辞世詠901 梅原彰 うめはらあきら 

 

何やらん熱き流れがほとばしり 涙おとしぬ壮行の日に

 

●陸軍特別攻撃隊鉄心隊隊長で少尉。昭和十九年(1944)十二月十日比島レイテ湾で戦死、享年二十。

 

 

辞世詠902 石塚茂 いしづかしげる 

 

たらちねの母の御教え一筋に 我は征くなり南溟の空

 

●第九神風金剛隊上飛曹。昭和十九年(1944)十二月十五日比島ミンドロ島で戦死、享年二十二。

 

 

辞世詠903 涌井俊郎 わくいとしろう 

 

殉星に散る大空の武士は 務めは重く身は軽きかな

 

●陸軍飛行第五六戦隊中尉。昭和二十年(1945)一月三日、名古屋市上空でB29に体当たり戦死、享年二十二。

 

 

辞世詠904 住野英信 すみのひでのぶ 

 

今日在りて明日の命は知れぬ身に 静かに虫の鳴く音聞こゆる

 

●増援神風特攻隊第二十六金剛隊中尉。昭和二十年(1945)一月九日、比島リンガエン湾で戦死、享年未詳。

 

 

辞世詠905 久津間寛 くつまひろし 

 

君征くか俺も征くぞと肩とりて 学びの友としばし声なく

 

●学徒出陣兵。昭和二十年(1945)一月十日、比島で戦死、享年十七。

 

 

辞世詠906 佐藤喜佐男 さとうきさお 

 

国想ふ心いかにと問ふなかれ 親にそむきて悔やまれん宵

 

●陸軍伍長候補生。昭和二十年(1945)一月十二日、仏印沖で戦死、享年二十三。

 

 

辞世詠907 石川誠三 いしかわせいぞう 

 

母上よ消しゴム買ふよ二銭給へと 貧をしのぎしあの日懐かし

 

●海軍金剛隊イ五八潜乗組み中尉。昭和二十年(1945)一月十二日、グアム島アブラ港にて回天で戦死、享年二十一。

 

 

辞世詠908 田中正二 たなかしょうじ 

 

敷島の道に祈りしちちのみの 遺言思へばここだかなしも

 

●無名戦士扱い。昭和二十年(1945)一月輸送船とともに揚子江で水没し戦死、享年二十一。

 

 

辞世詠909 吉沢平吉 よしざわへいきち 

 

大君の御楯とあらば何惜しまむ 雲染目散なむ翼なりせば

 

●陸軍飛行第四七戦隊中尉。昭和二十年(1945)二月十日太田市上空でB29に体当たり戦死、享年二十三。

 

 

辞世詠910 根尾久男 ねおひさお 

 

いさみ来て今に思へばかなしけり なが年月の父の恩愛

 

●神風特攻隊菊水梓隊中尉。昭和二十年(1945)三月十一日西カロリン・ウルシー泊地で戦死、享年二十四。

 

 

辞世詠911 栗林忠道 くりばやしただみち 

 

仇討たで野辺には朽ちじわれはまた 七度生れて矛を執らむぞ

 

●陸軍大将で、硫黄島最高司令官。昭和二十年(1945)三月二十三日硫黄島で戦死、享年五十五。

*もう一首の辞世があり、

辞世詠911-二 国の為重きつとめを果たし得で矢弾尽き果て散るぞ口惜しき

 

 

辞世詠912 高橋晋二 たかはししんじ 

 

清き空汚さじとこそ身を捨てて 火箭(ひのや)となりて国護るわれ

 

●陸軍誠第三九蒼竜隊少尉。昭和二十年(1945)三月三十一日那覇市西方洋上で戦死、享年二十三。

 

 

辞世詠913 古市敏雄 ふるいちとしお 

 

千早振る神の御加護にわれは今 広きみそらを一人()(ばた)く 

 

●海軍菊水大一八幡護里艦爆撃隊少尉。昭和二十年(1945)四月六日沖縄北中飛行場沖で戦死、享年二十二。

 

 

辞世詠914 柏村成太郎 かしむらせいたろう 

 

