1.「配列」のテクニック

 

 言葉の並べ方を意図的に操作することで、文章や文字列に影響を与え、特有の持ち味を発揮させる文彩技法がいくつかあります。これらを総称して「配列」のテクニックといいます。

 言語操作の基本は、まず言葉の並べ替えから入ります。単純な手法ではありますが、数あるテクニックの出発点です。

 ある文句やフレーズの配列が先か中ほどか後ろかによって、文章の脈絡が異なり、つれて表現内容にも差異を生じます。たとえば、内容を強調したい場合の表現は、強調したいキーワードを先に置く、という原則があります。これによって続く文章の牽引機能が一段と高まり、読者の興味を引き付けていくことができるのです。

                     イメージ画像

 

1.「配列」のテクニック コンテンツ

 

 1-01 混み入った内容は〈結論優先〉で述べる。       

 

 1-02 〈ポイント(要点)先取り〉に徹した文章術       

 

 1-03 びっくり言葉で機先を制する〈奇先法〉        

 

 1-04 歯切れのよい構文を創る〈倒置法〉          

 

 1-05 内容を次第に盛り上げていく〈クライマックス〉    

 

 1-06 内容を尻下がりに落とす〈アンチ・クライマックス〉  

 

 1-07 読み手を言葉の絶壁から突き落とす〈頓降法〉     

 

 1-08 言葉をくるりと変えて綱渡り〈語調急転〉       

 

 1-09 仲良し言葉をひっくり返して洒落る〈転倒彩〉     

 

 1-10 伏線を仕掛けて相手を乗せる〈伏線開示〉       

 

 1-11 自分の意図する目的へと誘い込む〈誘導法〉      

 

 

1-01 混み入った内容は〈結論優先〉で述べる。

 

♥祭り取り止めの町内会報♥

 

恒例6月に行われる予定の「波祭り」は今後、開催取り止めとなりました。

理由は、先の東日本大震災において多くの犠牲者を出した津波被災のためです。

復興いまだ遠い感のあるこの時期に、津波がもたらした天災にかかわる波祭りは復興時にふさわしくない、との開催委員会の総意に基いたものです。

今年は行事をやむを得ず見送りますが、来年は新企画のもと新たな町おこしイベント実施を検討中です。

町民の皆さん、よろしくご理解ください。

 

文章構成の基本は「起承転結」にありますが、内容が混み入って長文になるような場合は例外です。そうしたときは言いたいポイントである結論を先に出し、その後に理由などを述べる展開が望ましい。この文彩技法を〈結論優先〉といいます。

 

ことに忙しい相手を説得させ納得してもらう必要のある文章では、結論優先はたいへん効果的です。

 

例文を注意深く読んでください。重要なことから順に先出ししています。ネットメッセージでおなじみ、AAA>BBB>CCCという構文スタイルになるわけですね。これだと、「復興いまだ…」以下の文章は読まなくても、書かれた内容はおよそ通じます。

 

辞典類はすべてこの結論優先主義を貫いています。また新聞の見出しは、結論優先の極端な構成表現例です。

 

 

1-02 〈ポイント(要点)先取り〉に徹した文章術

 

♥投稿欄での意見発表♥

 

「識者」という言葉、逆差別用語だと私は思います。「人間国宝」これも逆差別用語ではないでしょうか。

マスコミに登場する機会のない庶民は、学識のない無教養者といわれている気がしてなりません。また、われわれ平凡な国民は、国の宝とはいえないのかなあ。

メディアや為政者は、口では国民平等をうたいながら、こういう逆差別用語を次々と創り出しています。そのくせ彼らは、特定の俗語などをこれは差別用語だと勝手に決め付け、昔言葉や卑語等を槍玉に上げ、いい振りこいて言葉狩りに狂奔しているじゃないですか。三文文士(これも差別用語だそうで)はやりきれませんよ。

 

今の世の中、言葉狩りがはびこっています。文科省あたりの役人が音頭を取り、各地の教育委員会あたりが同調し、マスコミや市民団体などが悪乗りして、言葉狩りに眼の色を変えています。自分たちの行為が文化破壊に繋がっていることを知ってかしらずか、まったくいい気なものです。年配の物書きは仕事がやりにくくなった、とボヤかざるをえません。連中、人権論を声高に唱えながら、一方では逆差別用語を量産しているわけ。こういう不条理をテーマに取り上げて一文にしてみました。

 

