まずは、お笑いの一席「当今(うきよは)辞世(じせい)流行(ばやり)

 

水酉薫香二世口述 

 

  ●舞  台  平成××年春彼岸の日、東京近郊の某霊園

 

  ●登場人物  おなじみ、熊公に八公

 

 

熊公「なァ八よ、先代の大家(おたな)も、()っちまってから十年か。こうして墓参りのたんび、なつかしくなるなァ」

 

八公「ウン、小言(ぶつくさ)も聞けなくなっちまって寂しいや。ソラ、墓石に苔が生えてやがる。見ろや、熊」

 

熊「まったくだ。古狸、いやさ仏様も貫禄がついてきたってことよ。そうさナ、せっかくの供養だ。ご隠居の例の辞世、お経代わりに唱えてやろうや」

 

八「よしきた」

 

熊・八「せェーの、

 

 ただ一つ残す気がかり熊ッ八 大家なしとて店賃(やちん)忘るな」

 

八「チトきついが、ジーンとくらァ。ナンマンダブ」

 

熊「ナンマンダブ。ところで、と。左隣は松尾バナナさんの墓だな」

 

八「川柳作者で、大の道楽もんだった、ってな。なるほど、辞世句も大笑いの福笑い、

 

  妓楼(さと)に病んで夢は枕を駆けめぐる

 

だと。どっかで聞いたのに似ているし、いかさまいささか品がない」

 

熊 「八の字よ、おめえみてェだ」

 

八「おきァがれ。で、熊公。右隣さんは?」

 

熊「墓石には、平成の狂歌師 水酉薫香之墓 としてある。」

 

八「水に酉たァ、サンズイにヒヨミトリだから、酒かい。あんまりきかざる日光結構なご尊名だけど、辞世のほうはどうだい」

 

熊「ああ、こう彫ってある。

 

 会葬(とむらい)も華経も南無用(つめ)た身に 冥酒一升かんで抱かせよ」

 

八「なァる、ほど……。葬式も坊さんの読経も、供物や花もいらない。代りに、御棺のなかで冷えた体に燗をした一升瓶かかえて往きたい、ッてな洒落だぜ。こりゃいい、いかにも飲ン兵衛らしい辞世だ」

 

熊「ブルルッ!底冷えしやがる。おい、さっそく精進落しに一杯やらかすか」

 

八 「待ってました。そうこなくちゃあ。こちとら(あつ)ったか身よ、冷やでいい」