朝夕に鍛へし腕の晴れ姿 今日は護国の花と散るべし

 

●海軍菊水第一草薙隊二飛曹。昭和二十年(1945)四月六日沖縄北中飛行場沖で戦死、享年十九。

 

 

辞世詠915 坂本宣道 さかもとのぶみち 

 

うつせみのかろき命と思へども 父母君の悩み悲しも

 

●海軍甲飛一三期二飛曹。昭和二十年(1945)四月七光基地沖で回天出撃訓練中に戦死、享年十八。

 

 

辞世詠916 西本政弘 にしもとまさひろ 

 

ぜいたくだ花より先と思ひしに 又も見てゆくあの桜花

 

●海軍菊水第五健武隊一飛曹。昭和二十年(1945)四月十一日喜界島南方で戦死、享年二十一。

 

 

辞世詠917 穴沢利夫 あなざわとしお 

 

わが生命につらなるいのちありと(おも)へば いよいよまさりて悲しさ極む

 

●陸軍第二十振武隊少尉。昭和二十年(1945)四月十二日沖縄周辺洋上で戦死、享年二十三。

 

 

辞世詠918 倉 潔 くらきよし 

 

わが神がわれに賜る死に所 みたてとなりて吾は行くなり

 

●陸軍第六十二振武隊曹長。昭和二十年(1945)四月十二日沖縄西方洋上で戦死、享年二十六。

 

 

辞世詠919 佐々木八郎 ささきはちろう 

 

日のもとをあや匂はせて逝く春と ともに散らなむ若桜花

 

●海軍少尉で、昭和隊員。昭和二十年(1945)四月十二日徳之島南方洋上で戦死、享年二十三。

 

 

辞世詠920 梅村要二 うめむらようじ 

 

錦着て白木の箱で九段坂 いざ吾征かん特攻隊へ

 

●陸軍第七十五振武隊伍長。昭和二十年(1945)四月十三日沖縄周辺洋上で戦死、享年十九。

 

 

辞世詠921 石田三郎 いしださぶろう 

 

ソロモンの大空に果てし兄追ひて 我も散らんぞ南の空に 

 

●海軍菊水三号第八健武隊一飛曹。昭和二十年(1945)四月十六日喜界島南東沖で戦死、享年二十一。

 

 

辞世詠922 熊井常郎 くまいつねろう 

 

新しき光に生きんをさな子の 幸を祈りて我は散らなむ

 

●海軍菊水三号第二正統隊少尉。昭和二十年(1945)四月二十八日沖縄本島周辺で戦死、享年二十二。

 

 

辞世詠923 宮内栄 みやうちさかえ 

 

天照らす神の光を仰ぎつつ 神つ学徒と我は出で立つ

 

●海軍菊水三号第三草薙隊少尉候補生。昭和二十年(1945)四月二十八日沖縄周辺で戦死、享年二十一。

 

 

辞世詠924 光山文博 みつやまふみひろ 

 

たらちねの母のみもとぞしのばるる 弥生の空の春霞かな

 

●海軍第五一振武隊少尉。昭和二十年(1945)五月十一日沖縄飛行場西海上で戦死、享年二十五。

 

 

辞世詠925 木村義任 きむらよしたか 

 

両親の写し姿を胸にして 我は散りなん太平洋に

 

●陸軍飛行第六六戦隊軍曹。昭和二十年(1945)五月十七日沖縄周辺で戦死、享年未詳。

 

 

辞世詠926 半田良平 はんだりょうへい 

 

一夜寝ば明日は明日とて新しき 日の照るらむを何か嘆かむ

 

●歌人で教師。昭和二十年(1945)五月十九日病没、享年五十九。

 

 

辞世詠927 速水修 はやみおさむ 

 

若桜散り行く身はも只花の 薫りを我が家に止めおくらん

 

●陸軍第五〇振武隊少尉。昭和二十年(1945)五月二十日沖縄周辺洋上で戦死、享年二十二。

 

 

辞世詠928 藤井乙男 ふじいおとお 

 

わがかへる命の酒にのみたりて けふの一日の長閑かりける

 

