3.「反復」のテクニック

 

一文で同一もしくは同類の文句が何度か規則的に繰り返される系統を「反復」のテクニックといいます。反復する言葉の性質や位置関係で表現そのものが大きな影響を受けます。音楽でいうなら「ボレロ」や「元禄花見踊り」の曲節繰り返しがその見本です。

文彩でも基本のテクニックに属し、韻律効果の発揮を目的に詞章等で人気になっています。文章展開の綾で、他の文彩技法と重なり合うことも少なくありません。

 

 

3.「反復」のテクニック                   

 

 3-01 詞章を同じ言葉で染め上げる〈音彩反復〉       

 

 3-02 ときには滑稽も演出する韻律技〈リフレイン〉     

 

3-03 音韻で織りなす言葉の綾取り〈頭尾反復〉       

 

3-04 詞章を大胆に装飾して変身〈音韻音彩〉        

 

3-05 同音同語で綾なす詞華のリピート〈冗語法〉      

 

3-06 同類の音声洒落をリズミカルに重ねる〈畳語彩〉    

 

3-07 同義の言葉を複数並べ立てる〈重言〉         

 

3-08 同義語や似たような言葉を並べ立て〈同義語列挙〉   

 

3-09 和語の律動が織りなす優美な〈音律〉         

 

3-10 NO続きの最後はYESで締めくくり〈否定反復〉   

 

 

3-01 詞章を同じ言葉で染め上げる〈音彩反復〉

 

♥「りん付け」狂歌作詠の課題♥

 

出題:「りん」の2字音を出来るだけ多く使って狂歌を作りなさい。

 

解答:りんりんが足りんと鳴ける鈴虫ぞ りんりんやめばいのちちりりん(荻生詠)

 

 

「りん付け」というのは狂歌課題詠の一つで、狂歌一詠中に「りん」の音字をできるだけ多く読み込んで作る遊びです。伝えられたところによりますと、江戸時代浪花狂歌檀の長老、鯛屋貞柳が門下生に「りん」の字の付く言葉を列挙させ、それを狂歌に仕立てたのが始まりだといわれています。このほか「さん付け」「ちや付け」などという同類もあります。

 

このように歌俳や歌謡詞章等を構成する各句の頭尾を同音で揃え、全体を音律化する技法を〈音彩反復〉と称します。句頭を同音で押すものを「頭韻反復」、句尾を同音で押すものを「句尾反復」といいいます。

 

音彩反復は文彩上の分類が厄介です。というのも、術語形式上は「畳音彩」に属しますが、別に言語遊戯で言う「早口」はじめ「洒落」「アクロスティック」など、他系統のカテゴリーをも含むからです。

 

ついでに、脚韻反復を用いた昔の童謡詞を二節掲げておきましょう。

 ♪みかん きんかん 酒のかん

  親のせっかん 子はきかん 

 ♪相撲取りはだかで 風邪ひかん

  田舎のねえちゃん 気がきかん

 

 

3-02 韻律美を重ねて演出する〈リフレイン〉

 

♥三行詩「女狐」♥

 

     女狐哀愁

 

雪や、こんこん、降り積もる

主は、来ん来ん、恨めしや

わたしゃ、コンコン、吠え嘆く(荻生作)

 

 

冬のうらぶれた宿で、情夫の訪れを待ち焦がれる売色女の心情を短詩で描いてみました。ここでいう主人公の「女狐」とは、商売女をさす近世言葉です。

 

この三行詩は各行「こんこん」という音律を中核に据えて繰り返し、詩情を増幅させました。さらに「こんこん」それぞれの意味が違う同音異義で、相違をはっきりさせるため表記替えも施してあります。

 

このように、詞章の一部(末尾が多い)を二度以上反復させリズム感を醸成するテクニックを〈リフレイン、refrain〉といっています。名詩といわれている作品の多くは、リフレインにオノマトペ(擬態音)を巧みに綾なし織り込んでいるのも特徴。日本語では〈畳語彩〉がこれに相当し、「折り返し」と訳す人もいます。

 

リフレインはまた、「詞章の流れを反復継続で彩る技法」といわれていて、リズム感に溢れた情緒が読者の心を大きく波打たせる作用があります。そのため詩や歌謡詞、短歌などで存分に使われているのです。

 

抒情歌詞の名手といわれた野口雨情の作品を一つ掲げてみましょう。

 ♪紅屋で娘の いうことにゃ   サノ いうことにゃ

  春のお月様 薄曇り 

  ト サイサイ 

  薄曇り (紅屋の娘)

 

 

3-03 音韻で織る言葉の綾取り〈頭尾反復〉

 

♥ケチで知られた知人への嫌味♥

 

あなたはケチだ 金持ちの貧乏人だ。

わたしはペケだ 貧乏人の金持ちだ。

やい、一度ぐらい口にしてみろ

 「おれがおごるよ」と。

 

 

