山手線一周福は内回り 

 

──御口上 御無礼の段、あくまでも下町老僕(やつがれ)の戯れ歌、

 

御当地皆々様に伏して蒙御免(山手線は往昔、ヤマテセンとも申し候)

 

 

さん(とう)(きよう)殿(でん)

東京の表玄関ほこりみち人ゴミ様をさばく旅立ち

 

 

朱楽神田(あつけらかんだ)

 土地高で江戸っ子逃げたこの街はおらが国さの神田だんべえ

 

秋葉原電狗(あきばがはらでんく)

 春電電夏も電でん秋葉原上下左右に地下もデンデン

 

御多福(おたふく)御菓子(おかし)

 御徒町テクシーで発て素ッ貧よ上野浅草逃げやせんぞよ

 

花上(はなのうえ)野郎女(のいらつめ)

 酔ッといで喧嘩(ゴロ)まきゲロも引き受けた花は上野よお江戸の山よ

 

法華経谷鶯(ほけきようやうぐいす)

 渡りたる昔なくネオンが原に牝狐がコン

 

日暮里恋士(ひぐれてさとこいし)

 恋て()なかぜ吹かすヒュードロその日暮しに怖いものなし

 

西陽暮里助(にしびのほりすけ)

 陽は西にぽりッと沈むその東ぽっかり浮かぶみかわしま月

 

田畑(たはたの)成金(なりきん)

 汽車ポッポ田畑(たはた)つぶして一世紀(ひやくねん)ぞレールに咲けるJR花

 

駒混JRA(こまごみのらくば)

お遊びはお駒込みですお客さん山手ッ尻で否応(いな)()く安さ

 

四方鴨良(よものかもら)

 信心は福招くかや巣鴨詣でジッチャンバッチャンみな地蔵顔

 

大塚裏住(おおつかのうらずみ)

大塚は山手駅の殿様よ下に下にと都電はべらす

 

池袋袋小路(いけぶくろのふくろこうじ)

 客さばきさすがとしまの池袋武張りの街にさけやアダ花

 

黒目(くろめの)白黒(しろくろ)

 おすかしの山手族が目白押し素通りッ屁でごめんあそばせ

 

高島田婆阿(たかしまだのばばあ)

 土地ンぼや馬場はつぶせども天馬(くだ)りて非貧とぞ()

 

珍大凹道教(おおぼぼにどうきよう)

 ホームにものっぺらビルの影さして新大久保の彦左とまどう

 

宿仏太九郎(じゆくのぶつたくろう)

 新宿じゃ西も東も上の空下町仙人孤独(ひとり)きょろりん

 

代々々鬼太郎(よよよのきたろう)

 神宮に代々譲り鳩も居ず(かむ)さびしがる街にビル群れ

 

(はらみの) (はら)(じゆく)

 あの昔汽笛いっせい原宿を御召列車はやよ離れたり

 

渋谷(しぶやの)不夜城(ふやじよう)

 ぢぢばばを今浦島のけむに巻きおとつい来いは渋谷(つら)

 

海老(えびの)寿(じゆ)太夫(たゆう)

 伝えきく恵比寿顔して四方赤らビイルがはらの往時(とき)もありしと

 

目黒川三馬(めぐろがわのさんま)

 白け世にお目黒くしてつつがなく御不動さんま利益(りやく)あれかし

 

五反圃田吾作(ごたんぼのたごさく)

 飲み食いが五反()()にひしめきてひもじき昔おらあ知ンねえ

 

大咲撫子(おおさきなでしこ)

 来し方は山手田舎にハイテクのおお咲きそめしビルの仇花

 

川上(かわかみ)()(こう)

 浜消えて沖に白帆は湯屋まかせ手品かわれり(おか)の天下で

 

多待美女濡(たまちのびじよぬれ)

 港区と伊達(だて)()張りゃした街並みはネオンの海ぞ江戸前の墓

 

大江戸(おおえど)モノレール

 はままっちゃん出ベソの宙返りイヤナ駅名ダジャレもならず

 

新橋姐幇間(しんばしあねたいこ)

真ッ天楼()(てき)一発新橋を離れて高し汐留の空

 

遊楽亭(ゆうらくてい)丁半(ちようはん)

 宝くじ福の神様微笑みしアズ・ユー・ラック長者夢見て

 

 

 *以上、花酒爺が昼酒ほろ酔い機嫌で山手線内回りを二周しメモ詠みしたものを後日に整理した。

 

 

()れ詠み仕合 十組

 

亭主、女房に

 

ン十年起き()がり小法師(こぼし)で鍛えたる押しかけ女房の(けつ)のでかさよ

 