●国文学者で俳人。昭和二十年(1945)五月二十三日病没、享年七十八。

 

 

辞世詠929 橋正豊次 はしまさとよじ 

 

故郷の乙女の千人針抱きしめ 春の盛りを大空に散る

 

●陸軍第二一四振武隊伍長。昭和二十年(1945)六月三日沖縄周辺で戦死、享年二十一。

 

 

辞世詠930 永島福次郎 ながしまふくじろう 

 

亡き友の写真(うつしえ)だきて我は征く 護りておくれ花と散るまで

 

●陸軍第二六振武隊少尉。昭和二十年(1945)六月二十二日沖縄周辺で戦死、享年二十三。

 

 

辞世詠931 金丸亨 かなまるとおる 

 

雄々しくも強く言ひさり来つれども うたげの宵ぞ忘れかねつる

 

●陸軍第一七九振武隊少尉。昭和二十年(1945)六月二十二日沖縄周辺で戦死、享年二十二。

 

 

辞世詠932 溝口幸次郎 みぞぐちこうじろう 

 

恋を知らず乙女を知らず一筋に ()の子わびしも国恋ふわれは

 

●海軍菊水十号第一神雷爆撃隊少尉。昭和二十年(1945)六月二十二日沖縄周辺で戦死、享年二十二。

 

 

辞世詠933 牛島満 うしじまみつる 

 

秋を待たで枯れゆく島の青草は 皇国の春に蘇へらなむ

 

●陸軍大将。昭和二十年(1945)六月二十三日自刃、享年五十九。

*沖縄の本土防衛戦で米軍に追い詰められ本島南端の洞窟内で自決した。

辞世詠934 山口清三郎 やまぐちせいざぶろう 

 

神風や嵐を恋えて靖国の 神苑(しんえん)に咲く白菊の花

 

●海軍第五白菊隊二飛曹。昭和二十年(1945)六月二十五日沖縄周辺で戦死、享年二十四。

 

 

辞世詠935 ひめゆり部隊 ひめゆりぶたい 

 

いわまくらかたくもあらんやすらかに ねむれとぞいのるまなびのともは

 

●昭和二十年(1945)の太平洋戦争末期、苛烈な沖縄戦のあおりを受け悲劇的最期を遂げた沖縄第一高女・沖縄女子師範の女子学生二一一人、職員十六人の霊を合祀すべく「ひめゆりの塔」が建てられた。掲出はその碑に刻まれた歌である。

 

 

辞世詠936 川尻勉 かわじりつとむ 

 

気は澄みて心のどけき今朝の空 散り行く身とはさらに思はず

 

●海軍多聞隊一飛曹。昭和二十年(1945)七月二十九日沖縄海域にて回天で戦死、享年十七。

 

 

辞世詠937 浅見有一 あさみゆういち 

 

言賜ひし母のみ顔につひにいま 涙ににじむを見て出でて来ぬ

 

●陸軍中尉。昭和二十年(1945)七月に内地防空戦で戦死、享年二十七。

 

 

辞世詠938 阿南惟幾 あなみこれちか 

 

大君の深き恵に(あみ)し身は 言ひ遺こすへき片言もなし

 

●陸軍司令官で陸相。昭和二十年(1945)八月十五日自刃、享年五十九。

 

*彼は本土決戦を主張したが、終戦の詔勅が下った日に、戦局判断を誤った責任を取り自刃した。

 

 

辞世詠939 橋口寛 はしぐちひろし 

 

みいくさのふるわぬ夕べ甲板に つるぎをとりて涙を払ふ

 

●海軍大尉。昭和二十年(1945)八月十八日自刃、享年二十一。

 

*平生基地から人間魚雷「回天」で出撃の途中、終戦の報に接し船内で自決した。

 

 

辞世詠940 平野和美 ひらのかずみ 

 

散る散らず咲くや咲かずや天地の すめら命の御声のまにまに

 

●元陸軍中尉。昭和二十年(1945)八月二十二日フィリピンで抗戦死、享年二十四。

*当時わが国の敗戦がにわかに信じられず、各戦地で抗戦し散った将兵は少なくなかった。

 