詞章の冒頭と末尾に同じ語句もしくは対語を配置し、これを繰り返して意味を強めリズム感を創出する技法を〈頭尾反復〉といいます。

 

頭尾反復は、繰り返し言葉の定置化により独特の音彩を作り出すのが目的。語調を整える効果をもち、〈対句彩〉とは姉妹関係にあって、詩歌によく見られる文彩です。

 

例文では、いわゆる「おごり貧乏」なる男の言い草を〈頭尾反復〉を用いコミカルに描いてみました。

  

江戸時代の参勤交代を評したことわざの「上がり大名、下り乞食」、わらべ唄の一節「勝ってうれしい花一匁、負けてくやしい花一匁」、交通スローガンの「注意一秒、けが一生」などのよく知られた例があります。

 

 

3-04 詞章を大胆に装飾して変身〈音韻音彩〉

 

♥警告メッセージの掲示板♥

 

悪党諸君

密告屋(タレコミ)がいるぞ!

どこにいる?

そにも、あすこにも。

おまえの周り、東西南北に。

虎視眈々として

ヤバイことしてやしないかと

おまえを見張っているぞ!!

 

 

世の悪党ども、金銭欲に目がくらんだ蓄財亡者どもに対する宣戦布告の体裁をとりました。刑事事件通に言わせると、企業内、組織内での密告と犯罪検挙率は密接な相関関係にあり、最近では富の再分配不公平感が高まっているせいか、経済犯への内部告発が増えているそうです。

 

さて、詞章などを構成する語句のつづりに同一音または類似音を一定間隔で反復配置し、韻律上の効果を発揮する技法を〈音彩押韻〉といいます。音韻彩は詩歌中心の言語操作で、レトリックでは〈押韻法〉と称しています。

 

音彩押韻のスタイルにより詞の頭合わせを「頭韻=アリタレーション」(例では「おまえ」)、尻合わせを「脚韻=ライム」(例では「いるぞ」)と呼んでいます。これらは「どこにいる?」という掛詞と「そこにも」「あすこにも」「おまえの周り」という縁語で結ばれ、音韻の装飾効果をより高めているのです。

 

 

3-05 同音同語で綾なす詞華リピート〈冗語法〉

 

 

♥戯れの自己紹介♥

 

           あらまあ、恥ずかしい。

見られて恥ずかしい姥桜です。

お花見あとに咲く姥桜です。

散るのを忘れた姥桜です。

お色気少し残した、姥桜です。

           おやまあ、恥ずかしい。

 

 

ポエム形式の駄文に仕立ててみました。全節、繰り返し言葉を使ってあります。

 

一文中に同語を繰り返して用いる、つまり「AはA」「B、B、B」といった形をとる反復技法を〈冗語法〉あるいは〈同語重ね〉といっています。2語以上なら何語使おうと制限はありませんが、ほどほどに留めるのがコツです。

  

この文彩は、情報伝達の上で不要な表現を意図的に付け加えるわけですから、意味の重複が生じます。それに伴う文意の拡散を防ぐためにも、主題に対して文意をしっかり引き締めて膠着させることで、よりリピート効果が出ます。文章全体が音韻反復に伴いリズミカルに表現できるのもメリットです。

 

掲出の例では、「姥桜」を核に「恥ずかしい」を前後にダブらせた二重反復に仕上げてあります。いわば「姥桜」というアンコを「恥ずかしい」という皮でくるんだ花見まんじゅうのようなものです。

 

 

3-06 同類音声洒落をリズミカルに重ねる〈畳語彩〉

 

 

♥千鳥足の酔漢に寄せて♥

 

めろめろに好きな娘に振られてよ

ヤケのヤンパチ酒をあおって

ベロンベロンに酔いしれ

「世の中もう目茶苦茶だ

おれはハチャメチャだ」と

口から吐く愚痴しどろもどろ

挙句の果てに酒だ、酒、酒

やっとこさっとこ立ち上がり

あっちへよろよろ、こっちへよたり

行きつ戻りつ千鳥足、ああ千鳥足

 

 

同一同音の語句を文中へ集中的にちりばめ、フレーズそのものが音韻構成になるよう仕立てる技法を〈畳語彩〉といいます。「はらはら」「ぽかぽか」「いろいろ」といったように、語句の構成自体が繰り返し言葉の成語になっているのが特徴です。反復の文彩では単純な形態に属しますが、躍動感をかもし、押韻効果も生じさせます。

 

畳語彩は、詞章等で表現をリズミカルにしたい場合や、特定の言葉を印象づけたい場合に用います。

 

例文では、「ヤケのヤンパチ」「目茶苦茶」「ハチャメチャ」「しどろもどろ」「やっとこさっとこ」など、無駄言葉が羅列。これらは完全な反復ではありませんが、通音性が高いので、反復言葉の範疇に入れることにします。

 

 

3-07 同義の言葉を複数並べ立てる〈重言〉

 

 

♥重言づくしの便り♥

 