女房、返して

 

よくもまあ(やわ)亭主殿言わしゃるわ三日目にしてお(いど)向けたに

 

 

 

ひょっとこ、おかめに

 

おい、おかめ ひょっとこ様が情かけた祭りの晩の泣き忘れたか

 

おかめ、返して

 

おきァがれ女(たら)しのすっとこめ ころがしといて尻でテレツク

 

*祭り=情事の婉曲表現でもある。

 

 

トウちゃん、カアちゃんに

 

ラクしたい家カー付いてババ子抜き五欲ばかりで一礼もなし

 

     カアちゃん、返して

 

図々(ずうず)しい不精で臭く声でかいメタボぴりこれさ宿六

 

 

 

福はァ外

 

貧乏(びんぼ)(がみ)くじ運にまで取り憑いて回収(みいり)一割やっとこさだぜ

 

返し

 

それみたか残る九割胴元と福の氏子が手に渡したり

 

 

 

 若造に

 

やっぱりな国語のテストこけたのう就職話もおじゃんじゃねえか

 

 返し

 

ざけんなよォ横文字弱いおっちゃんよチンポジゥムって何のことじゃん

 

 

 

 述懐

 

モテモテもコピーライター芸者だぜ広告主(だんな)の寝言で上下(うえした)に向く

 

  返し

 

ご愁傷落ちこぼれたるライターは芸者も抱けず恥をかけ書け

 

 

 

 都都逸 対 狂歌

 

四六時中(つや)(ごと)ぜめで飽きぬかの裾を分けろやいかが都々逸

 

 返し

 

都々逸は五つ若いよ狂歌さん色香じゃ五年()けているけど

 

 

 

 冷や水

 

脛かじりされた返しに年金を食い潰そうぞどうじゃ若いの

 

 返し

 

ご老体固くて食えぬその脛もやがては舎利か粗大ごみの身

 

 

 

 藪問答

 

八十年粗食通せしこのからだ糖尿通風なるはずがなし

 

 返し

 

御大よご存知なきやくたびれて酒毒にうみしその胃肝臓

 

     

 

 夢見るセリフ

 

この別嬪じつは手前の隠し妻いい歳してだ、うらやましかろ

 

 返し

 

青いねえ女子(おなご)蜜味(とろみ)知らないな男そっくりくくむ(うば)(ばな)

 

 

 

下句付

 

下句付は江戸時代の雑俳(古川柳)集『誹風 柳多留』などから比較的有名句を選び出し、それに自作の後句を繋ぎ足して狂歌仕立とする型破りな趣向。形の上では狂詠の禁じ手である「腰折れ歌」となります。

しかし、川柳はもともと用意された後句(七七)に前句(五七五)を付ける「前句付」から発生した文芸だけに、前句に後句を繋げる作句は、抜き身の刀身をあつらえ拵えの鞘に収めるようなもので、あながち邪道とはいえないのです。いや、下二句を継ぎ足すことで、「穿(うが)ち」に「茶化し」が加わり、かえって狂歌並の面白い作品に仕立て直すことも可能です

ただし、下句付を可としうるのは、次の三要件が同時に満たされる場合に限ります。

㈠出題の後句(多くは抽象的な畳句)を凌ぐ出来の後句であること。

㈡前句との呼吸が合い整った完成歌体になっていること。

㈢前句の穿ちをさらに引き出す弾みがついていること。

いずれにせよ、正規の川柳でも狂歌でもないわけですから、言葉遊びの一環と割り切る必要があります。

また、初心者の方は、秀作づくりの練習にはなりますが、この技法をあえて習得する必要はありません。

なお、「 印以降の二句は出題元句、出典名ないものは『誹風 柳多留』です。太字が荻生作の付け足し。                        

 

かみなりを真似て腹がけやつとさせ「こはい事かな〳〵(初篇二)

 

もっと真似ろにまた外すなり

 

 *腹を出したままだと雷公にヘソを取られるという故事にちなみ、幼児に金太郎腹掛けを付けさせようと懸命な親。

 

 

 取上(とりあげ)婆々(ばば)屏風を出ると取まかれ「たづねこそすれ〳〵(初篇三八)

 

付いているかい割れているかい

 

 *取上婆=産婆(助産婦)

 

 

 役人の子はにぎ〳〵をよく覚え「うんのよい事〳〵(初篇七八)

 

袖の下をもつかむ癖だす

 

 

 神代にもだます工面(くめん)は酒が(いり)「手伝にけり〳〵(初篇一〇一)

 

だまされ上手蠎蛇(うわばみ)になる

 

 *スサノオノミコトの八岐大蛇退治の故事をさしている。

 

