5.「省略」のテクニック

 

 

文章の簡明化や歯切れをよくする目的で、省略の操作を用いる一連の技法を「省略」のテクニックといいます。

 

注意しなくてはならないのは濫用しすぎないこと。たとえば自動車や保険、ファッションの広告文で通常化している体言止めの濫用は、文章作法の王道から外れたものです。文章心理学の観点からも、読者に対して失礼にあたり、まことに見苦しいもの。表現効果もかえって半減します。

 

この省略のテクニックは4.「付加」のテクニックと対照関係にあります。

 

 

 5.「省略」のテクニック                   

 

  5-01 書き手が〈言葉節約〉して読み手が埋め合わせ     

 

  5-02 言葉の贅肉は〈言葉括り〉でスリムに         

 

  5-03 言葉を端折って余韻を生み出す〈黙辞〉        

 

  5-04 活用で軽量化、濫用で軽薄化の〈体言止め〉      

 

  5-05 観念的な文脈を程よく煮詰める〈接続詞省略〉     

 

  5-06 日本語特有の〈主語隠し〉で主語をさとらせる。    

 

  5-07 良薬口に苦く〈警句法〉に饒舌なし。         

 

 

5-01 書き手が省き読者が埋め合わせる〈言葉節約〉

 

 

♥「離婚記念日」提案の元夫へ、元妻より返信♥

 

×か×ら×か×わ×な×で×

 

おめでたくもない「離婚記念日」なんて、あなたは賛成できますか。焼け棒杭に火がつく、というなら話は別ですがねえ。元妻は提案を一蹴していますが、ぶっきらぼうに「からかわないで」と返したのでは相手も傷つくと配慮し、×の記号を1語ずつ間に挟み込みました。これでわずかながらも遊び心が察知され、元夫の心は和らぐことでしょう。

 

言葉を出来るだけ節約する手法を文彩では〈言葉節約〉レトリックでは〈省略法〉といっています。これは「省略」のテクニックのカテゴリーで基本となる技法です。文章の無駄を極力省き、メッセージを引き締めて、受け手に余韻の印象を与える効果があります。そのテクニックも主語を省く、助詞を省く、無駄な構文を省くなどいくつかパターンがありますが、例示では極度に切り詰めた文型としました。

 

言葉節約は格言を始めスローガンや広告キャッチなど、短文メッセージで多用されています。東西の有名文句から、範例を1つずつ掲げると、

  一筆啓上 火の用心 おせん泣かすな 馬肥やせ

は、戦国時に徳川家康軍の猛将本多作左衛門が陣中から妻に当てた書状で、日本一短い手紙の典型として知られています。

  人民の、人民による、人民のための政治

は、米大統領リンカーンが民主政治を標榜した名言として有名。各フレーズで「政治」が括り約され、末尾用言も省略した体言止めの形になっています。

 

 ▲かつての三行半(みくだりはん、離縁状)も典型的な省略文書

 

 

5-02 言葉の贅肉を〈言葉括り〉でスリムに

 

 

♥メル友募集中のメッセージ♥

 

YOUとジョークを交し合える仲に。

みなさんに愛されるメル友に。

交流の輪を広げるグループに。

そんな願いをこめての発信です。

ぜひ、友達になって。

 

 

このメッセージの上から3行は、それぞれ「…なりたい」という願いの文言が省略されています。省略部分の受け皿となるのは「そんな願いをこめて」というフレーズです。以上が最終行「ぜひ、友達に」へと帰着します。

 

同じ語句を何度も繰り返すことなく、括弧で括るような要領で目的とする語句に膠着させてしまう技法を文彩で〈言葉括り〉レトリックで〈兼用法〉といいます。いちいち煩雑な記述の繰り返しを避ける用法で、文脈からそれとなく(省略)わからせるテクニックが必要です。

 

 

この文彩は警句をはじめ歌謡詞や演劇の台詞回しなどに目立ちます。たとえば、こんな言葉遊びの使い方もできます。

  愚民の、愚民による、愚民のための政治 (荻生待也作)

とは、5-01でも例に挙げたA.リンカーンのゲティスバークにおける有名な演説の一節「人民の、人民による、人民のための政治」を受けての捩り。民主政治最大の欠点である大衆の付和雷同性を皮肉った文言ですが、三つの「愚民」が「政治」に収まる形で一括表現してあります。

 

 

 

5-03 言葉を端折って余韻を生み出す……〈黙辞〉

 

 

 

♥フィクションコピー「翔んでる女」♥

 

翔んでる女は迷うのよ。

エステサロン 年齢泥棒

ビューティパレス ミエ巴里

夜になったら ホストクラブ華世之介

♪ラッタッタ 今日は

 ど・こ・に・し・よ・う・か・な……

 

まずは拙稿『花酒爺の広告遊戯』からご披露します。

広告遊戯とは、文字通り、現実に広告主の付かない架空の創作広告文集です。

 

掲出作品は、ネーミング寄り合いによる三行広告的効果を意図したコピーだけで作ってみました。リッチな翔んでる女が浪費先に迷っている様子を「……」で示してあります。

 

ダッシュやリーダーなど約物によって省略あるいは余韻をほのめかし、途中無言のダイアログーやいい差しのまま文章を結ぶ技法を〈黙辞〉または〈黙説法〉といいます。

 

この文彩は、叙述状況をあえて中断させ黙守することで、フラッパー女史の多弁に匹敵する内容を語らせることが可能なのです。上例の黙辞に続く部分は読者の想像に任せてしまうこと、いうまでもありません。

 

 

5-04 活用で軽量化、濫用で軽薄化する〈体言止め〉

 

