の表紙 キリスト教で祈りのタイミングを指導する書物が時祷書。この本の表紙には死を暗示する骸骨が描かれ魂の安逸である祈りへと導く。16世紀の刊行。

人智学 Anthroposophie〔独〕 198.99

 人類学と神智学、または科学と霊界認識との交流の場として、人間がもつ高度の認識能力を開発するという理念に基づいた学問。クロアチア生まれの社会思想家ルドルフ・シュタイナー(18611925)が確立した。

「神智学」に対応する概念の言葉である。