 

 あら世帯何をやつても嬉しがり「用に立ちけり〳〵(初篇二二四)

 

張子の虎も腰を上げ下げ

 

 *この句、慣用通りに「首を上げ下げ」としたのでは言葉の綾の面白味が薄れてしまう。

 

 

 

 死に切つて嬉しそうなる顔二つ「むつまじひ事〳〵(初篇四一九)

 

新床さぞや蓮華(れんげ)()の上

 

 *元句は男女心中を扱ったもの。

 

 

 母親はもつたいないがだましよい「気をつけにけり〳〵(初篇六一九)

 

極楽往させその振りと知る

 

 *慈愛溢れる騙されぶりに亡母を追善。

 

 

 かし本屋何を見せたか胴づかれ「さかし(こそ)すれ〳〵(初篇三八)

 

その手を食わす好きな蛤

 

 

 江戸ものの生れそこない金をため「じやまなことかな〳〵(十一篇一九)

 

一拍子だに打たずお仕舞い

 

 

 (しめ)ころすぞとおどかす大三十日(おおみそか)「見事なりけり〳〵(十三篇二六)

 

元日(あす)化けやるとおどし返せり

 

 *裏店住人と掛取りの切羽詰ったやりとり。

 

 

 

 女郎買う金をおやぢはためて死に *底本で後句なし。(二十二篇九)

 

供養と息子買いまくるなり

 

 

 賽銭をのんで神輿(みこし)をよろけさせ「次第しだいに〳〵(『柳多留拾遺』四篇七)

 

あとの祭りも出来上がったり

 

 

 業平の(はなし)する妻気に入らず「もつれこそすれ〳〵(享保十七年刊、苔翁評『裏若葉』)

 

鏡さしだし舌も突きだす

 

 

 御人柄すてゝ障子に穴をあけ「いぢのわるさよ〳〵(元文元年刊、収月評『口よせ草』)

 

それまた見入るなんと暇人(ひまじん)

 

 *文彩でいう「活写法」という技法を用いてある。

 

 

 

 名(ばか)りはみな強さうな角力(すまふ)(とり)/清滝「いろいろが(ある)〳〵(寛延元年、「筑丈評万句合」)

 

番付肥し天下八卦よい

 

 

 

 臆病(おくびやう)も金と一緒にふえて来る/はつせ「ぎやうさんな事〳〵(宝暦七年「収月評万句合」)

 

貧乏(びんぼ)(がみ)とてだてにはつかぬ

 

 

 あつさうに蛍をつかむ娘の子/さくら木「もつともな事〳〵(宝暦十一年「川柳評万句合」)

 

転びなさんな騙されるなよ

 

 *古きよき時代の人間関係を浮き彫りに。

 

 

 

雪隠に書かれる顔の美しさ/水せん「はづかしい事〳〵(宝暦十三年「川柳評万句合」)

 

しげしげ見入る尻の重さよ

 

 

 *総括後記、「下句付」は全体の半分以上が借辞という形での下句折返し付けの妙味から、近代には吟社が立つほど人気になった。

 

 

 

 

バレ句付

 

 

バレ句は川柳のうち下半身、いわゆる下ネタを吟じた句の総称で、古典では『誹風 末摘(すえつむ)(はな)』がとして知られていますバレ句作りは、露骨な単語や言い回しはなるべく避けて、婉曲法や代名詞言換え法等を存分に用いるのがコツです。

ここでは独立句とした荻生作の句に、さらに自作の後句を継ぎ足し狂歌に仕上げました。もちろん前掲の後句付とセオリーは同じです。

 

 

処女先生トイレの壁に教えられ。授業のお声上ずったまま

 

 

耳年増鼻ほど大きくないとケチ。いざ鎌倉も垂之介也

 

 

尼やかて下はツルリにおまんねん。露も宿せば毛虱もわく

 

 

貞操も流しますわと質屋後家。周忌(きげん)待たずに腹に利宿す

 

 

親指はいつも愚痴でる不貞寝する。銃後守れと四指発ちにけり

 

 

きついことバイブレーター見習えと。年増の牝の濃く匂う夜

 

 

某温泉宿で

 

ゆで玉子コケコッコーよりうまく産み。お目の保養で湯冷め覚えず

 

 

持参金代りに美女はコブを付け。一人ふやして又移りゆく

 

 

そのごっこエッチな叫びにママあわて。ハンカチかんで川の字崩す

 

 

つや野郎喪服の後家を目で犯し。線香(せんこ)に揺らぐ裸弁天

 

 

 

酔太郎冠者花酒爺 酔詠  十首 

 

 

ワインがブームかい

 