 

辞世詠941 河上肇 かわかみはじめ 

 

今ははや再び起たん望みなし いざや静かに死を迎えなん

 

●社会思想家で経済学者。昭和二十一年(1946)一月三十日病没、享年六十八。

 

 

辞世詠942 山下奉文 やましたともゆき 

 

待てしばしいさを残してちりし友 あとな慕ひて我もゆきなむ

 

●元陸軍大将。昭和二十一年(1946)二月二十三日マニラで刑死、享年六十二。

 

 

辞世詠943 木村久夫 きむらひさお 

 

風も凪ぎ雨もやみたりさはやかに 朝日をあびて明日は出でまし

 

●元学徒動員兵。昭和二十一年(1946)五月二十三日刑死、享年二十六。

*シンガポールで現地通訳を務めたが、戦犯として処刑された。

 

 

辞世詠944 前田林外 まえだりんがい 

 

墓標(はかじるし)揚げ羽の蝶は我が家の 紋どころなりなつかしきかも

 

●詩人。昭和二十一年(1946)七月十三日病没、享年八十三。

*東京の青山墓地に歌碑として残された遺詠。

 

 

辞世詠945 茅野雅子 ちのまさこ 

 

またの世もそのまたのよもあやまたぬ 世をえらびつつほのかなるみちゆかむ

 

●歌人。昭和二十一年(1946)九月二日病没、享年六十七。

*夫の死後四日後に後を追うように逝去した際の作品。

 

 

辞世詠946 白瀬矗 しらせのぶ 

 

我れ無くも必ず探せ南極の 地中の宝世にい出すまで

 

●陸軍中尉で、南極探検家。昭和二十一年(1946)九月四日病没、享年八十六。

 

 

辞世詠947 江口章子 えぐちあきこ 

 

ゆるされぬぜいたくか知らぬ二日三日 しらみの床をかへて死にたし

 

●北原白秋の元妻。昭和二十一年(1946)に病没、享年五十九。

 

 

辞世詠948 浅井正 あさいただし 

 

水枕身じろぐたびに音たてて 夏の記憶を思ひ出さしむ

 

●歌人。昭和二十一年(1946)病没、享年二十四。

 

 

辞世詠949 幸野羊三 こうのようぞう 

 

いまにして薬の(しろ)に代ふものか 温室ガラス剥ぐ日いたりぬ

 

●花卉栽培業で歌人。昭和二十一年(1946)病没、享年五十。

 

 

辞世詠950 斎田丑之助 さいだうしのすけ 

 

うつらうつら米昼もなく眠りをり 生命はかくも細りつつをり

 

●国鉄職員で歌人。昭和二十一年(1946)病没、享年四十六。

 

 

辞世詠951 町田佐朶子 まちださだこ 

 

ある夜に夫にたかぶりてうつたふる 病む身の炎われと(あや)しく

 

●歌人。昭和二十二年(1947)に病没、享年三十二。

 

 

辞世詠952 近藤新八 こんどうしんはち 

 

空蝉の身は広東(カントン)(たふ)るとも 天翔(あまかけ)りなむ我が荒魂は

 

●元陸軍中将。昭和二十二年(1947)に広東で刑死、享年五十四。

 

 

辞世詠953 小名木綱夫 おなぎつなお 

 

我が母が芯を丈夫に生みくれし 母の子われはいまなほ死なず

 

●歌人。昭和二十三年(1948)三月十九日没、享年三十八。

 

 

辞世詠954 福田夕咲 ふくだゆうさく 

 

伊波野なる 沼の水の面に 白くもの 宇津良布みれば さざろさびしき

 

●詩人。昭和二十三年(1948)四月二十六日病没、享年六十三。

 

*飛騨高山の天神山に建つ歌碑の詠歌。

 

 

辞世詠955 太宰治 だざいおさむ 

 

池水は濁りににごり藤なみの 影もうつらず雨ふりしきる

 

●小説家。昭和二十三年(1948)六月十三日心中、享年三十九。

*玉川上水で愛人と心中した。掲出は彼が死に際に書き残した伊藤左千夫の歌という。

 

