9.「摩擦」のテクニック

 

 

表現にあえて違和感を作り出すことで受け手の注目を喚起する技法を「摩擦」のテクニックといいます。いわば相手の心理に軋轢とか抵抗を感じさせ、目的とする効果へと繋げていく手法です。

 

摩擦のテクニックでは、送り手の意図は隠されたまま、表面に現れた不自然さがかえって受けての興味を引いたり、笑いを誘発したりします。文彩でも高等戦術に属し、小説家や劇作家かが好んで使います。

 

 

 9.「摩擦」のテクニック

 

  9-01 ショッキングなフレーズで活入れ〈文体破壊〉

 

  9-02 文彩では大げさな〈誇張法〉も技のうち

 

  9-03 文字や表記をいじくり回し七変化〈字装法〉

 

  9-04 嘘を承知で濃い笑いを誘発〈ホラ吹き〉

 

  9-05 肯定文⇔否定文の急変で目くらまし〈肯否転倒〉

 

  9-06 〈逆説〉で証明する世の中の不条理や矛盾

 

  9-07 斜に構えた〈アイロニー〉で皮肉るテクニック

 

  9-08 常識外れな奇論をこじつける〈詭弁法〉

 

  9-09 〈当てこすり〉で盛り上げる笑止の世界

 

  9-10 読者のイメージを破壊する場違い〈作為法〉

 

  9-11 〈不可思議語〉がもたらす誤解という名の罪

 

  9-12 物事に〈冷笑法〉を用いて下世話な共感を呼ぶ。

 

 

9-01 ショッキングフレーズで活入れ〈文体破壊〉

 

 

♥僕自身の広告文♥

 

イギリス人は、歩く前に考える。

ドイツの人は、歩きながら考える。

イタリア人は、歩き終わってから考える。

(はな)酒爺(さけじじい)は、雲古しながら考える。

いけるアイデアはないかいな、と。

どうりでこの広告遊戯集、うさん臭かろ。

 

拙稿(未刊)『花酒爺の広告遊戯』前書きの一部を転載しました。

 

切り口には世界的に知られた金言を据えてあります。思慮深いイギリス人、合理的なドイツ人、行動的なイタリア人といったそれぞれの民族特性を言い表した喩えです。これを受けて花酒爺(荻生の戯号)はというと、トイレで知的生産物を生み出す、というオチ。「雲古しながら」という突拍子のない表現に到り、それまで謹厳に歩んできた文体が急遽、破調をきたします。そして「…胡散臭かろ」で止めのオチ打ち。

 

格式を保ってきた文体の中途で、意図的に用いた卑属語等により構文や表現秩序を破断、破壊してしまう技法を〈文体破壊〉と呼んでいます。これには文法上の慣用になっているルールや句読の叙位、あるいは表記の序列といった形式の破壊なども含まれます。

 

この技法、読者の想念に混乱をもたらす目くらましテクニックだけに、使い方が難しい反面、強烈なインパクトを与えることができます。

 

 その名も「ザ・デストロイヤー」

 

 

9-02 文彩では大げさ表現〈誇張法〉も芸のうち

 

 

♥広告遊戯「ドラキュラ記念」♥

 

ターフに舞う絶叫!

生き血も凍る興奮!!

万馬券必至の大波乱国際レース創設

   ──JRドラキュラ記念(GⅠ)

     和名 吸血卿記念

     東京夢中競馬場/1800

     1着賞金 21600万円

ターフにバナナの皮280トンを敷き詰めて。

落馬のスリル、骨折出血の叫喚、また興奮。

番狂わせの高配当が予想されます!(後略)

 

伝えたい内容を大げさに表現し、受け手の印象をより深めさせる技法を〈誇張法〉といいます。誇張法は、真実や事実を逸脱した表現世界へと踏み込むわけですから、常に虚構と隣り合わせの危険を担っています。すなわち、メッセージが極端もしくは嘘であることを相手に理解してもらうことが要件で、このフィクション性の前提がないと成り立ちません。

 

事実に反するという指向性自体も、課題誇張とは限らず、逆に過小の誇張も含まれます。さらに比較、反復、多重など、他の技法と併用して使われる点も少なくありません。

 

誇張法は上例に限らず、広告のテクニックとして昔から定番でした。応時の面白広告は、たいていがこの文彩を弄しています。現代広告でも、表現の基本ルールを守り、言葉の綾を巧みに使いこなせば、誇張はあながち邪道とはいえないのです。

 

背景ビル群が不自然に巨大に誇張化され描かれている目くらまし絵画

 