われ愛でり穀つぶし奴を呑みつぶす瑞穂(みずほ)で醸すこのうま酒を

 

 

 

木花咲耶姫に奉納

 

われ男子(をのこ)褌を締めあぐらかき酌みなん美女の口噛みの酒

 

 

 

はぜ釣舟上懐古

 

七つ八つ徳利倒せし汐見酒ダボ一匹(ひとつ)だにあげず愉しき

 

 

中国風誇張で述懐

 

百邸を呑みつぶしたが自慢なり酌家住まいも酔えば玉楼

 

 

動物園ファンの一人として

 

泡くらうのどごし長けり生麦に酒の字付きて麒麟児ぞわれ

 

 *動物園=左党の隠語でキリンビールのこと。メーカーの工場が横浜市生麦にある。

 

 

 

名肴

 

下戸知るや上戸肴の極まりはおつもりあとの一杯の酒

 

 

 

深酒自慢の頃

 

宿酔を二日酔いだと虚仮(こけ)ぬかすおれが浴びかた三日もたせり

 

 

 

唎酒会で

 

にわか利き聞いてあきれる口八丁腹にもきかせこれぞう銘酒

 

 

 

例によって

 

忘年じゃ酒と薬草茶(くすりゆ)チャンポンで肝腎の臓天手古を舞う

 

 

 

題知らず

 

わかめ酒飲み干す前に秘貝酔い大あくびして汐を吹きたり

 

 

 

春情歌(はるつげうた)  雑詠十首

 

  *春情歌では通常、詞書(ことばがき)や詠題を省きます。詠だけで読者の想像を掻き立てる余地を残すためで

 

 

春炬燵足の親指這い出してあと一息できつく抓らる

 

 

 

舞妓はん巾着べべもお持ちどす人じらさんとわてにも着せてぇ

 

 

 

はげ筆めのの字ぬの字で美人妻うらやむ俺はへの字たの字か

 

 

 

千匹のみみず飼いたる姫いずこたずねあぐねて()(ひき)に帰せり

 

 

 

大臣も社長も親分(ボス)もおとつい一日体験(なつてみたいな)美女の陰毛虱(けじらみ)

 

 

 

この()(いぬ)ワンと鳴かずに()と吠え幾世いくよと寿(ことほ)ぎ叫ぶ

 

 

 

牝山羊の四肢六本に化けにけり牧羊神が夕陽の影に

 

 

 

宝船帆をかけ磯の波枕千鳥の(かな)(かた)()波おと

 

 

 

花電車何のことよと人問わばまたにしてよと乗らず逃げゆく

 

 

 

谷地撫でて匂いおこせよ栗の花雄芯(おしべ)萎えても春を忘るな

 

 

 

 

酔太郎冠者酔句集

 

 

 平成某年の長梅雨にうんざりした頭が、愚かにも「一口一句」なる酔句作り(飲酒が主題。十七字句だが川柳とは違い、時事性にとららわれず闊達に表現する)を発想した。日本酒を一口含んで飲み下しながら、その間に一句ずつ作る。一句出来あがるまで次の一口はおあずけ、というルールを課した。

 井原西鶴(164293)が延宝七年五月、生玉の矢数俳諧興行において一昼夜に四千句をものしたという「西鶴大矢数(おおやかず)」はあまりにも有名だが、そのお流れを頂戴しよう、という魂胆である。かの天才の目にも止まらず開いた口もふさがらぬ速吟には及びもつかないが、まあ、そこは遊び心で挑戦してみましょう。

 

井原西鶴「大矢数」

 

 時は雨上がりの八月中旬某日夕刻五時、所は拙宅から歩いて数分、目黒川沿い遊歩道。沢庵和尚(1573~1645)が創建した東海寺が眺められる対岸のベンチに腰をすえる。(ひさご)代わりに途中酒屋で買った四合壜一本、それにグイ飲み・老眼鏡・鉛筆・メモ用紙・コウモリ傘を持参。

 まず、坊主居なけりゃ寺も風流、初手の一句で敬意を表し、

  ○酒無しの糀匂うや東海寺                  

を献じる。

 

 さて、最初の口開け一口。ついでに、目黒川沿い当方側近くにある本光寺・天竜禅寺の泉下の皆々様にも声をかけておこう。

  ○地下の衆化けてでも飲め夏の酒

で、もう一口。

 