 

辞世詠956 今井邦子 いまいくにこ 

 

高山の雲の動きは常なけれ 心にとめて我は寂しむ

 

●歌人。昭和二十三年(1948)七月十五日病没、享年五十九。

 

*常住地であった東京都文京区白山寂円寺ほか各地にいくつか歌碑が残っているが、この詠は故郷諏訪湖畔に建つもの。

 

 

辞世詠957 土居原賢二 どいはらけんじ 

 

有無の念いまは全くあとたちて 今日このころの秋晴の如し

 

●元陸軍大将。昭和二十三年(1948)十二月二十三日東京軍事裁判でA級戦犯として刑死、享年六十六。

 

 

辞世詠958 東条英機 とうじょうひでき 

 

さらばなり有為(うゐ)の奥山今日越えて 弥陀のもとに行くぞうれしき

 

●元首相。昭和二十三年(1948)十二月二十三日東京軍事裁判でA級戦犯として刑死、享年六十五。

 

 

辞世詠959 板垣征四郎 いたがきせいしろう 

 

大神の御魂の前にひれ伏して ひたすら深き罪を乞ふなり

 

●元陸軍大将。昭和二十三年(1948)十二月二十三日東京軍事裁判でA級戦犯として刑死、享年六十四。

 

 

辞世詠960 山崎晃嗣 やまざきあきつぐ 

 

望みつつ心安けし散るもみぢ 理知の命のしるしありけり

 

●ヤミ金融会社の学生社長。昭和二十四年(1949)十一月二十四日自殺、享年二十八。

*会社「光クラブ」が倒産し、行き詰まって青酸カリを服毒した。

 

 

辞世詠961 伊藤たみ子 いとうたみこ 

 

はれ上りしわがまなぶたをかはるがはる くすしが開かすもう死ぬるのか

 

●主婦で歌人。昭和二十四年(1949)病没、享年三十八。

 

 

辞世詠962 相馬御風 そうまぎょふう 

 

虫どもの冬眠のさまを時として まぼろしに描きたのしむわれは

 

●詩人で文芸評論家。昭和二十五年(1950)五月八日病没、享年六十六。

 

 

辞世詠963 東郷茂徳 とうごうしげのり 

 

人の世は風に動ける波のごと そのわだつみの底は動かじ

 

●元外務大臣。昭和二十五年(1950)七月二十三日病没、享年六十九。

A級戦犯として服役中に病死した。

 

 

辞世詠964 楠山正夫 くすやままさお 

 

あかつきおきあつき牛乳くるる妻 なむじあい聖母とをろがみまつる

 

●演劇評論家で児童文学者。昭和二十五年(1950)十一月二十六日病没、享年六十七。

*闘病生活中に詠じた妻の看護への謝辞遺詠。

 

 

辞世詠965 金子薫園 かねこくんえん 

 

寺々のかねのさやけく鳴りひびき かまくら山に秋かせの満つ

 

●歌人。昭和二十六年(1951)三月三十日病没、享年七十六。

*鎌倉市高徳院で自分の手で刻んだ歌碑の遺詠である。

 

 

辞世詠966 前田夕暮 まえだゆうぐれ 

 

生き足りてみまかりし吾の死顔 微笑たたへてとこ静かなり

 

●歌人。昭和二十六年(1951)四月二十日病没、享年六十九。

 

 

辞世詠967 永井隆 ながいたかし 

 

白ばらの花より香り立つごとく この身をはなれ昇りゆくらむ

 

●医学者。昭和二十六年(1951)五月一日病没、享年四十三。

 

*長崎での被爆で白血病にかかり死亡。病床記『長崎の鐘』はベストセラーに。

 

 

辞世詠968 岡 麓 おかふもと 

 

つれだちて逝けりとならばいとせめて なぐさまましをわが妻わが子

 

●歌人で書家。昭和二十六年(1951)九月七日病没、享年七十五。

*便箋に残された遺詠八首の一。

 

 

辞世詠969 木村光太郎 きむらこうたろう 

 