掲出文は、〈要点先取り〉という文彩技を用いたもの。要点の総括的記述を先行させた後、補足説明などを加えていく手法です。いわば文章のポイント先取り形態で、大事なことは先に言い切ってしまおう、という趣旨の技法。読み手に情報をしっかり伝える必要のある場合、こうした要点を先出しにするのが普通です。ちなみに、見出しを含めた新聞の報道記事は、この要点先取りを骨格に構成されています。

 

なお、1-01の〈結論優先〉では結論となる文章の先出しですが、〈要点先取り〉はキーワードそのものを優先するという違いがあります。例文の場合は「差別用語」がキーワードです。

 

 

1-03 びっくり言葉で機先を制する〈奇先法〉

 

♥結婚話から逃げる男に♥

 

わたし、今夜こそ娼婦になってやる。

ほかの男に抱かれてもいいのね!?

返事の期限は今夜午前0時。

それまではあなたの女だわ。

esなのか、Noなのか、はっきりさせて。

 

 

世の中には結婚話を持ちかけると逃げ腰になる男が少なくありません。それまでのちやほやぶりは仮面をかぶっていたのです。この手の男は自己中心的であり、自分の都合しだいで世渡りする傾向が強い。たとえ結婚し所帯を持っても先が見えていますから、本当は思い切って縁を切ってしまったほうが身の為なのですが。

 

ともあれ煮え切らない態度の男には、まず言葉のパンチを一発お見舞いしてみましょう。例では、文彩における〈奇先法〉というテクニックを用いてみました。

 

冒頭で相手の意表をつくような奇言を示し、あとから必要な情報を与えて納得させる技術です。「娼婦になって、他の男に抱かれてやる」と告げられては、ステディなパートナーならば心穏やかならず。さらに返事の期限を設けることで現実味が増し、相手の決意を促す効果が強まります。

 

ところであなた、彼と別れ話になったとしても、よもや娼婦に堕ちたりはしませんよね。お釈迦様も申しています、「嘘も方便」と。

 

 

1-04 歯切れのよい構文を創る〈倒置法〉

 

♥震災見舞いへの感謝の返事♥

 

 巨大地震で、グラッと揺れました。

大地が、街が。

私の心も、揺さぶられました。

皆様の温かいご支援で。

 

 鯰絵より「鯰にのる伊勢の馬」

 

2011311日の東日本大震災では、東京にいてすら、表現は下卑ていますが、

玉が縮みあがる思いをさせられました。

 今なお、被災地の復興と被災者の皆様の立ち直りを祈らずにいられません。

 

さて、震災に寄せられた見舞いに対しては公的にも私的にも謝辞に気を配る必要があります。感謝のメッセージをしっかり伝えることはもとよりですが、くどくどと冗長な言葉の羅列は、かえって本意がぼやけてしまいます。簡潔に、要領よく、しかも相手に良い印象を残す文章を心がけましょう。

 

文例は、「倒置法」というレトリックを用いてあります。倒置法とは、文の述部を先に出し主部を後回しにする語順配置換えの操作のことです。

 

日本語は構文形態から見て倒置法はなじみにくい、とされています。構文の変化に伴う文章が論理的なブレを生じてしまいがちです。語句の変則的な位置取りが、読み手に心理的な違和感を与え、スムーズな言葉の流れをせき止めてしまうのです。こうしたネックを緩和するためにも、倒置構文は出来るだけ簡潔で短いほうがよろしい。と同時に、洗練された倒置文は意外性が強まり、受け手の印象強調に役立つのです。

 

倒置法はかなり普遍的な用法で、昔の小学1年国語教科書にある「サイタ、サイタ、サクラガ、サイタ」もこれです。標語の類も、倒置句は人気筋で、意外にたくさん見られます。

 

 

1-05 内容を次第に盛り上げていく〈クライマックス〉

 

♥おしどり夫婦の述懐記♥

月曜日、見知らぬ同士の男と女

火曜日、出会いの挨拶軽ろやかに

水曜日、意気投合でデート交際

木曜日、熱々に惚れ割りない仲も

金曜日、愛しあっての痴話喧嘩

土曜日、別れ話もちらりと出たが

日曜日、挙句の末が出来ました婚。

 

 フリースペース風曜日(部分) 〔ブログ「イラストのへや 森邦生」より〕

 

文字を追っていくごとに記述内容が高まっていく技法を詩文などでよく見かけます。俗に〈尻上がり〉文彩用語で〈漸増法〉または〈クライマックス法〉と称している技法がこれです。複数の文句が連なる文章で、弱いものから強いものへ、小さいものから大なものへというように、内容を次第に盛り上げ、やがて頂点に達するような語順に配置するテクニックです。