 が、今ひとつゾッとしない。自分に吉井勇ほどの才能があったら、肴になる秀歌の一つも披露できるのに。

  ○吉井どのほがいな酒にわれ妬けり

なんて、体裁になってない速成で、また一口ありついた。

 次は何を詠もうか。付近が墓地に囲まれているせいか、気散じが多くていかん。乱酒宴席(ドンチヤンざけ)など思い起こしながら、本腰を据えて作ってみよう。なんせ、まだ三合五勺がとこ待ってるよ。下手な能書きはもう端折っていいから、作れ、がんばれ、そして飲め。

 

  ○宴席は乾杯までが和気藹々

 

  ○頂戴が薦もかぶらず流れ乞い

 

  ○お一ツが七ツになつて質屋逃げ

 

  ○おさかながおぼれちよりますおさえます

 

  ○下座なれば匂ひおこせや酌の花

 

  ○もう一杯お構いあるなあと一杯

 

  ○君づけが声をひそめる無礼講

 

  ○上下に組んずよたりつ腹ン中

 

  ○尾頭は飲めぬが勝にゆきわたり

 

  ○飲み自慢尾ひれをつけて肴にし

 

  ○かわゆいな 勘弁ならぬの腰くだけ

 

  ○出来たこと手締めで立てり酒幽霊

 

  ○下戸衆の神々しさや宴の果て

 

  ○持参酒(おもたせ)で釣られた鯛は青くなり

 

  ○金時めまた燃やしたり見舞酒

 

  ○赤貝のにぎりでちぎる下戸義兄弟(きょうだい)

 

  ○(にい)後家の喪服を透かす通夜の酒

 

  ○宴三つ千鳥で仕舞うおらが春

 

  ○()れたことどどめ色せり朝ぼらけ

 

  ○それほどに水がほしいか酒左衛門

 

 以上、あわせて二十六句。これをもって四合の酒切れとなった。所要時間は一(とき)(二時間)足らず。暮色濃く、アンヨはほろ酔い機嫌。

 

サテ、努力は認めるが出来のほうは箸にも棒にもかからない、とおっしゃる?ナニ、相手は酒だ、箸にも棒にもかかるわけがねエ。

 

《追い酔句の巻》

 カクシテ、一時間ほど中休みをとり、一ッ風呂浴びたら、自宅での延長戦に及んだ。名付けて「一夜漬矢筈吟」作句はメモしたものの、時間も追い酒の量も定かならず。

 

  ○お袋の茶断ちごと呑む不孝酒

 

○湯の中で燗どころだと冷一杯

 

○粗塩の贅を知りたる居枡酒

 

○手花火に玉屋と騒ぐ宵っぷり

 

○朝昼と抜きたり銘酒御参なれ

 

醜女(しこめ)をも近う寄れとは罪な(みず)

 

○銭に病み夢は酒屋を駆け巡る(*途中、買い物に中座す)

 

○ペコちゃんにヨッタラチーと声からめ

 

○西鶴め貴様も酔わば五〇〇句ぞ

 

○赤とんぼ目くるめくずら昼間酒

 

○やんでェで垂らすしずくの量が増え

 

○看板の鼻の(かしら)で仲間入り

 

○宵越しはとうになくなり貰い酒

 

○友来たり酌みてシルバー蒸発す

 

○天の川酒有る星ぞ今いくつ

 

○縁台酒藪蚊打たずにお裾分け

 

○雷公へ臍酒垂らす独り呑み

 

○精進を落とすが前の墓前酒

 

○名月じゃ酌むぞあちゃ往ね団子どの

 

○秋ぞろり神輿すえたる赤天狗

 

○退屈な法話にまさる般若湯

 

○梅が香を熟柿の息で東風(こち)吹かし

 

○大揺れも張りのないこと二日酔

 

○野犬串バクダン酎でよく生きた

 

○百邸を呑んだが如し朱羅の(つら)

 

○万丈の雪をも溶かす腹景色

 

ご隠居にむかっ腹たてイッキ飲み

 

○老妻の皺の数ほど酔死せり

 

○乾き世ぞ気違い水に溺れけり

 

○ベンチ酒聞くやカラスの嬲り啼き

 

○除夜の鐘のんのん(うつつ)百八つ

 

○仁王様素面でにらむ野暮も居り

 

○注ぎっぷり出世するぞでこぼさせる

 

○筑紫酒酌み尽くすまで黒田節

 

○素面ではそれ見よ王手すぐやられ

 

○草競馬取られてすする馬糞(まぐそ)

 

(うさ)(ひめ)やはよ降りてきて酌をせい

 

竜宮(うなそこ)じゃどうやって飲むわかめ酒

 

黄泉(よみ)もまた養老の滝あれぞかし

 

○閻魔殿酒酔い地獄はござらぬか

 

我骸(なきがら)は養老漬けと申し置く

 

○ばあさんや酒買ってこなきゃモウ詠まぬ