六尺の臥床に思ひかけめぐる 総てをいまだあきらめ切れず

 

●会社員で歌人。昭和二十六年に病没、享年四十。

 

 

辞世詠970 土井晩翠 どい(つちい)ばんすい 

 

身にあまるほまれをうけて唯なみだ 感謝をさゝぐ一切の恩

 

●詩人で英文学者。昭和二十七年(1952)十月19日病没、享年八十二。

*いくつかある詩碑の一つにある一首。仙台青葉城跡に建てられた「荒城の月」を記念した際の遺詠である。

 

 

辞世詠971 若木規夫 わかぎのりお 

 

血尿垂りモルヒネ中毒となり 死を待つ特攻隊員たりしわが末路

 

●伝未詳も、昭和二十七年(1952)病没。

 

 

辞世詠972 斎藤茂吉 さいとうもきち 

 

いつしかも日がしづみゆきうつせみの われもおのづからきはまるらしも

 

●歌人。昭和二十八年(1953)二月二十五日病没、享年七十二。

 

 

辞世詠973 三井甲之 みついこうし 

 

ますらをのかなしきいのちつみかさね つみかさねまもるやまとしねまを

 

●国家主義の歌人。昭和二十八年(1953)四月三日病没、享年六十九。

 

 

辞世詠974 斉藤瀏 さいとうりゅう 

 

(いき)にほこり(しに)にほこりて現身(うつしみ)の わが尊さを行き(とほ)してむ 

 

●軍人で歌人。昭和二十八年(1953)七月五日病没、享年七十四。

 

 

辞世詠975 釈迢空〔折口信夫〕 しゃくちょうくう 

 

いまははた 老いかがまりて 誰よりも かれよりも低き しはぶきをする

 

●国文学者・民俗学者で歌人。昭和二十八年(1953)九月三日病没、享年六十六。

 

 

辞世詠976 村松信郎 むらまつのぶろう 

 

胸のうち(から)になれと喀き喀くに はや堪へがたし血汐のにほひ

 

●教師で歌人。昭和二十八年(1953)病没、享年28

 

 

辞世詠977 中城ふみ子 なかじょうふみこ 

 

灯を消してしのびやかに隣に来るものを 快楽(けらく)の如くに今は()らしつ

 

●歌人。昭和二十九年(1954)八月三日病没、享年三十三。

 

 

辞世詠978 尾崎行雄 おざきゆきお 

 

正行が敵に臨める心もて 我は立つなり演壇の上

 

●政治家。昭和二十九年(1954)十月六日病没、享年九十七。

 

 

辞世詠979 下村湖人 しもむらこじん 

 

大いなる道といふもの世にありと 思ふこころはいまだも消えず

 

●教育者で小説家。昭和三十年(1955)四月二十日病没、享年七十。

 

 

辞世詠980 会津八一 あいづやいち 

 

わたつみ の そこゆく うを の ひれ に さへ ひびけ このかね のりの みため に

 

●歌人で詩人。昭和三十一年(1956)十一月二十一日病没、享年七十六。

 

 

辞世詠981 米田雄郎 よねだゆうろう 

 

もう一年生きうれば生きむねがひをもち 妻と見ている春陽ざしの庭

 

●滋賀県極楽寺の住職。昭和三十四年(1959)三月五日病没、享年六十九。

 

 

辞世詠982 吉井勇 よしいいさむ 

 

京に老ゆ若狭かれひのうす塩を こよなき酒の肴とはして

 

●歌人。昭和三十五年(1960)十一月十九日病没、享年七十五。

*遺詠のうちの一首。

 

 

辞世詠983 谷崎潤一郎 たにざきじゅんいちろう 

 

春の日の草をしとねの夢さめず はや(きり)の葉に秋の風吹く

 

●小説家。昭和四十年(1965)七月三十日病没、享年八十。

 

 

辞世詠984 窪田空穂 くぼたうつほ 

 

まつはただ意志あるのみの今日なれど (まなこ)つぶればまぶたの重し

 

●大学教授で歌人。昭和四十二年(1967)四月十二日病没、享年九十一。

 

 

