──笑殺仕掛師へのガイド

 

       花酒爺こと荻生待也 著

 

 

腹たたば拳はひっこめニタリ笑み

すっとん狂か喧嘩をば売れ

──新狂歌はストレス解消の特効薬(本文より)

 

 

花酒爺が提唱する「新狂歌」とは──

  

古典狂歌に見られる込み入った背景事情や学識などを取り除き

だれもが狂詠の面白味をすぐ理解できるよう 

わかりやすい言葉で表現した現代の狂歌をいう。

 

 

 

はじめに

 

春たちける日よめる                                                           貞徳

さほ姫のすそ吹返しやはらかな けしきをそゝと見する春風

(&『万載狂歌集』巻一・春上)

 

 「春を立たせる女神佐保姫が裾をひらひらさせるものだから、秘女(ひめ)柔毛(にこげ)あたりがのぞき見えるよ、匂いくるよ、春風に乗って

 のっけから嫋婉(いろつぽい)で恐縮です。

でも、この松永貞徳(15711653)詠の一首、それなりに秀歌だとは思いませんか。

まず、多くの人にもわかる歌意のやさしさ。加えて、

文字でくすぐる枕絵を見たような感興。

主題にそって綾なし織りなす文彩の妙。

アカデミズムとエロチシズムとの交響。…

そう、現代人にも通じる古典狂歌作者の感情移入、春情への思い入れなんです。狂歌鑑賞の面白さ、創作する愉しさを凝縮したような一首だと思います。

天下の狂歌師四方(よもの)(あか)()が編んだ『万載狂歌集』において、この唄をえた気持ちがよくわかります。

このような素晴らしい狂歌があなたにも作れるなら興奮してしまいますよね。はい、モバイルででもPCででも作れるのです。

そのためには、まず本コンテンツをよく読んでいただかなくてはなりません。

ここで引例の世界を飛び越え、現実の世界へと眼を向けてみましょう。

 

21世紀に入り、日本の山河は心なしか荒廃へと向かい、不安定な世情のもと私たち国民も疲弊ぎみです。社会では不心得者によるスキャンダルや犯罪が後を絶たず、人心をトゲトゲしいものにしています。内外のテロ事件をはじめ、大地震の続発だ、やれ台風だ津波だと、世界規模での天災も多発し生活を脅かしています。

どうやらスキャンダラスで不安な、新世紀に突入したようです。

このおどろおどろしい世にあって、狂歌を詠むのは、おあつらえ向きのパーフォーマンスなんです。

 

まず狂歌は、三十一(みそひと)文字の中に世相や人事の動きを凝縮し投影することができます。喜怒哀楽の情感うたいあげることで、笑いとペーソスを演出しますくだけた言葉での時評もエスプリを感じさせましょう。ときにはチラリとお色気をのぞかせて、人びとの興味を引きつけることも可能なんです

こうした狂歌の持ち味を生かして、社会の不条理や醜悪なな側面をえぐり、告発し、批判し、皮肉り、(じや)れつき、当てこすり、おちょくりつつ、世に笑いの一石を投じたい。そのうえで、読者と共にいくばくかなりと世の中の立ち直りを願い、少しは希望のてる21世紀を志向したい。……こんなところが、本稿を書き上げた動機です。

 

しかし現実に、狂歌は私たちのまわりからすっかり影をひそめています。新聞・雑誌の投稿欄に狂壇は皆無ですし、結社の存在や狂詠会が催されたというニュースも聞きません。狂歌衰退の主因は、本文で述べるように、内在する難解さにあるのです。

その難解さとは、次の二点に帰するもの。

   狂詠の背景となる故事知識や時代的事情 

   文彩(修辞)や言語遊戯を複雑に弄した技巧的表現

ことに①については、狂歌を衰退させてしまった決定的な理由とみてよろしい。過去、古典や史実、ときには漢籍など幅広い文学的教養がないと、狂歌を作ることができないし、また鑑賞することもかないませんでした。というのも、狂歌自体の内に、排他的要因を含んでいたからです。