 

9-03 文字や表記をいじくり回し七変化〈字装法〉

 

 

♥嫌いな教授へ、ノートいたずら書き♥

 

センセー、書くの超ウザくて

ソツロンは、めっちゃ

コピペしちまいました。

やっぱ、ザンゲします。

 

いくら出来が悪いと思っても、相手は大学教授です。学生の立場ではこんなふざけたメッセージは見せられません。このゴミ箱行きの若者言葉を正しい文章に直してみると、「○○教授へ、卒業論文は書くのが面倒になり、大半が他人からの剽窃です。慎んで告白させていただきます」となります。両文を読み比べると、卑俗化した文体との差異がよくわかります。

 

このように、本来あるべき文章を大幅に変えてしまう操作を〈字装法〉あるいは〈表記変え〉といいます。漢字・平仮名混交である和文がもつ認識通念を意識的に打ち砕き、意味は通るが異表記により摩擦を生じさせるといううがった技です。

 

例のように先生をセンセーと軽薄にカタカナ書きにしたり、学生用語を濫用してアクの強さを噴出させます。ときには記号や振り仮名などをも弄し、斬新性を表現することもあります。

 

字装法の狙いはあくまでも諧謔もしくは揶揄にあり、それ以上でも以下でもありません。

 

 

9-04 嘘を承知で濃い笑いを誘発〈ホラ吹き〉

 

 

♥鉄道ファンの車中会話♥

 

「東北新幹線はやては速い

時速300キロのスピードだ」

「フン、僕のほうが速いさ」

「えッ、まさか……」

300キロで走る車内で

進行方向へ駆ければ315キロだ」

 

 

この他愛のない数字のマジック話を耳にした相手は、してやられたと脱帽です。

 

自説をより強固に主張したいような場合、語義や常識などを無視して極端な言い方をすることが少なくありません。〈ホラ吹き〉もそうした摩擦の文彩技の一つで、いわゆる嘘の話をでっち上げるのが一般的です。

 

ホラ吹きといっても、話の流れに2方向があります。一つは、話の土壇場でホラだと種明かしをするもの。上例がそれにあたります。もう一つは、初めからホラや冗談だと相手にわからせ、それを軸に話を進めていく方法。この例も挙げておきましょう。

 

昭和期戦前戦後に文壇で活躍した無頼派作家の一人、太宰治の作品『人間失格』うち「第二の手記」より。

 「女から来たラヴ・レターで、風呂をわかしてはひつた男があるさうですよ」「あら、いやだ。あなたでせう?」

 

 

9-05 肯定文⇔否定文の急変で目くらまし〈肯否転倒〉

 

 

♥われらがブーブログ投稿文♥

 

サツマイモは嫌い。おならで恥をかくから。

お見合いは嫌い。にらめっこばかりだから。

お坊さんは嫌い。高いお布施をねだるから

パンダは嫌い。人より大事にされるから。

神様は嫌い。ご利益少しもくれないから。

 

貧乏神は大好き。分け隔てしないから。

 

肯定文が続いた後否定文で、あるいは否定文が続いた後肯定文で締めくくる文彩技法を〈肯否転倒〉あるいは〈転移法〉と呼んでいます。語調の急変に伴う文脈の断裂が、違和感のインパクトを呼び起こし、エンディングの効果を高めるます。

 

例文を読んでいただくことで十分と思えるので、蛇足説明は控えましょう。

 

軍人は嫌い 勲章を見せびらかすから

 

9-06 〈逆説〉で証明する世の中の不条理や矛盾

 

 

♥テロリストをVIP扱いする日本、檄文 ♥

 

  テロリスト万歳! ご苦労様、金賢姫女史。

  コソ泥よ見習え、我らが大量殺人の英雄を!

  我等が女王様、金姉御は昨夜厳重警護のもと

  特別チャーター機で日本へお越し遊ばされた。

  無差別大量殺人犯もVIPで歓迎してくれる

  超オメデタイこの国へ。

同志諸君、国際法なんてちょろいものです。

日本人なんて民主バカに成り下がっている。

さあ、我等いっそう団結を固め

次なるチャンスを狙おうではないか。

2010721

   金賢姫元死刑囚支持教団 檄文

 

 金賢姫をめぐるメディア報道は虚実混沌

 

記入日付当日、筆生テレビや新聞記事を見ていて、日本国はいつの間にこんなだらしのない国に成り下がったかと情けなくなりました。ニュースを記憶の人も少なくないと思います。腹立ち紛れに、自分が金賢姫を支持するテロリストだったらこんなふうに書く、という想定の基に作った架空の檄文です。