 

♥体言止め濫用への警告文♥

 

見よ、すさまじい濫用。悪ノリ用法。

他人がやるからうちもやるの猿真似。

自分本位の無礼。

殺されかけてる「です、ます言葉」。

敬意を言い切らない半端表現。

軽薄かぎりなし、文体の手足もぎ取り。

無味乾燥。

みっともない言葉の死に体。

体言止め濫用は、日本語の

命取りです。

 

文末を「です」や「である」という用言で結ばずに体言(名詞)で止めてしまう用法を〈体言止め〉といいます。このなかには名詞はもちろんのこと、「走り」とか「愛しさ」のような抽象名詞で止めたものも含まれます。

 

体言止めは文体を引き締め歯切れのよさが出ますが、それは控えめに用いてのこと。連発して効果が現れるものでなく、かえってメリハリがもぎ取られてしまうため、メッセージ全体が軽薄な印象を与える結果になります。さらに体言止めだらけの詞章は、メッセージから感性をも奪い去る恐れがあるので、化粧品や健康食品の広告での濫用は禁物です。

 

現今の自動車や保険、メンズファッションの広告コピーには、うんざりするほど体言止め悪ノリ用法が見つかります。自動車広告のごときはテレビCMにまで体言止めが目白押しで、耳にして不快、売ってやる主義のつっけんどんな感じがして宣伝逆効果になっている。メーカーが消費者の広告心理をよく理解しているのか、疑いたくなりますね。まさに「体言止め濫用は、日本語の命取り」になりかねません。

広告主さん、お気を付けください。

 

 ▲超節約言葉のコピーでつづったブッキラボウ不快広告の例

 

 

5-05 観念的な文脈を程よく煮詰める〈接続詞省略〉

 

 

♥傷心でつづる恨み節♥

 

氷雨のような、あなたの心。

鋭角に研いだ、あなたの言葉。

痛みを忘れた、あなたの表情。

セピア色に萎えた女心の理由など

気にもかけない男なのね、あなた。

手にした手鏡がいま、笑いを忘れた

女の顔を映し出しているわ。

すぐ割れてしまうのも気づかずに。

 

筆の赴くがまま書き連ねた、きわめて主観的な文章なのが見て取れます。接続詞を一切使わない文章です。体言止め多用なのも気になります。

 

 韻律的な弾みをつけるため、文章同士をつなぐ役目の接続詞を排除し互いの脈絡を断ってしまう技法を〈接続詞省略〉といいます。この文彩は個々の文章を畳み込んで引き締める効果がある反面、メッセージの構成を非論理的に孤立させる作用もあります。したがって、あまり論理性を問われない詞章や広告文など感性系の濃い表現に向いています。

 

逆に〈接続詞多用〉という用法もありますが、こちらは論文向き、文体が理屈っぽくなってしまいます。

 

 

5-06 日本語特有の〈主語隠し〉で主語をさとらせる。

 

 

♥若くして急逝した夫へ、妻よりメッセージをしたため霊前へ♥

 

涙はもう涸れ果てました。

あなたとの在りし日を偲びつ

今はただ、子宮も泣いてます。

            合掌

 

 

「子宮も泣いてます」とは、空閨の寂しさを訴えたもの。非日常的な表現ですが、こういうハートフルな官能的メッセージも夫婦なれば許されましょう。

 

この一文の各段落、主語の「私」が省かれています。献辞する相手が情を交わした亡夫、ここで主語をわざわざ述べる必要はありません。

 

文中の主語を省略し、読み手に文脈から主語を判断させる技法を文彩で〈主語隠し〉レトリックで〈主辞内顕法〉と称しています。すなわち読者は、書き手が仕掛けた未表示の領域に入り込むことで、文章の内面をうかがい知ることになります。

 

主語隠しは日本語ではきわめてポピュラーな表現手法。文体をすっきりさせ、と同時に情緒的かつ感性的なインパクトを強める効果があります。たとえば、

     述懐                 荻生作

   お富士に恋し、桜子に懸想す。

  たれかあらん、日本(やまと)男児(をのこ)ぞ。

という断章、正規の平文に直したら倍の50字は優に越える分量になります。主語はもちろん、修飾語等も思い切って省略した文体になっています。

 

 

5-07 良薬口に苦く〈警句法〉に饒舌なし

 

 

♥驕れる友へのアドバイス♥

 

ゲーテいわく

「高慢チキの胸に友情は芽生えない」と。

すっかり偉くなってしまい

貴様の鼻、最近天狗みたいだ。

苦労を分かち合おう、と手を握り

血を売ってしのいだ苦学時代を忘れたか。

 

人のあるべき生き方や警世の真理などを、極度に切り詰めた短文で発信する手法を〈警句法〉といいます。ときには上例のように、箴言やアフォリズムそのものをうまく引用して効果を高める場合もあります。

 

警句法はメッセージが引き締まり高踏的な緊張感を醸成します。しかしながら、えてして構えた物言いになりがちですから、押し付けがましさが現れるのも確かです。時と相手を見極めて用いましょう。

 

警句を警句法として引用する場合は、豊富に存在する材料からぴったり合ったものを選び出す必要があります。

 

警句法向き金言の例に次のようなものがあります。

  あしたに死し、夕べにいきるらい、ただ水の泡にぞにたりける。(慶滋安胤) 

  板垣死すとも自由は死なず。(垣退助)

  道徳は便宜の異名である。(芥川龍之介)

    人は万物の尺度なり。(プロタゴラス)

  朕は国家なり。(ルイ14)

  投票は弾丸より強し。(リンカー)

 

▲環境破壊!トチ狂いだした地球への警句