三文文士の物書きが

久くしばらくぶりに

女房家内を伴いつれて

飛行機でフライトし

故郷のふるさと帰郷しました。 

        頓首敬具草々

 

 

意味の上で似たもの同士の関係にある複数の言葉を繰り返し用い、重複した語義のふくらみで文章構造をわざと乱してしまう技法を〈重言〉あるいは〈類義反復〉といいます。いささか極端な例を掲げて見ました。本来、各行とも1語で単純に表現できる語句です。

 

重言は文法的に見て表記の誤用なのですが、言葉遊びの分野では、余計言葉を意図的に重ね用いておかしみを表す弄辞法として、平安時代から採用されてきました。

 

われわれが日常何気なく使っている言葉にも重言を拾い出せます。たとえば「昼日中⇔日中」「入梅に入る⇔梅雨に入る」「病みわずらう⇔病気になる」「バスに乗車する⇔バスに乗る」「不快感を感じる⇔不快に感じる」等々(これまた重言)

 

重言という用語も〈畳語〉と混用されがちです。畳語のほうは「しくしく」「さまざま」「はらはら」という音重ね言葉で、区分上は重言と別の文彩です。

 

 

3-08 同義語や似た言葉を並べ立て〈同義語列挙〉

 

 

♥酔漢の管巻き♥

 

馬鹿で悪けりゃ頓馬かい

阿呆で間抜けでオタンコナス

べらぼうめの、ドジっ太郎

うすのろ、ぼんくら

オッチョコチョイ!

 

ほう、怒りなすったか、あんたさん

最後までよ~く聞くべし。

以上、〆てオレのことだよ。

 

 

メッセージなどで同類の呼称や名詞を並べ立て筆勢を加える技法を〈列挙法〉または〈列叙法〉と称しています。文字通り、似たもの言葉をいくつも繰り出し、主張するところへと畳みかけていきます。列叙法自体は一種の〈重言〉でもあるわけで、そのため文章が軽薄になりがち。軽妙洒脱な戯文向きテクニックです。

 

掲出の例文を書き終わったところで、夏目漱石の『坊つちやん』にも同じような悪口の羅列を口にする情景があるのを思い出しました。江戸っ子教師の主人公が、赴任した田舎の中学で同僚のヤマアラシに宴席での演説原稿の評を求められる場面。引いてみましょう。

 「ハイカラ野郎丈では不足だよ」/「ぢや何と云ふんだ」「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の、(ねこ)被りの、香具師(やし)の、モモンガーの、(おか)()きの、わんわん鳴けば犬も同然な(やつ)とでも云ふがいい」

 

 

3-09 和語の律動が織りなす優美な〈音律彩〉

 

 

♥春はあけぼの、『枕草子』より♥

 

    わたし

 

       りいろ

 

    あなた

 

       かね

 

    あさや

 

       んぼり

 

     そらいろ  

 

 

例詩は、有名な清少納言(生没年未詳、平安中期の女房)が書いた平安文学の名随筆

『枕草子』のうちから、冒頭の言葉「春はあけぼの」を文句取りし、荻生が言葉遊

び折句に仕立てたものです。さらに、朝雲の棚引きを形象化した図形詩にもなって

います。

 

一定の音節数をもつ句章の組合わせや配置を操作することにより、文脈を規則的に整える技法を〈音律彩〉あるいは〈リズム〉といいます。感性訴求に強く結びつく単語を選び、その音韻を規則的に操作することで詞章全体の口調を高めるのが目的です。

 

日本語では、古くから五七調(七五調)を音律の基調に、詩歌などで音律を広く用いてきました。現代では感性を売りとした商品広告などにもてはやされ、覚えておいて損のない手法です。〈リフレイン〉などと併用すると、より音律効果が高まります。

 

明治の文豪、夏目漱石は音律彩仕掛けの名人でした。

  山路を登りながら、かう考へた。/智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角人の世は住みにくい。(『草枕』一)

 

 

3-10 NO続きのあとYESで締めくくる〈否定反復〉

 

 

♥九色虹の幻想詩♥

 

いろいろみても 赤でない

にてはいるけど 桃でない

みたいだけれど 橙でない

すかしながめて 黄でない

ちょっとちがう 緑でない

ごまかされるな 青でない

それみたことか 藍でない

とんでいるのは コムラサキ

とどのつまりは どどめいろ。

 

 

否定のフレーズが続いた後、最後の1行で肯定して締めくくる文彩を〈否定反復〉といいます。詞章などでときおり見かけます。

 

明治の文豪、夏目漱石の『虞美人草』に次の否定反復技法が見えます。

 女の二十四は男の三十に当たる。理も知らぬ、非も知らぬ、世の中が何故廻転して、何故落ち着くかは無論知らぬ。大いなる古今の舞台の極まりなく発展するうちに、自己は如何なる地位を占めて、如何なる役割を演じつゝあるかは固より知らぬ。只口丈は巧者である。

 

すなわちこの一文は、見事な否定反復の構成になっています。