 

大方の常識的な予想に反し一読して真理に反するような印象を読み手に与え、その実は真実を述べているのだと主張する論理命題を〈逆説〉と称しています。レトリックでは〈逆説法〉のほかに〈パラドックス〉〈反義結合法〉という呼称を用いています。逆説の短句でよく知られたものに、「急がば回れ」「負けるが勝ち」「石が流れて木の葉が沈む」といったものがあります。

 

逆説はメッセージの爆弾のようなもので、倫理観から見て邪道のような印象を与えることも少なくありません。それだけに構想を丹念に練り、逆説であることをいち早く読者に悟らせるテクニックが必要です。

 

 

9-07 斜に構えた〈アイロニー〉で皮肉るテクニック

 

 

♥ほくそ笑みつ遺言之事♥

 

年金猫ババを現世(あっち)に残してきた、だと?

なるほど、そんな手があったか!

早速ながら遺言之事  花酒爺

 

この爺が死んでも、ゆめ、

死亡届は出すことなかれ。

わずかな年金だが、塵も積もれば山となるぞ。

なに、日本国の行政や法律は

限りなく抜けてチョロイからバレやせんよ。

お前らに何も残してやれないわしの

せめてもの心遣いと知れ。

 

 

2010年、年金受給者の死亡届を出さず、家族が長期にわたりちゃっかり横領した事件が次々発覚しました。上掲の例文、あえて解説しなくてもどこがアイロニーなのか、わかるはずです。

 

現実の姿を正視せずに斜に構えた視野で捉え、さらに皮肉をもって当てこする技法を〈アイロニー〉レトリックで〈皮相法〉といいます。これには一般化している「皮肉」のニュアンスも含まれます。

 

アイロニーでは、他のさまざまな文彩技法が複雑にかかわりあって構成されます。ときには真意とは裏腹の表現を用い、槍玉に挙げた対象の弱点や急所を突くことで効果を挙げます。警世家や批評家等が好んで使う手です。

 

 

9-08 常識外れな奇論をこじつける〈詭弁法〉

 

 

♥ブログ1年生のブログ礼賛♥

 

不平不満だらけのへそ曲がりも

勝手なことを書いて溜飲を下げられる。

ブログって、いいなあ。

「エログロ」とか「美女性器写真」

とか下ネタをキーワードにすると

とたんにクリック数が跳ね上がる。

ブログって、面白いなあ。

はまっちゃう、はまっちゃう。

 

この一文、ブログという新しいメディア世界に接した老書生が、目先のメリットにこじつけて悪乗り。結辞「はまっちゃう」は複義言葉で、のめり込む、セックスするという二つの意味を持っています。つまり、表向きはブログを礼賛した形ですが、実は取るに足らないようなもの、と小馬鹿にした態度で書いているのです。

 

常識外れな意見、論理の筋が通らない主張などをあたかも正論であるかのように装う技法を〈詭弁法〉と称しています。まやかし、ハッタリ、屁理屈などを前面に押し出すことで遊戯的性格が強まります。ゆえにこの文彩は、読者を楽しませるためのテクニックだといえます。

 

 

一例をあげるならば、

 次は本題の主眼たる人体中部の改造であるが、我輩の考へでは、腹部の中央(まんなか)(あん) (ぜん)として構へて居る(へそ)なんか第一に立退を命じて、其代りに()のカンガールの如く、大きな袋を附けて貰ひたい、(これ)をハイカラーに云へば斬新奇抜な肉ポケットを拵へて貰ひたいのだ 

(宮武外骨『面白半分』うち「人体の改造すべき点」)

では、SF的でまやかしの人体改造論をぶち上げ、読者を煙に巻いています。

 

9-09 〈当てこすり〉で盛り上げる笑止の世界

 

 

♥随想「藪医者考」♥

 

不肖、かつて人間ドックの検査にひっかかり、酒をやめないと命がもたない、と酒禍の宣告を受けた。ところが帰宅した晩から彼医者のおどしをせせら笑い、「藪の鶯啼きだ」とおちょくり、再び浴びるように飲み始めた。

 

結果、いまだにどっこい生きている。20数年も、である。以来内科で医者のお世話になったことはない。

 

これ、酒のメリットのほうがデメリットを制圧した結果だと思う。考えるにあの時、酒が命を縮めるとのたまわった医者は、人間観察よりも数字やデータのほうを信じてしまった。それに加えて、生下戸だったに違いない。