辞世詠985 吉野秀雄 よしのひでお 

 

神妙(しんべう)に──なーもーわあーみーだーぶちー 唱うれど辺地懈慢(へんちげまん)も覚束なわれは

 

●歌人。昭和四十二年(1967)七月十三日病没、享年六十五。

*次も遺詠である。

 

辞世詠985-二 今ははや生も死もなし苦しめる物体一個宙に釣り下がる

 

 

辞世詠986 正富汪洋 まさとみおうよう 

 

いかばかりわれをののしりたまふとも 臨終(いまは)のうたも君を讃へて

 

●詩人で歌人。昭和四十二年(1967)八月十四日病没、享年八十六。

 

 

辞世詠987 山下陸奥 やましたむつ 

 

寝台をつたひて一歩一歩あゆみたり この微かなる一歩尊しも

 

●学校講師で歌人。昭和四十二年(1967)八月二十九日病没、享年七十三。

 

 

辞世詠988 大村呉楼 おおむらごろう 

 

病食の重湯の中にくれないの 梅干ひとつ沈むかなしみ

 

●新聞社社員で歌人。昭和四十三年(1968)八月一日病没、享年七十四。

 

 

辞世詠989 金田一京助 きんだいちきょうすけ 

 

道のべに咲くやこの花花にだに えにしなくしてわが逢ふべしや

 

●言語学者。昭和四十六年(1971)十一月十四日病没、享年八十九。

 

 

辞世詠990 浜田広介 はまだひろすけ 

 

病み伏してしづかにきくかくりやべに 老いにし妻が薬を刻む音

 

●児童文学者。昭和四十八年(1973)十一月十七日病没、享年八十一。

 

 

辞世詠991 福田栄一 ふくだえいいち 

 

ほほえみてうなづきくるる如くにて 冬のすずらんの花もはかなく

 

●歌人。昭和五十年(1975)二月九日病没、享年六十七。

 

 

辞世詠992 松村英一 まつむらえいいち 

 

左様ならが言葉の最後耳に留めて 心しずかに(われ)を見給え

 

●歌人。昭和五十六年(1981)二月二十五日病没、享年九十一。

 

 

辞世詠993 斎藤喜博 さいとうきはく 

 

七十歳まで生きるをわれは願ひ来ぬ 七十歳は長かったかも知れない

 

●教育者。昭和五十六年(1981)七月二十四日病没、享年七十。

 

 

辞世詠994 寺山修司 てらやましゅうじ 

 

死ぬならば真夏の波止場あおむけに わが血怒涛となりゆく空に

 

●劇作家で歌人。昭和五十八年(1983)五月四日病没、享年四十七。

 

 

辞世詠995 高安国世 たかやすくによ 

 

大いなる風より来たれる我なれば 息引き取らるることを恐れず

 

●ドイツ文学者で歌人。昭和五十九年(1984)七月三十日病没、享年七十。

 

 

辞世詠996 葛原妙子 くずはらたえこ 

 

月差さば先ず爪を切れ 爪切るを邃き眠りの約束として

 

●歌人。昭和六十年(1985)九月二日病没、享年七十八。

 

 

辞世詠997 坪野哲久 つぼのてっきゅう 

 

さくらさくら人のこの世の花なれば じねんに咲きてじねんにし散れ

 

●歌人。昭和六十三年(1988)十一月九日病没、享年82

 

 

辞世詠998 上田三四二 うえだみよじ 

 

照りかはし()びかはしつつ夕雲と 紅葉(こうえふ)と涅槃のいろはきまりぬ

 

●評論家で歌人。平成元年(1989)一月八日病没、享年六十五。

 

 

辞世詠999 河野愛子 こうのあいこ 

 

思ひゐし尊厳死宣言におのが名を書きて 静まる夜のありにけり

 

●歌人。平成元年(1989)八月九日病没、享年六十六。

 

 

辞世詠1000 斎藤史 さいとうふみ 

 

曼珠沙華葉を纏ふなく朽ちはてぬ 咲くとはいのち曝しきること

 

●歌人。平成十四年(2002)四月二十六日病没、享年九十三。