 

例文は、このクライマックス法を七曜の時間経過になぞらえて仕上げたもの。あるペアが落ち着いたおしどり夫婦になるまでの過程を七曜日にちなんで超短編物語風に仕立ててみました。

 

クライマックス法では、各段階(ステップ)ごとにはめ込まれた状況設定が大きく物を言います。すなわち、刻々と状況変化していく様子が手に取るようにわかるメリハリ付けがポイントになります。

 

優れたミステリー小説は、このクライマックス法を使い巧みにプロットを構成しています。言葉遊びの要素も大きいので、あなたも面白い作品作りに挑戦してみてはいかが。

 

 

1-06 内容を尻下がりに落とす〈アンチ・クライマックス〉

 

♥リストラ中年男のツイッター自嘲♥

 

十で神童、十五で才子

二十歳過ぎればただの人。

…なんだそうで。ならば

当年四十四歳の俺は凡々人か。

はたまた、粗大ゴミか。

 

 

前掲〈クライマックス〉の反対語が〈アンチ・クライマックス〉、〈漸減法〉あるいは〈漸降法〉と呼ばれている技法です。複数の文句が並ぶ文章において、先へ進むほど内容を尻下がりに下げていくテクニック。いわば展開の方向性がクライマックスの逆行版なのです。

 

例文では、俗諺を引き合いに出し、切り口としています。この文句、三つのステップに別れ、加齢ではクライマックスを、人物評価ではアンチ・クライマックスを対比させ金言化しています。以下、書き手本人の自嘲でぼやき落とし、尻下がりの最悪「粗大ゴミ」で止めのひとことに繋がります。

 

なお細かいことですが、縦組み引用文の場合、数字表記は慣行に従い漢数字で表しましょう。みだりに算用数字を使うのは見苦しいだけ。馬鹿の一つ覚えのように算用数字を塗りたくる、味も素っ気もなくなった大新聞の真似はすべきでありません。

 

 

1-07 読み手を言葉の絶壁から突き落とす〈頓降法〉

 

♥女心をおもちゃにした男へ♥

 

あなたはお金持ち。

それにイケ面です。

おっしゃることも立派ね。

けれど、男としては最低だわ。

地獄へ堕ちろ!

 

 

世に「殺し文句」があります。特定の個人や集団、あるいは一般の人たちに特別な心理的影響を与える効果を発揮する言辞です。狭義には男女間の愛の言葉や口説き文句を指しますが、普通はもっと広義に用いられます。使われ方も個人同士のメッセージからキャッチコピー、スローガンにいたるまで範囲は広がっています。

 

掲出は文彩で〈頓降法〉といっている技法を使った例です。男につれなく捨てられた女の恨み節、といったところを表現してみました。ぐだぐだと泣き言を並べたてず、相手をしっかり見据えた言葉を連ね、最後のひとことで一挙にストンと転落させています。

 

この「地獄へ堕ちろ!」で男への恨み、つらみが一挙に噴出している。こうした最後通牒を突きつけられては、女扱いに手馴れたタフな男といえども、心中穏やかではないでしょう。先行文が穏やかな物言いだけに、結果、殺し文句としてインパクトが際立つのです。

 

 

1-08 言葉ををくるりと変えて綱渡り〈語調急転〉

 

♥父親へ、大学生の息子より♥

 

親父どの、手紙に「トッポイ」とか

「ゲルピン」とかあったけど

昔言葉じゃ意味がわかんねえよ。

……

で、ですね。今年の夏はバイトが少

なくって、しおたれています。

お脛を少々かじらせてください。

 

 

この一文は〈語調急転〉というテクニックです。

前半、父親に対する息子のぞんざいだがありきたりの言葉遣いが、後半、小遣いを無心する段になって、急に丁寧言葉に改まっています。昔言葉を平気で使うウザイ親父をその気にさせようと、息子も一生懸命なのが手に取るようにわかるではないですか。

 

語調急転は、書き手が一定の思い入れをもって流している語句を、中途で意図的に他の異質な流れへと急転直下させる技法です。

 

人は興奮したときや頼みごとをするときなど、語調を一気に変えて乱暴にののしったり、逆に改まった物言いに変えたりします。こんなとき受け手は、文章心理学にいう「摩擦」によって、少なからず戸惑いを感じてしまいます。加えて、モードチェンジしたときの調子破壊に伴い、滑稽感すら生じることが少なくありません。

 

ちなみに浄瑠璃や歌舞伎といった古典演劇のセリフ(台本)は語調急転の例の宝庫で、いくらでも探し出せます。

 

 

1-09 仲良し言葉をひっくり返して洒落る〈転倒彩〉

 

♥謎なぞごっこ、電子版♥

 

A 謎なぞ廻して遊びましょ。

  太くて細いもの、なあに?