 

 

拙書『酒大学林』から一部を引いてみました。医者の言うことよりも酒との心中を選んだ男の独眼流解釈です。終りの1行で皮肉の止めを刺してあります。

 

意図する相手(人とは限らない)をあざ笑うため、わざわざ遠回しな表現を用いて効果を高める技法を文彩で〈当てこすり〉レトリックで〈論術法〉といいます。嫌味な物言いを滑稽に摩り替えた高等テクニックですね。

 

 

9-10 読者のイメージを破壊する場違い〈作為法〉

 

 

♥タイムスリップ風物詩断章♥

米俵積んだ馬力。汚穢桶揺らす牛車。

乾ききった馬糞、牛糞が舞い上がる。

道端の物乞い親子、寒空に布子1だ。

厚化粧の女給が往く。金歯が光る。

交番で道を尋ねる田舎の老夫婦。

突っけんどんに追い返すお巡り。

 

大正と御代が変わったというのに

殺風景な町だ、この新宿は。

 

読み進めて終わりから2行目「大正と御代が変わった…」の文言は、平成や昭和の間違いではありません。違和感を感じるでしょうが、100年前の新宿、史実に基づいた情景点描なのです。

 

 

当時の甲州街道・青梅街道沿いのこの町は、まだ宿場町の面影が色濃く残る未開発地でした。現今の繁華を誇る新宿のイメージとは極端に異なります。この一文のタイムスリップの落差により読者は場違いな世界へと引きずり込まれたはずです。

 

現実の姿と作者が描く世界との間にギャップを設け、そこに生じた摩擦のため読者が違和感を抱くよう仕立てる技法を〈作為法〉といいます。

 

事例はその一端を示したもので、パターンは無限の数があります。たとえば上例とは逆に、外面は俗だが、内面は優雅。そんな描写があってもよろしい。ただし引例での情景描写は作為というわけではなく、実態に近い新宿辺の姿を映したものです。

 

作為法では、主題の表裏につかず離れずの関係を保ち、一見して場違いなユーモラスのうちに真実を悟らせる。文彩でユニークな技法です。

 

 

9-11 〈不可思議語〉がもたらす誤解という名の罪

 

 

♥新橋大学オチケンの新作より♥

 

「とうとうウィルスにやられた」と、熊さんから連絡が入りましてね。あんな岩鬼のような人でも人並みに病気になるんだ、と笑いながらも、カミサン連れて見舞いに行きましたよ。

 

するてえと、ご本人のITさんはピンピンしてる。二人で首をかしげていると、「八さんよ、何あわてているんだい。ウィルスにやられたのはパソコンのほうだよ」だって。

 

こちとら、えらくコンピュレックス感じたなあ。

 

こんな与太文を書いた本人も、つい最近まで「コンピュータのようなメカも細菌に冒されることがあるんだ」と信じていました。笑い話では済まされません。地方では、医者に「先生、コンピュータウィルスって人にも感染するんですか」と聞く患者がいるそうです。

 

意味が曖昧な新語を俗に〈不可思議語〉といっています。多くはマスコミ関係者が面白半分に作り上げたもの。それらがいつの間にか一人歩きして、世間に取り違えによる誤解の種を撒き散らしているのです。

 

たとえば「オタク」なんていう言葉、定義も付けられないまま紙面を賑わせています。「識者」とか「人間国宝」などという逆差別用語も大手を振って通用しています。こういう取り違えられやすい言葉を安易に使う人物、軽薄な印象がしてなりませんね。

 

 

9-12 物事に〈冷笑〉を浴びせ下世話な共感を呼ぶ

 

 

♥広告遊戯「人類ご破算」♥

 

滅びるも運命、聴く耳持たない

なんていっているうちが花。

……やがて地球は

   海だけになった。

   神は、この惑星を新たに

   「海球」と命名した。

            ──大晦日用新交響曲「人類ご破算」

                  新悲愴シンフォニー楽団

 

文章やメッセージ中で陰にこもった嘲笑や皮肉を浴びせる技法を〈冷笑法〉といいます。フレーズは手短に、さらりと表すことで効果が高まります。例文では「…なんていっているうちが花」がそれに相当します。

 

島田一男『死神の地図』うち「妖星西へ行く」という小説の一説を借りて掲げます。文末の表現に注意してください。

 「そうかい。どうせ人間死ぬんだが、あまりお上に手数をかけねエように、病気

 で死んでもらいたいね。ところで、死神がおいでおいでをしてるなあ、何者だ

 い?」