 古典離れが急速に進んでいる現代において、こんな回りくどくてシチ面倒な狂歌は敬遠され、存立し得ないわけです。道理にかなった結果、といわざるをえません。

 

 そこで花酒爺は、とくに文学的素養がなくても誰もが作り鑑賞できる狂歌の実現をめざし自作品の創作など準備を進めてきました。

 時代に照応した「新狂歌」の芽生えです。

 これはどのような狂歌をさすのか、扉に定義を掲げておきました。いわば古典狂歌に見られた衒学的(しつたかぶり)教養の邪魔を排除し、すっきりと作ることに眼目をおいた狂歌。これなら一般の人たちにも作ったり、読んで(たの)しんだりできます

 現代に狂歌を復活させるには、この簡易平明な詠法しかありません。主題を必要以上にいじくり回すことなく、素直に詠むことが、万人に理解され愛される狂歌の出発点となりましょう。

 

 今日、百万人の大衆短文芸といわれる川柳が大流行です。川柳のほうは、一にも二にも、だれもが容易に作れるのが魅力。狂歌の寂れようとは対照的ですね。しかし、狂歌は伝統の点でなら、川柳に負けないくらい歴史が古い。過去には川柳を凌ぐ栄光の一時期もあったのです。それだけに新狂歌に今様の新風を吹き込み、復活をめざしたものです。

 だれもが内に秘めている「(たわむ)れ心」を代弁してくれる狂歌こそ、(ことば)でつづるコミックといえます現代に一人でも多くの新狂歌愛好者が増えれば、と願ってやみません

 本コンテンツがそのきっかけづくりになれば、自称「平成の狂歌師」としてこの上なく幸いです。                花酒爺こと荻生待也

 

作品のフォント等区分について

本編ならびに作品集において、

黒字の筆記体……古典狂歌集等からの引用作品であることを示します。

紺色の筆記体……荻生待也の作品であることを示します。

本編における見出しの狂詠も、タイトル内容に沿った荻生の作品です。

画像の説明…………ブラウンカラーで示します。

 

このコンテンツは縦書き上梓のものをウエブ向けに横書きに組み替えてあります。そのため内容の一部にレイアウト崩れや文字化けが生じました。ご了承ください。

 

目次の数字は本書ブラウザー上のものなので無視してください。

 

目 次

 

はじめに 

 

本 編

 ステップ1 古典狂歌をふりかえる 11

 

狂歌とは何か。その原点をたずねて 12 

 

狂歌の起源は万葉「戯笑歌」 13

 

狂歌誕生の母体は誹諧歌 14

 

「狂歌」の呼称誕生する 15

 

狂歌中興の祖について 16

 

貧乏公卿の慰み狂歌 16

 

狂歌に技巧を教えた栗本連歌 17

 

圧巻、一休のいたずら道歌 18

 

狂歌を流行らせた先駆者たち 19

 

上方狂壇を席捲した貞門 20

 

貞柳一門と浪花狂壇の盛衰 22

 

在野の風来詠に徹した孤狼たち 23

 

天明狂歌の胎動「狂歌会」 24

 

橘洲・赤良御両所の反目 25

 

橘洲の酔心爛漫たる狂歌 26

 

赤良の作品はお手本揃い 27

 

群雄割拠の江戸狂壇 28

 

こんな異色の狂歌師も 29

 

江戸狂歌と狂歌師の後退 31

 

近代狂歌作品に見る余喘 32

 

近代・現代の滑稽短歌 33

 

現代は狂歌不毛か 35

 

 ステップ2 狂詠の体あれこれ 38

 

殿御をしのぐもあり女流狂歌師 39

 

古歌から一部拝借「本歌取り」 40

 

四方山景色を茶化す「名所詠み」 42

 

五七の韻律美でつづる長歌 43

 

オチョクリで笑わせる「からかい歌」 44

 

からかい歌の裏返し「自嘲歌」 45

 

相手の出鼻をくじく茶化し詠 46

 

廓言葉を茶化した狂歌 47

 