B 親父のスネ。では

  近くて遠いもの、なあに?

C 隣りの飲み屋。では

  笑って泣けるもの、なあに?

D 夢で当てた3億円。では……

 

 

昔の謎なぞ遊びは子どもら数人が寄り集まり順繰りに謎掛けを楽しみました。遊びの多くが電子化された現代でも、ケータイやPCを使って相手と遊べます。

 

掲出は二段謎という最も単純な形式の謎なぞ遊びですが、謎掛けの内容にご注目ください。「太くて細いもの」「近くて遠いもの」「笑って泣けるもの」それぞれが対立言葉になっている点。これを文彩では〈転倒彩〉レトリックでは〈倒置反復法〉と名づけています。反復の表現において、先行した語句をそのまま同類語で受け継がずに、あえて反対語を据えて繰り返す技法です。

 

転倒彩は、詩歌やことわざにたくさん見られます。論理的には、一文中において「X⇔Y、Y⇔X」というフォームで交差します。この点、「X⇔Y」のみの〈対句彩〉よりも複雑なニュアンスが伝えられるテクニックです。

 

ちなみに交通標語「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」は対句交差をかたちどった転倒彩の模範例です。他にも三つ、よく知られた文例を掲げておきましょう。

 歌は世に連れ、世は歌に連れ

 伊勢は津でもつ、津は伊勢でもつ

 遠くて近いは男女の仲、近くて遠いは田舎の道

 

 

-10 伏線を仕掛けて相手を乗せる〈伏線開示〉

 

♥小料理屋の女将へ、一目惚れした客

より♥

 

昨晩突出しに出してくれた

松前付はとてもうまかった。

味付けが半端じゃない。

でも、あなたは松前付よりも

はるかにおいしそうです。

今度はいい女を

たっぷり味わせてください

 

本コンテンツは副タイトルで「ハートフル」と銘打っているからといって、優等生的な情緒の世界だけが舞台ではありません。世俗的なお色気の世界にも、惚れた張ったという心情の動きがあるわけです。ことに口説く相手が水商売の女性ともなると、一筋縄では成功しないのが普通。この例のように、まず言葉の突出しを差し出して、女心をくすぐってみましょう。

 

その突出しに当たるのが、いわゆる伏線です。物語や小説では、あらかじめヒントに示しておいたキーワードやフレーズをヤマ場でつなぎ明かす技法を用いますが、これを〈伏線開示〉といっています。

言い換えると、正体(口説き落としたい)をいきなり見せずに、ずるずると引きずっておいて、最後で一挙にいってのける。伏線となるキーワードにはパンチの効いた言葉を据えて、相手の心にグサリ突き入れるのです。

 

この例では、「おいしい松前漬」が口説き文句の伏線であること、言うまでもありません。また「味付け」も「味わせて」への伏線とみなすことができます。

 

 

1-11 自分の意図する目的へと誘い込む〈誘導法〉

 

♥オバン連の背徳ボランティアPR♥

 

ヤングアダルトの坊やたち

蕾ちゃんばかり散さんといて。

若さぶつけた刹那的ナンパは

長続きせんとよ。

 

体を持て余したわたしら

姥桜がボランティアします。

ベッドテクニック使って

楽しませてあげる

可愛がってあげる

ネをあげるほど、たっぷりと。

 

 

「配列」のテクニックの締めくくりとして取り上げたいのが〈誘導法〉という説得の技術です。これは意図するところへと相手を段階的に説得していく技法です。相手が興味を持ちそうなストーリーを展開し、最後を〈殺し文句〉で締めくくるわけ。

 

ストーリー全体の構成を例文に分解すると、

起……ヤングアダルトの坊やたち

承……蕾ちゃんばかり、以下云々

 転……体を持て余した、以下云々

結……ベッドテクニック使って、以下云々

という四段論法で相手を攻めていくことになります。

 

ときにこの挙例に顔をしかめる人もいましょうが、有閑マダムによる若者への性的奉仕だってボランティア活動とみなせないことはありません。通俗アダルトといえども文筆の身の内。文章表現力の間口を広げるには、清濁併せて貪欲に消化していく姿勢も必要ではないでしょうか。