へつらいのおかしみ「おもねり歌」 48

 

詠み捨て笑い捨ての妙「法螺歌」 48

 

遠回しにうたう婉曲表現 50

 

遣り取りの摩擦を愉しむ「滑稽問答歌」 51

 

酒と飲ン兵衛は狂詠にぴったり 51

 

色詠みもまた極意のうち 51

 

狂歌で残した辞世もある 53

 

庶民のうっぷん晴らし「落首」 53

 

無名狂歌師が詠んだ有名歌 55

 

道歌にも狂歌に近い作がある 56

 

 ステップ3 新狂歌へのいざない 57 

 

新狂歌は現代人向き狂歌である 58

 

狂歌作者は文学者ではない 58

 

狂歌衰退は衒学走りが主因 60

 

素直詠み古典狂歌の作例 62

 

狂歌は、はたして滅び去ったか 63

 

狂歌の潜在愛好者は少なくない 64

 

みんなが作れるやさしい「新狂歌」 64

 

新狂歌はストレス解消の特効薬 65

 

狂歌師は長寿者が多かった 66

 

狂歌は言葉遊びの玉手箱 67

 

川柳の「穿ち」VS狂歌の「茶化し」 68

 

「茶化し」は笑いの導火線 69

 

狂詠は知恵が元手で金要らず 70

 

新狂歌は永遠なり 71

 

 ステップ4 新狂歌作法 73

 

新狂歌作り十二条 ①韻律は崩さない 74

 

     〃     ②既存の慣行にこだわらない 75

 

〃     ③わかりやすく詠む 76

 

     〃     ④はじめは質より量で詠む 78

 

     〃     ⑤照れずに作ろう 78

 

     〃     ⑥狂歌の分をわきまえる 80

 

     〃     ⑦おもしろい内容にする 80

 

     〃     ⑧持ち語彙は豊富に 82

 

     〃     ⑨洋語・漢語は程ほどに 83

 

     〃     ⑩世情を評し斬り捨てる 84

 

     〃     ⑪仕上げは入念に 85

 

     〃     ⑫文彩技を磨こう 86

 

補遺に──新狂歌作法上の寸感(八題) 87

 

ステップ5 狂詠テクニック 90

 

折句 91

 

折込 92

 

借辞狂歌 92

 

人名狂歌93

 

人名寄 93

 

物名狂歌 94

 

掛詞 95

 

縁語付 96 

 

地口落狂歌 97

 

駄洒落狂歌 98

 

茶化酒狂歌 99

 

擬音洒落 100

 

捩り狂歌 101

 

百人一首捩り 101

 

澄むと濁る 102

 

一字違いで大違い 103

 

鸚鵡返し 103

 

吃音歌 104

 

見立 104

 

擬人化 105

 

偽物化 105

 

取り合わせ 105

 

定義付 106

 

物尽くし 106

 

ものは付 106

 

早口詰め歌 108

 

畳語狂歌 108

 

りん付 108

 

回文狂歌 108

 

坼字歌 109

 

数取り頓知短歌 110

 

類題狂歌 110

 

 

 

狂歌資料集

 

1狂歌の呼称112   

 

2狂歌とは112  

 

3狂歌作者113  

 

4狂歌と逸話118  

 

5誹諧歌120  

 

6頓智詠121  

 

7題詠122  

 

8狂詠法123  

 

9狂詠の禁忌192  

 

10狂詠の贈答歌125 

 

11狂歌の会126 

 

12狂歌の風義128  

 

13四方赤良狂歌文集『奴師労之』より抄出128  

 

14狂歌関係書誌130  

 

15狂歌関係書誌(荻生編)130

 

 

 

荻生待也 平成狂歌作品集

 

山手線一周福は内回り 133

 

戯れ詠み仕合 137

 

下句付/バレ句付 140

 

酔太郎冠者花酒爺 酔詠十首 145

 

春情詠 147

 

エロもじり百人一首 149

 

7 酔太郎冠者酔句集 175

 

8花酒爺の平成記念日漫遊狂歌 182275